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2023年の終わりにむけて

昨年夏ごろから作品づくりについて迷い、悩むようになった。

それは、ある種の覚悟を伴うようなステージに足を踏み入れたからなのかもしれないし、純粋に、無邪気に、ただ作りたいから作るということを自分に許せなくなったからなのかもしれない。
とにかく、1年以上ずっと悩んでいた。


けれど今年の秋頃、その悩みについに終わりが訪れた。


最終的にたどり着くのはとても個人的な気づきと決意なので、全く興味ない人も多いかもしれないけど、ほかに特段書きたいと思うようなこともないので、今年最後の文章はそのことについて書こうと思う。
もしご興味とお時間あれば、お付き合いください。


僕は22歳になってから、(寄り道もしたが)会社で働きつつ作品をつくるということをやってきた。それもまあとてつもなく、細々と。
【作品をつくる自分】を【会社で働く自分】とは別人格として扱って、その比重を圧倒的に【作品をつくる自分】の方に置いてきたのが、ここ6年くらいの自分であった。それはやはり、作品をつくり続ける人生を選びたいからで、早くそれだけで生活を満たしたいと思っていたことの表れでもある。
クリエイターとして全然活躍していないのにプライドだけは一丁前なので、名刺にある社名とか肩書とかじゃなくて、つくった作品で自分を見て欲しかった。だからある意味で、【会社で働く自分】は仮の姿であるという意識があった。本当はこんなことしてる場合じゃないかもと焦る気持ちがあった。

もちろん会社自体は素晴らしい環境だし、そこで学べることはたくさんあるので、ちゃんと自分で選択してそこに居るのだが、でも自分の作品をつくらないといけないという意識がずっと僕を【作品をつくる自分】側に引っ張っていた。
そしてまさに、あくまで本流は【作品をつくる自分】であり【会社で働く自分】は傍流であるという意識が、僕をうまくいかなくさせていたということに気づくことになる。


そもそもの悩みの根本は、僕が関わる作品を商業的なものとして発表する以上は、それはエンターテイメントであるべきで、人々が楽しめるものであるべきという大原則を、僕が社会人になって獲得したことに関わってくる。
映画であれば2時間と2000円を頂戴するものであるし、0のたくさんある額の資金を投じて、スタッフ・キャストの方々含めた多くの人の時間と熱意と労力を向けてもらってようやく完成するものなので、やはり人々に楽しんでもらって、商業的にもちゃんと成功だと言えるものを目指すべきだと、社会人になって僕は考えるようになった(もちろんそれ以外の意義を持つ作品はたくさんあるし、それらの作品やそれを作る人たちのことを僕はとてもリスペクトしているので、あくまで僕の関わる作品に限った話である)。

しかしながら、2022年10月に「夏。悩み考えたこと」で書いたように、商業的に成功を収め得るものと僕の表現したいものは必ずしも一致せず、前述した大原則を無理に自信の作品づくりに適用しようとすると、相反する主義がぶつかって、うまく作れなくなるし、だんだんと作ること自体を楽しめなくなっていく。

だから、これまた昨年の大晦日に「2022年の終わりにむけて」で書いたように、やはり自分の表現を突き詰めようと心に決めたはずであった。


しかし、悩みは続いた。

どんな作品をつくるべきか、つくりたいかと考えても、うまく固まってゆかない。なぜだろうかと考え続けた。そして、やはりそれが前述の大原則と自分の表現したいものの相性の悪さが原因であることは明白だった。
そしてある時、未だにそこで悩むのは【作品をつくる自分】に重心を置いているためだと気づいた。

つまり、自分の作品をつくってそれで生きていきたいということは商業的な成功を意味するのに、自分の表現は商業的には成功し得ないという自覚もあり、その自身の中の二律背反に悩み続けているということのようであった。作品を発表する以上は商業的な成功を目指すべきなのに、自分はそれに当てはまらない、当てはまるものをやろうとすると上手くできないということが、身動きを取れなくしていたのだ。

ではどうすればよいのか、考えなくてはいけない。

そのために、自分の置かれた状況をもう少し俯瞰的に見てみた。
そうすると明らかに【会社で働く自分】の方が、(少なくとも世間的には)大きなチャンスがあるように思われた。会社の持つ方針や、自分のポジションを考えると、多くの人に楽しんでもらえるような作品をつくることには挑戦できる環境であるし、そのことを邪魔する障壁はほとんどないように感じられた。どう考えても運命はこっちを頑張れよって言っている気がする。

しかし、その選択はずっと【作品をつくる自分】側の人生を諦めることになるのではないかと感じて、なかなかそのような決断に至れなかった。
実際、【作品をつくる自分】の時間やエネルギーは削られることになるだろう。

