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『なぜ人と組織は変われないのか』――成人発達理論の最重要書籍の1つを読んで

『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版、日本での出版は2014年)を読み進めています。成人学習の専門家、ロバート・キーガン氏らによる代表的な著書です。

本書の冒頭でも触れられていますが、1970年代に医学分野で「脳の可塑性」※が提唱されて以降、1980年代から脳の可塑性に基づいた様々な新事実が明らかになっています。

※ 私は2010年代後半から「ブレインフィットネス」などの新産業領域を継続的にウォッチしているのですが、この領域こそまさに、脳の可塑性に関する研究成果の恩恵を受けたものといえるでしょう。

キーガン氏らによれば、現代の経営の現場および経営学の理論は、脳の可塑性に関する新発見に基づいたものには、必ずしもなっていません――。つまり、「人は思春期を過ぎた後は、知性が根本的に改善されることはない」という信念に基づいた実践と理論構築が、(経営者や経営学者らが自覚しているかどうかはさておき)繰り返されているわけです。

対して同氏らは、長年にわたる調査を通じて、脳の可塑性に関する発見と連動するように、「成人になっても知性は発達しうる」ことを本書で述べています。これは2020年代の今、特に「人生100年時代」の到来が指摘されている今、我々があらためて注目するべき論であろうと思います。

これを踏まえて考えると、日本の産業界に根強い、10代で選択する学歴ブランドへの信仰は、私には脳の可塑性という科学的真実を無視したカルト宗教にしか見えません※。

カルトと銘打った理由は2つあります、1つは、先にも触れたように科学的ではないこと。もう1つは、この信仰が、産業界の健全な発展と、産業界で懸命に働くビジネスパーソンの健全な成長に寄与しなくなっているためです。

すでに機能しなくなっているカルト宗教を信じている“教育熱心”な日本のおじさん・おばさんは全員、キーガン氏らによる本書を熟読するべきと思いますが、それはさておき、市場という生き物に対して常に適応することが求められる経営の現場で、人の科学的真実が無視された経営施策が横行しているとしたら、それは大変なる自殺行為であろうと思います。

※追記:経営コンサルタントとして著名な大前研一氏が、日本で広く普及・浸透している学力偏差値システムの真実を明かしています。次のビジネス・ブレークスルー大学の大前氏ブログ記事を是非ご覧ください。「学力偏差値」導入の狙いは、国民の”洗脳支配”だった!?|オンラインMBAなら『ビジネス・ブレークスルー大学大学院』 (ohmae.ac.jp)

■成人発達理論を実践に移すことの難しさはどこにあるか

現状を見ると、約10年前の2014年に発行されたこの成人発達理論に基づいたアプローチは、経営の現場においては主流になっていないように思えます。これはまさに、本書のタイトル通りに「人と組織はなかなか変われない」ことを示してしまっているのかもしれません。

私が推察するに、本書で示されている「自己変容型」の知性を獲得するのには、自己の行動とその裏にある心理を客観的に分析して、「自分の根本的な変化を阻んでいる真の理由」を追求するという困難さが伴います。この困難さには、真の理由を追求することの難しさと、従来の自分が取ってきた行動の過ちを認めることの難しさという2つが絡み合っています。

そのため、感情的にもなかなか進めることが難しく、まさに高度な知的作業が要求されます。この書籍で示されている内容が広まっていない理由は、そこにもありそうだと感じました。

■瞑想は高度な知的作業の基盤を作る

他方、こうした知的作業に役に立つスキルは、「メタ認知」のトレーニングであろうとも思います。メタ認知の向上に役立つのは、瞑想です。

私は長年瞑想を実践しており、その瞑想の効果を実感して瞑想ファシリテーターの資格を取得してしまったほどです(記事下部をご覧ください)。瞑想は古今東西の偉人たちが実践してきた人類普遍の取り組みで、瞑想を実践していると、自己を客観視するメタ認知の力が高まります。こうした瞑想などの(業務とは一見関係がないけれども重要な)心身統合のための取り組みを地道に実践しない限り、こうした心理的なカベを突き破るのは難しいのではないかというのが、私の個人的な意見です。瞑想を実践している私がいうとやや我田引水に聞こえるかもしれませんが、瞑想はそれほどに、人間にとって重要な取り組みだと私は確信しています。

瞑想のことはさておき、少なくともキーガン氏らによる本書を読んだ私が主張できることは、キーガン氏らが示した自己変容型の知性は、我々現代人がモデルとするべき、適切な知性の在り方をうまく記述したものであろうということです。

困難さに溢れた現代社会をより良く変えようという志がある人であれば、こうした卓越した知的成果物を利用しない手はないと考えます。

以下は、私が運営しております瞑想情報サイト「ActiveRest」のFacebookページとWebサイトです。ぜひ、お目通しください。

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