武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第1回 三澤直加 氏

20200518 三澤 直加 氏

デザイン、リサーチの豊富な経験と、卓越したファシリテーション技術で、商品開発におけるコンサルタントを行う。家電や情報機器のデザインから、女性の産後リハビリサービス、福島県の復興支援事業など、幅広いデザイン業務に従事。
特に、グラフィックレコーディング、グラフィックファシリテーションの活用では、協働促進、内省促進、発想の飛躍、情報発信の強化など、多くの成果を生み出し、新たな可能性を開拓し続けている。
・実践女子大学 情報リテラシー 講師
・金沢美術工芸大学 デザイン方法論「サービスデザイン」講師
・産業技術大学院大学 履修証明プログラム 人間中心デザイン「クリエイティブ ファシリテーション論」講師
・HCD-Net認定 人間中心設計専門家 (https://glagrid.jp/member/misawaより引用)

1 グラグラッドとは

グラグリッドは、デザイン思考などの手法を活用しながら戦略をつくり出す共創型サービスデザインファームである。事業戦略やブランド力の強化を支援する「ビジョンづくり」、イノベーション創出を支援する「商品づくり」、クリエイティブな組織文化醸成を支援する「組織づくり」まで幅広くサポートし、今までも企業や行政、学校などと「明るい未来」をつくり出すためのプロジェクトを行ってきた。特に、ビジュアルで考えビジュアルで会話する力「ビジュアルシンキング」と、伝えたいことを研ぎ澄ましデザインする力「ブランディング」、考え方をデザインする力「ファシリテーション」を3つの専門性としている。

2 5つの事例

講義では、具体的な事例を5つ紹介していただいたが、特に印象に残った2つの事例について紹介する。

①新宿区立落合第六小学校「みらい科」

グラフィックレコーディングを通して、創造力を養いながら物事の概念化や抽象化を児童が学ぶ取り組み。「新しい星とそこに住む生物」をテーマに、子どもたちが体育館いっぱいに広がった紙に自由に絵を描く映像を拝見した。今日の教育の問題点を改善する取り組みである点に大変興味をもったが、それだけでなく、三澤さんの課題へのアプローチの仕方が印象的であった。校長先生からの依頼に対して、児童の観察を徹底的に行い、「多数決に頼りすぎる」、「正解を求める」などの特徴から、話し合いが型にはまり過ぎ、豊かな発想が生まれにくいことに気づき、改善方法を提案する。物事の本質を見抜く「観察力」の大切さを学んだ。

②「えがっきー」

「自分のやりたいこと」が明確ではなく、ビジョンや経営戦略を描くワークショップを行ってもなかなか効果が出ないという状況に対し、「自分に問いかけて、人と共有することをツールにする」という事例。大人になるにつれて、自分のパッションを見失ってしまうことがある。私も社会人になって、忙しい日々の中でついつい自分の思いや理想といったものを意識せずに生活や仕事をしてしまうことがある。この「えがっきー」は、自分の思いや理想をステップを踏みながら明確にしていくツールである。自己分析的なツールは世間にたくさんあるが、絵や図を豊富に使ってとても楽しそうに自分の情報が整理できる点が新鮮だった。今、「創造性」の研究を行っているが、創造性には一種の大人にならない、子どもの心をもち続けることが大切に感じている。「自分の心に素直に従う」ということは、その子供心に通じるように思う。私もこのツールを使って、子供心のチューニングをしたいと思った。

3 まとめ・答えのない時代に

今日の社会は、多様な価値が交差し、正解が見えない。それ故に、社会には閉塞感や固まった思考が蔓延している。三澤さんは、「共創」をテーマに、いろんな課題やいろいろな他者が共存し、柔軟な社会の在り方を未来視点で創造している。どのプロジェクトも、ある意味では仏教の「中庸」を見つけるように、互いを尊重し合ってWIN-WINになるような最適解を生み出すアプローチを実践されていた。その過程には、自由な意見のやり取りが存在し、相手へのリスペクトがある。グラフィックを活用するなど、アート的なアプローチも重要だが、それに頼らない本当の意味でのサスティナブルな社会の提案方法を目の当たりにした。



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