武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第14回 赤池学 氏

20200817 赤池学 氏

ユニバーサルデザイン総合研究所所長、
科学技術ジャーナリスト
1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。
社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。(http://www.udinet.com/company/member_akaike.htmより引用)


1 ユニバーサルデザイン

「ユニバーサルデザイン(UD)」という言葉を一度は聞いたことがあるという方も多いと思う。私自身も、教員という立場から、UDの重要性や必要性については多く考える。特別支援教育に限らず、教室環境や指示などの言葉かけ・ハンドサイン、教材教具の工夫など、全ての児童・生徒が安全に楽しく、学習して生活するためにはUDの視点が必要不可欠である。今回は、赤池氏の講義から、改めてUDの視点を考えることができた。

まず、UDを定義する10要件について、

① セーフティ(安全性)
② アクセシビリティ(接しやす さ)
③ ユーザビリティ(使い勝手)
④ ホスピタリティ(慰安性)
⑤ アフォーダビリティ(価格妥当性)
⑥ サステナビリティ(持続可能性)
⑦ エキスパンダビリティ(拡張性)
⑧ パーティシペーション(参画性)
⑨ エステティック(審美性)
⑩ ジャパンバリュー(日本的価値)

赤池氏は、ユニバーサルデザインとは、「Design for ALL」だと言う。「Design for ALL」とは、赤池氏の師匠であり、UDの生みの親であるロナルド・メイス博士の言葉。このように定義されている。

70億人、そして90億人となる多様な地球市民とのシェア
時代のユーザーである子供たち、まだ見ぬ子孫たちとのシェア
次代に継承すべき価値を生み出した、亡き先人たちとのシェア
人間を含めた、すべての多様なる生物、自然生態系とのシェア

この「Design for ALL」を構築するために、「意味と価値のイノベーションを通じ、ステークホルダーとの補助線を引き直し、新しい価値の連鎖を創造する」必要があると言う。はじめは、UDとイノベーションが関係するのかと思っていたが、ここで繋がった。


2 21世紀品質

次に、ものづくりにおける「21世紀品質」開発のWAREの循環図を紹介していただいた。そこには、以下の4つのWAREがある。

HARD WARE:技術基盤がもたらす品質
SOFT WARE:アプリケーションがもたらす品質
SENSE WARE:五感と愛着に基づく品質
SOCIAL WARE:公益としての品質

HARD WARE、SOFT WAREは、これまでもあったが、今後は、SENSE WARE、SOCIAL WAREが重要になると言う。特にSENSE WAREが重要で、SOFTで使い勝手が生み出されたものに五感と愛着を付加し、さらに使うことで更なる愛着を生み出し、SOCIAL=公益としての品質になる。そうして、新しい価値やビジネスモデルを生み出される。

つまり、UDを追求した21世紀品質は、一企業の利益や一個人の満足を超え、最終的には社会を良くしていくための価値を持っていることが分かる。したがって、UDとは、「共生」のデザインであるということである。


3 未来社会仮説

これまでの社会は、個人と社会、人と技術・自然の最適なバランスを求める「最適化社会」であった。しかし、今後は個別の価値基準・計画・行動によって独自の豊かさを求める「自律化社会」へと移行すると言う。そして、その先には、自然のメカニズムを社会に取り入れ、自然に回帰していく「自然化社会」に移行するのではないか。2000年代から、未来の社会を考えると、以下のように表現できる。

2000年代  :自動化社会
〜2011年   :最適化社会
〜2015年   :自律化社会
〜2020年以降:自然化社会

今後、ますます、直感的なもの、自然的なものが重視される社会において、デザイン系、美術系の人材の五感と心が社会と関わることの必要性を説いていただいた。


まとめ

教育の場においても、多くの子どもたちが学びやすい環境を構築する為に、ユニバーサルデザインの視点は必要不可欠なものである。かつては、特別支援教育の場を中心に語られたものが、通常の教育でも当たり前に語られるようになり、今は、インクルーシブ教育となって、その境界はよりシームレスになっていく。ある面では、社会は多様な人間がいて、インクルーシブな状況が自然な状況であるはずで、教育の場においても、赤池氏の未来社会仮説と同じような流れになっているとも感じた。UDを教育学的観点ではたくさんみてきたが、デザインやイノベーションの視点で捉えたことで、UDの意味や価値を再発見できた。さらに今は、学びのイノベーションが重視されている。教育の場においても、UDの視点にイノベーションのヒントが隠されている気がした。

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