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【SXLP5期レポート#4 チームSC(ソーシャル・キャピタル)】交流が自然と生まれるサードプレイスとしての観戦~人々の幸福度を底上げするシステムの起点としてのスポーツ~

現在、Sports X Initiative(以下、SXI)では、Sports X Leaders Program(以下、SXLP)6期の参加者を募集しています(4/21(金)23:59(JST) 締切)。
★募集要項はこちら!

過去のSXLP参加者たちがどのような問いを立て、システムデザイン思考を用いて議論やワークをし、最終的なアウトプットをしたのか、ぜひご覧ください。
※本原稿はSXLP5期終了時に執筆していただいた内容です。


皆さん、こんにちは。Sports X Leaders Program(以下SXLP)5期生のチームSC(ソーシャル・キャピタル)です。

チームSCは、スポーツ観戦の場が持つ「交流が生まれるサードプレイス」としての可能性をもっと活かすことで、観客も選手・スポーツチームも一層Happyになるのではないか?という思いを起点にテーマを設定し、取り組みました。

では、実際に何に取り組んだか、取り組んだ結果何が見えたか、そして、そこに至るプロセスはどうだったのか。それらについて以下でお伝えします。
その中で、なぜチーム名をSC(ソーシャル・キャピタル)にしたかも徐々に見えてきますので、ここではチーム名の詳細な説明は割愛します。(最後に説明を記載しています。)

本稿は、主に次の2つの目的で執筆しています。

【A】 チームSCのSXLPでの取組み結果を広くお示しすること。
それにより、プログラムの終了で一区切りはしたものの、今後具現化に向けてさらに取組みを進化/深化させていくうえで、本件に関心がある方々(個人、スポーツチーム、企業、自治体など)と繋がること。

【B】 SXLPに関心を持つ皆さんに、チームSCで取り組んだ内容、その結果やプロセスをお伝えすること。
それにより、「SXLPがどのようなプログラムか」の理解の一助となること。

この異なる2つの目的に対して、次の構成でお伝えしていきます。

構成(目次)

1. メンバー紹介、チームSC立ち上げの経緯
2. 課題意識
3. 課題に対して実現したいこと
4. 今後について
5. 途中のプロセス:3つのターニングポイント

1. メンバー紹介、チームSC立ち上げの経緯

【メンバー紹介】

チームSCは、いずれも企業の一員としてスポーツと何らかの関わりを持ってきたメンバーです。

■ 石戸 健
企業でスポーツチームのスポンサーのアクティベーションを担当。スポンサードしている横浜F・マリノス、リバプールのサポーター。

■ 大島 由佳
シンクタンクで調査・レポート執筆に従事。人的資本経営や、企業経営とスポーツとの関係などについて調査。フットサルFリーグやサッカーの観戦が好き。

別チーム<BondAmp>でも課題に共に取り組んだメンバーです。両チームのテーマや互いの関心に重なる部分がありました。また、2チームで課題に取り組んだことで、一方のチームでの気付きを他方のチームで活かし合うことができた点が、私たちの強みでした。

【チームSC立ち上げの経緯】

このテーマでチームSCを立ち上げた理由は、一言でいうとメンバー(大島)の原体験によるものです。
それは、数年前に友人に誘われフットサルFリーグの試合を初めて観戦した日に遡ります。
初めてのFリーグ観戦に少し緊張しながら会場に足を踏み入れました。しかし緊張はすぐにほぐれました。

というのも、隣席のお子さんが好きな選手を笑顔で語ってくれてほっこりしたり、間近で繰り広げられる迫力あるプレーに引き込まれたりしたからです。
その後も観戦の度、普段出会わない人と縁あって隣り合って交流しながら試合を愉しむ機会に恵まれました。目の前のプレーと相まって、オープンな気持ちで時間・空間を観客の方々と共有する心地よい体験をしました。普段の生活から一歩離れた時間・空間と人との交流は、日常を一歩引いて眺められる点で、日常にも好影響を与えました。
この体験から、観戦の場、特に小規模で全体の距離感も近く、街の中で行われる体育館競技が持つ可能性を感じました。

