武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第5回 江渡浩一郎 氏

20200615 江渡浩一郎 氏

1971年生まれ.メディア・アーティスト/独立行政法人産業技術総合研究所研究員.1997年,慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了.2010年,東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.博士(情報理工学).
ネットワークを用いた活動歴は長く,インターネットを利用した活動や作品制作をいちはやく手がける.自身の作品制作活動のほかに,展覧会などの企画やディレクションにも多く関わる.
1996年,sensoriumプロジェクトにて《WebHopper》を発表.sensoriumは1997年にアルス・エレクトロニカ賞ネット部門でゴールデン・ニカ賞を受賞.2001年,日本科学未来館「インターネット物理モデル」の制作に参加.産総研で「利用者参画によるサービスの構築・運用」をテーマに研究を続ける傍ら,「ニコニコ学会β」の発起人・委員長も務める.主な著書に『パターン、Wiki、XP』(技術評論社),『ニコニコ学会βを研究してみた』(河出書房新社)(https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/eto-kouichirou/より)

1 「共創型プラットフォーム」:Wikipedia

共創型プラットフォームの代表としてWikipediaの説明をしていただいた。Wikipediaでは、「パターン・ランゲージ」の仕組みを用いて、利用者がサイトを更新している。Wikipediaの前身である「Nupedia」では、従来の百科事典と変わりばえしなかったために利用者が増えずに閉鎖となった。そこで、7つのメタルールを設定してWikipediaは広がることとなった。そのメタルールとは、

①すべてのルールを無視する
②常に未完成な部分を残す
③専門用語を説明する
④偏向を避ける
⑤変更は統合する
⑥明らかな無意味は削除する
⑦執筆者に機会を与える

である。中でも、偏向を避けるというルールが中立的視点というルールになり、現在のルールが生まれていった。まさに、ルールをユーザーと共創していく中で成長してきたと言える。

2 「共創型イノベーション」:ニコニコ学会β

今度は、共創型イノベーションの代表として、「ニコニコ学会β」についてお話があった。ニコニコ学会βは、「日本人全員を科学者にする」というテーマを掲げたユーザー参加型の研究プラットフォームで、2011年から2016年まで江渡さんを中心に実施された。研究者や専門家ではない人々を集め、活動期間を5年間と定めた。合計で9回のシンポジウムを開催し、累計65万人以上の視聴者を集めたそうだ。
きっかけは、2011年の東日本大震災にある。科学は科学者だけのものではないという考え方から、科学にできることを模索し、人に愛される学会を目指して立ち上がった。一人ひとりのユーザーに特別な技術がなくても、ユーザーの日常の中には世界を変えるような発見や発明のきっかけがあり、環境を整えることができればイノベーションの創出に繋がると考えたのである。「イノベーションとは、技術の使われ方の革新である」と語っていた江渡氏の想いがニコニコ学会βに集約されていたのだ。

3 「共創」と「協業」

「共創」と「協業」について、両者の違いを正確に理解している人は意外と少ないかもしれない。江渡氏は、「共創」は共通の目的である「共通善」に向かって異質な才能が結集することで、「協業」は利益を分け合うことに主眼が置かれるものと語る。つまり、「協業」は事前の申し合わせの上に利益を目的に“協調して”組織的に動くことである。一方、「共創」は、事前の申し合わせはなく“協調はせずに”、しかし「ある目的」=「共通善」(つまりは、「ビジョン」)を目指してアプローチをしていくことである。まさに、異質が集まることでイノベーションが生まれるのである。講演の中で、「共通善」を見つけ出すことが、共創イノベーションで最も大切と語っておられたのが印象的であった。


まとめ

今まで、教育の場面でも「協業」的なシステムの上で行われてきたことが多いと思う。しかし、予測不可能で多様で変化の激しい現代においては、ますます「共創」的な教育が求められると思う。しかしながら今回の話を聞いて、「学び合い」を意識していわゆる「共創」的な授業をしていると思っていても、実は「協業」の域を脱していない実践が多いのではないかと感じた。私自身もその一人であったと反省するとともに、教育の場においての「共通善」をどのように設定していくか、教育の場面での「共創イノベーション」のアプローチの仕方について改めて考えようと思った。


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