けれど一方で、自分がどうなりたいのかと考えたときに、やはり映画監督とか、映像作家とか、なんかそういうことでもないな…と昔から思っていたのも事実であった。やりたいことを仕事にするとそうなるのだけど、「夢は映画監督です」と言うことには違和感があった。
そしてこの度、その違和感を突き詰めていったところ、自分が欲しいのはあくまで「自分が良いと感じるものを表現すること」を続ける状況であって、職業とか肩書ではないらしいということに気づいた。
自分の作品をつくることにおいての最大の幸福は、「自分が良いと感じるものを表現すること」である。そしてその自分とは別に、作品を「他者にも楽しんでもらいたい、楽しんでもらうべき」と考える自分が存在するのだということも分かってきた。そう考えると、とにかく作り続けることで満足するわけでもないし、楽しんでもらうことのみを考えてつくる事もできないわがままな自分にも納得できる。
そこで気づく。あれ、【会社で働く自分】側の最終形も、なりたい自分の姿なのではないだろうか?と。
会社でなら、多くの人に楽しんでもらえる可能性のある作品をつくれる。商業的な成功を目指した作品づくりができる。

自分の思っているよりずっと、会社での作品づくりもやりたいことなのかもしれない。しかし、自分の作品づくりと一体どちらを選択するのだと、またここで悩む。

そして、「じゃあそれ、どっちもちゃんとやったら良いじゃん」と思った。

つまり、自分の表現を、まだ多くの人に楽しんでもらえる自信はないけど、観客に楽しんでもらうことを手放したくはない(し、最終的には切り離せないと思っている)。そんな自分は、その狭間で悩むくらいなら、今のところは別々のこととして両方やれば良いのだと、めちゃくちゃ当たり前のことに気づいたのだった。

具体的に言うと、【作品をつくる自分】は実写映像を用いたり、脚本という領域において「自分が良いと感じるものを表現すること」を突き詰めていき、【会社で働く自分】はアニメーション作品のプロデューサーとして(まだまだ名ばかりで畏れ多いし恥ずかしいのだけど…)、どんなものが人に喜んでもらえるのか・楽しんでもらえるのかを大前提に据えて物語や表現について考えていく。当面はこのスタイルで生きることが自分にとっても幸福だし、なりたい自分の姿に近づけていると思えた。

したがって、これからの僕は、【会社で働く自分】と【作品をつくる自分】のどちらも間違いなく自分であるということを強く意識しながら生きていきたいと思ったのだった。

そうすれば、作品づくりにおいて、自分のやりたい表現と商業的な成功を目指すことについて、今までのように思い悩む必要がない。
もしかしたらこの先、【作品をつくる自分】は商業的な成功を目指さなくて良いのか、棚に上げて良いのかと自分を諫める気持ちが湧くことがあるかもしれないけれど、自分の表現はまだ対価を頂いて人々を楽しませるステージに居ないと思うし、ここから暫くの間は、あくまで自分的な表現をもう少し上手くできるようになることに努めたいと思う。言い訳がましいが、まあそんなわけなので、商業的な成功を目指してなくても許して欲しい、という気持ちである。
いつか、成長した自分で表現したものが、人々をちゃんと楽しませられたら良いなと思う。



そういうわけで、2022年の夏から思い悩んだことはこれにて収束を迎えたことになる(なっていて欲しい)。



でもまあ、きっとまたどこかで悩むんだろうな、とも思う。
でもそのときにはこの文章を読み返せばいいし、これらの時間で「悩みながら進んでいくしかない」という考えを獲得できたので、迷ったり悩んだりするのがつらくても、「もういいや!」と作品づくりを投げ出さずに済む。


進むために悩むのだ。そして悩めば答えは見つけられるし、必ずどこかへは進めるのだ。
そういうことを心に携えることができたのだから、この1年以上悩み続けた時間も無駄ではないのだと思う。




さて、おまけ的に【作品をつくる自分】の軸で少し今年を振り返ってみます。
2023年につくったものたち。

おいしくるメロンパン「夜顔」MV(監督)


NHKドラマ『忘恋剤』(脚本)

脚本、公開中。


メイキングドキュメンタリー「『すずめの戸締まり』を辿る」(撮影・編集・監督)
 『すずめの戸締まり』コレクターズ・エディションに収録
 2024/1/10〜韓国で劇場公開が決定しています。

まあこれ【会社で働く自分】側の仕事なんですけど…。時間をかけて頑張って作ったので観てほしいという想いで紛れ込ませてください。笑


こうして見るとぜんぜんつくっていないな…という危機感が湧いてきます…!
【作品をつくる自分】を育てていかないと【会社で働く自分】に置いていかれそうで、2024年は、もっともっと頑張らないといけないなと思います。

【作品をつくる自分】は、しばらくは自分の作品においては自分勝手なことをしていると思うので、温かく見守っていただけると幸いです。
【会社で働く自分】は、会社の作品づくりにおいて、みなさんに楽しんでもらうことを一番大事しながら、頑張ってつくります。
わからないことがたくさんあり、不安はありますが、これから更に頑張らなきゃいけない場面が増えるので、ぜひお力やお知恵を貸していただければ幸いです。
作品が完成した暁には、きっと、観てくださいね。


今後とも、何卒よろしくお願いします。



2023年12月31日 松本窓


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