一方で、観客数は「座席数の半分が埋まっているかどうか」という状況でした。
スポーツ観戦の場が持つ可能性をより活かすことで前向きに暮らせる人々が増えるのでは?スポーツチームも喜び、試合も盛り上がるのではないか?と考えました。

そんな原体験を聞き、「なぜ人はスポーツを観るのかという問いへの答えが見つけられるのでは?」という期待、抽象度が高いテーマをどう進め・深めるかに対する関心から、ありがたいことにメンバー(石戸)が参加してくれました。

2. 課題意識

「スポーツ観戦の場は大勢の多様な人が集まる。にもかかわらず、観客の緩い繋がりを生む交流の場として活用されていない。」

上記が私たちが「最終的に」設定した課題です。(図表1)
(「最終的に」と言っているのは、途中に試行錯誤のプロセスがあったためです。)

図表1

ではなぜチームSCは、スポーツ観戦の場が「観客の緩い繋がりを生む交流の場」として活用されることに価値があると考えたのか。それは、観戦の場を構成する主体である「観客」と「スポーツチーム」を取り巻く環境から見えてきた現状によります。

まず、観客である「社会で暮らす人々」についてです。
日本では人々の幸福度が国際的にみて低いという調査結果は、しばしば報道などで見聞きしていました。
詳細に調べてみると、「日本は社会との繋がり・交流が少ない」、「日本は人間関係が家族と職場に集中している。社会に出てから人間関係が広がらない。」「繋がりが多い人ほど幸せを感じている割合が高い。」といった調査データが出てきました。

次に、「スポーツチーム」については、実際にFリーグのスポーツチームにヒアリングをさせていただきました。
そこで見えてきたのは、観客の観戦体験をより良くしたいけれども、人手が限られていて、目の前の試合運営以外に力を注ぐことが難しいという現状でした。そのような事情もあって、観客間で起こる「交流」への視点をスポーツチームが持つ機会はそうそうない点もわかりました。

これら両者の現状と、メンバーによる原体験などから、
スポーツ観戦の場は、
観客は、楽しいと感じられ、喜怒哀楽を出せ、好きなように居られる。
「楽しい」「好き」を起点に多様な人が集まり、他者と想いや感動、時間を共有できる。
このことから、
日常とは違う交流を自然な形で生むポテンシャルがある
と考えました。
そして、そのポテンシャルを形にすれば、人々の幸福度の底上げだけでなく、スポーツ観戦自体の価値も底上げできる(=スポーツ観戦の社会的価値向上ができる)のではないかと思いました。(図表2)

図表2

観客である社会の人々の間にある「繋がり、交流」に関する課題と、スポーツチーム(※)が抱える人手や資金といったリソースの課題、当事者が必ずしもそれらの課題あるいはポテンシャルを認識していない場合もある点から、課題を
「スポーツ観戦の場は、大勢の多様な人が集まる。にもかかわらず、観客の緩い繋がりを生む交流の場として活用されていない。」
と定義しました。

※ チームSCでは、プロ野球やJリーグなどのメジャースポーツやスポーツチームではなく、体育館で行うチームスポーツを念頭に置いています。より具体的に取り組んでいくために、チームSCでは対象をフットサルFリーグに絞って考えることにしました。

3. 課題に対して実現したいこと

観戦の場で、
交流を目的に参加するのではなく、自分の「好き」を起点に、気づけば緩やかな人との繋がり、 ありのままで受け容れられる繋がりが、結果的に生まれる。
そんな交流を生むことです。
図示すると、以下の通りです。(図表3)

図表3

(図表3)は、2×2のフレームワークを用いて交流の種類を整理したものです。
縦軸には、繋がりの強弱を、上に「緩やか(弱い)」、下に「きつい(強い)」として置きました。一方、横軸には、普段の生活領域との距離を、左に「遠い/外部」、右に「近い/内部」として置きました。整理をすると、左上「普段の生活領域から遠い/外の場での、緩やかな繫がりとしての交流」、右下「普段の生活領域の近く/中での、強い繋がりとしての交流」の2つの領域に交流を大別することができました。

チームSCでは、「普段の生活領域の近く/中での、強い繋がりとしての交流」(図表3の右下部分)が多くなっている人たちに対して、「楽しい」「好き」を起点に多様な人がやってくるスポーツ観戦の場が、感動・想いや時間の他者との共有、共通の関心などをきっかけに、「普段の生活領域から遠い/外の場での、緩やかな繫がりとしての交流」(図表3の左上部分)を持つ機会を提供できるのではないかと考えました。

そのようなスポーツ観戦の場での交流は、「交流を目的に参加するのではなく、自分の「好き」を起点に、気づけば緩やかな人との繋がり、ありのままで受け容れられる繋がりが、結果的に生まれる」と言えます。
そのため、図表3の右下部分の交流にとどまることが多い人たちが、自ら意識して動かずとも自然な形で左上部分の交流の機会を持つことができるのではないかと考えました。

そのような交流をクラブ単体で創出できることが理想かもしれませんが、リソースなどの現状を踏まえると、複数のステークホルダーが関わり価値交換が生まれるシステムを検討していくことで、交流の場を持続的に創出することが可能だと推測しました。

そこで、実現したいことを
スポーツ観戦の交流を通じて観に来た人々の日々の幸福度が底上げされるシステムを作る
としました。

そのようなシステムはどうしたら作れるか。チームSCが実現したいことは、かなり壮大といえます。SXLP5期メンバーからも「抽象度が高い」とフィードバックがありました。
実現したいこと「スポーツ観戦の場での交流を通じて観に来た人々の日々の幸福度が底上げされる(システムを作る)」を要素分解し、2つのフェーズに分け、はじめのフェーズに焦点を絞りました。(図表4)

図表4

Phase1「観戦者の興味・関心をフックに観戦の場で自然と交流が生まれる」をさらに要素分解してみました。(図表5)

図表5

抽象度が高いテーマのため、要素分解と、「当事者・主体(ステークホルダー)は誰で、何に関心・悩みを持っているか(顕在的・潜在的)」を洗い出す作業を愚直に重ねました。

そこで見えてきたのが、
観戦者の種類は人数・関心などにより多岐にわたる。
・交流を潜在的に求めているのは「推しがいる」や「観戦を味わう」タイプの人。
ということでした。(図表6)

図表6

ステークホルダー分析をした後は、ステークホルダーのうち、影響度が高い主体に焦点を当てるのが通常です。
しかし、チームSCでは、多様な人々それぞれが自分は受け容れられていると感じられる観戦の場を作りたいと考えているため、影響度に応じて主体を絞り込むことはなじまないと感じました。
とはいえ、全てのステークホルダーに向けて同じように取り組み始めるのは難しいのもたしかです。
そこで私たちは、自分たちで行った観戦(視察)も踏まえて、取り組みたいと思った主体に着目しました。その中でも、観戦の場での交流について、家族連れなどに比べて顕在化していないものの潜在的には交流を求めている人も多くいるのではないかと感じた「推しがいる」や「観戦を味わう」タイプの人に焦点を当てました。

それらの人々にとって、どんな交流があるといいのかという視点で、Phase1に必要な「機能」をさらに、
<1> 交流を生む ための機能
と、
<2> 交流を生む取組みが持続的に行われる 機能
の2つに要素分解しました。(図表7)

図表7

<1>については、さらに要素分解を進めました。ここまでくると、具体的な実現手段のアイデアを検討できる段階になります。

そこで、以下3つの要件・制約を満たすアイデアを出し合いました。
・観客は別の目的で試合会場に足を運び、結果的に交流が生まれる。
・スポーツチームにとってコストがかからない。
・観客の誰もが参加しやすい「応援」「スポーツチーム」のこと

複数の具体的なアイデアを持って、あるFリーグチームにヒアリングさせていただきました。
実行できそうなアイデア(「機能」を具現化するための「物理」)は、今後トライアルや検証をしていきたい※と考えています。

※ 現時点のアイデアについて、今後のトライアルの兼合いで詳細の記載は割愛します。
なお、スポーツチームを問わず「実現したいこと」のために取り組んでいきたいと考えています。意見交換をしてみたい、チームSCの検討に関するご意見など、ご関心があるFリーグチーム、あるいは他競技の団体・スポーツチーム、その他スポンサーや自治体などあらゆる皆さま、SXLPまでお声がけいただければ幸いです。

Phase1に必要なもう1つの機能、<2>についても分解を進めました。(図表8、9、10)

図表8
図表9
図表10

スポーツチームを取り巻く地域の多様な主体は、観客(⊂地域の人々)の繋がり・交流にも関心はありそうだということが見えてきました。
スポーツチームの限られたリソースを考えたとき、複数のステークホルダーも踏まえて検討していくことが今後の検討事項です。(図表11)

図表11

(注) LTV=Life Time Value(ライフ タイム バリュー:顧客生涯価値)。一人の顧客が特定の企業やブランドと取り引きを始めてから終わりまでの期間において、どれだけの利益をもたらすのかを算出したものとされます。

4. 今後について

私たちが実現したいことは、先述の通り抽象度が高く、壮大ともいえます。
そのため、2つのフェーズに分け、SXLP期間中は、Phase1に焦点を当て、検討を進めました。
今後はPhase1の検証、そしてPhase2の検討に取り組んでいきます。(前掲図表11、図表12)

図表12

2023年2月下旬の最終報告会では、ここまで記載した内容を報告しました。引き続きチームSCメンバーで(図表11・12)について、スポーツチームその他のステークホルダーを広く捉えて(現時点の仮説・イメージとしては図表13)、検証や検討を進めていきます。

図表13

5. 途中のプロセス:3つのターニングポイント

ここまで1.~4.では、原体験とそこからくる課題意識、その課題に対して実現したいこと、実現のために必要なこと、まだ今後検証や検討が必要なこと、をお伝えしました。

実際にははじめからきれいな流れで思考できたわけではありません。

2022年11月上旬のチームSC立ち上げから、2023年2月下旬の最終報告会までの4か月弱の間、SXLPの場において皆で思考を進める共通言語である「システムデザイン思考」を試行錯誤して使いながら、様々なプロセスを行ったり来たりしながらSXLP5期終了までに行き着いたのが、ここまでお伝えした内容です。

SXLPに関心をお持ちの方々、これから参加してみようと思っている皆さまにお役に立てばと思い、ここからは、その行ったり来たりの試行錯誤のうち、ターニングポイント3つをピックアップしてお伝えします。
振り返ると、いずれもSXLPの醍醐味だと感じる点です。

【1】講師・運営の方々からのフィードバック(チームSCでの議論を始めて1か月が過ぎた頃)

実は最初に設定したテーマは「居心地がいい観戦の場づくりとは?」でした。はじめにおこなったのが、「居心地がいい」観戦の場とはどんな場かの言語化でした。

人々のスポーツ観戦動機について、学術研究で分類されている動機をもとに、具体的な「居心地がいい」観戦の場の事例を調査し、その事例から言語化を試みました。
その後、チームSCでFリーグの試合を観に行くなど、観戦者の様子を観察するなどして議論を重ねました。

観戦の場に行きたくても行きづらい人であっても、行きやすい居場所と感じられる場を考えました。
具体的には、「お子さん連れの家族が行きづらいと感じている」という声がインターネットや周囲へのヒアリングから特に見えてきたので、それらの人たちに焦点を当てようと考えました。

この時点で「交流」というキーワードは一旦脇に置きました。なぜなら、インターネットや論文などによると、観戦の場での「交流」を求める人々の声は「行きづらい」という声に比べてあまり多くなかったためです。

そうしてチームSC立ち上げから1か月を過ぎた頃に迎えた講師レビュー/進捗共有会でそれまでの議論を報告すると、講師や運営の方々から以下のコメントをいただきました。

・対象の人たちに寄り添って考えることは大事だが、自分たちがやりたいことがすりかわっているのではないか。

・議論をきれいに進めようとする、自分たちができることをやるあまり、当たり前の課題設定になっている気がする。「それは面白い!」というチャレンジングなことを設定して取り組んでほしい。

・SXLPの最初に学んだシステムデザイン思考における1つ1つの分析手法を、はじめから順番に教科書通りにやり直すといいと思う。部分部分で分析をやるのではなく、はじめから順に通すことが大事。そうでないと、各分析でのアウトプットが次のインプットに繋がらない。途中途中で行間を埋めるような議論、分析をすると、わかった気になるが、当たり前のアウトプットしか出てこない。不思議かもしれないが、教科書通りにはじめから順番に分析する、各分析のアウトプットを次の分析のインプットにする...というのを全部通してやることで、普通ではないこれは面白い!というものが出てくる。

これが1つ目のターニングポイントでした。

この後、安易な方に流されないように、自分たちの出発点を忘れずに、うまく思考が進まなくても、学んだシステムデザイン思考のフレームワークをはじめから愚直に1つ1つ使って分析を進めました。

そのアウトプットが、3.で出てきた「ステークホルダー分析」や、あることを実現するために必要な要素を分解することや、それらの「機能」を「要素」と「物理」に分解するアプローチです。

また、自分たちの出発点に立ち返ることで、「顕在化しているマイナスをゼロにすることだけが課題解決ではない」という、いわば私たちのイノベーティブともいえる点が見えてきました。
そのような事象は、当事者が普段認識していない場合もしばしばで、それゆえにインターネットなどでは声としてあがりにくいかもしれません。しかし、日常と異なる緩やかな交流や繫がりを自覚的に求めていなくても、それがいざあると人々の日常の幸福度が底上げされる、その実現に着目することは、当たり前の課題設定ではなく、「面白い!」というチャレンジングなテーマの設定に繋がるのではないか、と気づかされました。

実感した難しさやもやもやから目を背けず、それらを大事にすることの重要性を実感しました。

【2】私たちが実現したい「交流」の可視化ができた(チームSCの議論を始めて約2か月後)

前掲の(図表3)の絵を描けたことで、チームSCメンバーの認識やゴールがクリアになり、それを共有できるようになりました。これは、議論が大きく前進するブレイクスルーとなりました。

[再掲] 図表3

縦軸と横軸の2軸で思考や情報を整理する「2×2」というフレームワークは、システムデザイン思考を学ぶ中で出てきたものでした。

この2×2に行き着くまでに、社会を取り巻く環境をP(Politics:政治)、E(Economics:経済)、S(Society:社会)、T(Technology:技術)の4つの要素で捉えるPEST分析をするなど、先述の通り愚直に分析を順番に進めました。そうした積み重ねがあってのブレイクスルーです。

そのほかにも、数多くのフレームワークを使った分析を重ねることで、1.~4.で描いた流れが浮かび上がりました。
例えば、先述の(図表10)や(図表13)では簡略化していますが、その絵に至るまでに、多数存在するステークホルダーの間でどんな価値の交換が生まれるかを図示・検討する(図表14)など、数多くの分析と試行錯誤を経ています。

図表14

【3】どの立場でこの課題に取り組むのかの立ち位置を明確化した(最終発表の約1週間前)

検討期間中は、度々「結局この課題にどの立場で考えているのか?」という言葉を運営やアルムナイの方々からいただきました。

チームSCメンバーは、仕事で企業の立場からスポーツと向き合うことはあります。とはいえ、設定した課題は、観戦の場に可能性を感じる、いわば観客としての実体験が起点なので、この問いをどう考えればいいか、最終報告会の直前までなかなかはっきりできませんでした。

ただ、【1】の気づきと相通じますが、最後には私たちは「観客として」という点を大事にしました。スポーツチームのスタッフでもスポンサーでもないけれど、だからこそ目の前で見える「課題」ではなく、観客としての実体験から、日常と異なる緩やかな交流や繫がりを自覚的に求めていなくても、それがいざあると人々の日常の幸福度が底上げされる、その実現に着目することができました。

このようにターニングポイントを振り返ると、試行錯誤して苦しんだ先、安易な方に流されたくなる時に踏ん張った時に、節目となる前進ができた、と感じます。
そして、それによって、「当たり前のこととしてこれまでも言われてきたことではなく」、でも「言われてみて納得」というイノベーティブなテーマ、課題設定に近づけると体感しました。

この点は、SXLPの他のチームの発表を聞いても、共通しているように感じます。
また、今後仕事その他で、VUCAの時代と言われる現代社会の課題に取り組んでいくうえでも重要な姿勢だと思います。


最後に、チームSCのチーム名の由来についてです。
人々の繋がりの「ソーシャル・キャピタル(Social Capital)」(社会関係資本)としての側面に本チームは着目したので、チーム名をチームSCとしました。

ソーシャル・キャピタルとは、人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴のことです〈アメリカの政治学者、ロバート・パットナムの定義〉(図表15)。物的資本 (Physical Capital) や人的資本 (Human Capital) などと並ぶ概念とされ、近年とりわけ注目が高まっているといわれています。

図表15
(出典) 厚生労働省 「住民組織活動を通じたソーシャル・キャピタル醸成・活用にかかる手引き」

(図表15)内の、結束型ソーシャル・キャピタルと橋渡し型ソーシャル・キャピタルに着目しました。
結束型ソーシャル・キャピタルとは、強い絆で結ばれた家族、親友、近隣住民など、共通の価値観を共有する同質的個人関係、とされます。一方、橋渡し型ソーシャル・キャピタルとは、ある集団やネットワークのメンバーと、その外部にあるネットワークメンバーとの関係で、経験、価値観、背景を異にする個人関係とされます。
(図表3)の2×2の4象限のうち右下部分が(図表15)の結束型、(図表3)の左上部分が(図表15)の橋渡し型に該当すると捉えました。

チームSC立ち上げ当初は、ソーシャル・キャピタルを自覚的に考えていたわけではありませんでした。そのような社会全体で注目される概念や、その背景にある社会動向をはじめから見て考えたわけでもありませんでした。
しかし、【2】のブレイクスルー、そこに至る人々を取り巻く環境分析などを重ねる中で、橋渡し型ソーシャル・キャピタルが生まれる機会としての観戦の場のポテンシャルが見えてきました。
そこで、最終的にチーム名をチームSC(ソーシャル・キャピタル)としました。


最後になりましたが、ここまで、時間をかけて読んでくださった皆さま、誠にありがとうございました。
今般、5期生として私たちはSXLPに参加し、ここまで記載したような取組みをしてきました。限られた紙幅でお伝えしきれなかった点もありますが、多くの気づきと出会い、思考と行動の機会を得ることができました。
私たちは、これからもSXLPのアルムナイとして、諸先輩方とともにSXLPに関わっていきます。また、5期期間中の取組みの続きもやっていきたいと思っています。
このSXLPで、6期生となる皆さんとお会いできることを楽しみにしています!


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