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おもろいソーシャルワーカーってどんな人? | DoingからBeingへ | Vol.5

自主ゼミ企画「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SOCIAL WORKERS LABを探究する~」は、さまざまな領域で活躍するソーシャルワーカーを招いて、その仕事や生き方について学び、参加者と対話を重ねるオンラインゼミです。2020年秋の開講後、全国の学生・社会人にクチコミで広まった人気ゼミのエッセンスを紹介します。

福祉社会学者の竹端寛とSWLABディレクターの今津新之助がホスト役を務める自主ゼミ。これまでのゲストの話を振り返って、受講した人たちが考えたこと、感じたこと、疑問に思うこと、感想などを語り合います。

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これまでのゼミを振り返って

竹端先生:全10回の自主ゼミも半ばに差し掛かりました。これまでの内容について簡単に振り返って、受講した皆さんの話も聞いてみたいと思います。

第1回は私と今津さんの2人でゼミのテーマについての話と、「しょうがない」という諦めの呪縛を越えるソーシャルワークについて話をしました。

第2回は岡山県社会福祉協議会の西村洋己さんに社会福祉協議会の役割や仕事、災害時の救援活動を通じたご自身の変化について伺いました。

第3回の前半は建築家の岡山泰士さん。京都のユニークな建築事務所の成り立ちと、地域団体”シガーシガ”の仲間たちと障害者の作業所を地域の交流拠点にした仕掛け作りについて伺いました。

第3回後半は移住支援や人材開発の事業を手がけてきた川渕一清さん。福祉・介護業界の人手不足の問題は深刻ですが、川渕さんが勤める京都府京丹後市の社会福祉法人には「ここで働きたい!」と若者が集まっている。採用活動や人事戦略のヒントを教えてもらいました。

第4回はソーシャルワーカーの山岸倫子さん。生活保護や生活困窮者の自立支援に従事しながら大学で講師をされています。ご著書の『ソーシャルワーカーになりたい』を執筆した経緯や、対象となる人と"キチンと出会う”とはどういうことか。現場と大学を行き来する山岸さんのソーシャルワークについて話を伺いました。

おもろいソーシャルワーカーとは?

竹端:「おもろいソーシャルワーカー」ってどんな人か。これまでのゲストの話を振り返ると、相手を変えよう、相手をなんとかしようとするのではなく、自分自身の在り方に目を向けて変えていこうとしてきた人だと思います。

ぼく自身も、過去にさまざまな社会問題に関わってきましたが、社会を変えようとする前に自分自身と社会の関係性をかえていかないとあかんと思っています。自分を開くことで、他者もまたぼくに対して開いてくれる経験をたくさんしました。

肩書や役割や立場に縛られるのではなく、自分自身の在り方(Being)が相手の在り方(Being)と繋がるところから「おもろい何か」が立ち上がります。受講した皆さんの在り方(Being)についても話を聞いていきたいです。

「何者かにならねば」「支援する側される側」

私は大学の通信教育課程で福祉を勉強している学生です。私は「何者かにならなければ」という焦りを抱えています。その焦りから「学生プロジェクトとか立ち上げて活動しなきゃ」「自分のフィールドをみつけないと」「そうやって形にしなければ、自分は誰にも認められない」という思いがありました。けど、ゼミの話を聞くなかで、その焦りと向き合って「自分がどういう風にありたいか」を探してみたいとも考えられるようになりました。

ぼくは社会福祉法人を運営している社会人です。第4回の山岸倫子さんのお話は強く共感しながら聞かせてもらいました。これからの福祉は「専門職にまかせる」のではなく「みんなで担うもの」になっていくはずです。もともとは地域や家族や顔見知りがやってきたことを、福祉サービスとして専門的な資格やスキルを持つ人に任せるものになっています。そのこと自体は悪いことばかりではないのですが、制度化されたサービスは「支援する側」と「支援される側」の分断をつくってしまった。そういう対象軸、いらないはずですよね。そのことを考え直す時間になりました。

「入所施設の"施設病"」「ガチガチの労務管理」

自主ゼミに集まる人の意識の高さに驚きつつ、モヤモヤする気持ちを抱えています。私は福祉や介護の専門家ではなくて、重度障害者の家族の立場です。施設を訪問すると、熱意をもって介護をしているひとはなかなか出会いません。「いいかげんにやってるんじゃないか?」と思うような対応も多いです。なので、このゼミとの温度差に驚きました。それは重度障害者施設だからでしょうか?福祉全体にいえることなのでしょうか?

竹端:モヤモヤを共有してくださってありがとうございます。ぼくは精神病院の研究をしてきたなかで「施設病」という現象に出会いました。これは施設で暮らす障害者や高齢者だけでなく、施設で働くスタッフにも見られる現象です。どなたか、福祉施設で働いた経験のあるひとに話を聞いてみましょう。

「施設病」の話に関連して。僕は特別養護老人ホームで働いたことがあるのでよくわかります。施設では安全にケアを提供できるようにするためにガチガチの労務管理をしがちで、スタッフは役割をこなして作業を消化していくサイクルに組み込まれます。熱意や感性があったとしても、それを発揮できる機会がありません。そういう環境が施設病をうみだしているのではないでしょうか。

「支援される側からみえる景色」「申し訳なさ」

私は障害のある当事者なので、支援をうける側から見てきた話をしたいと思います。施設や病院はいつも時間に追われています。オムツ交換、移動介助、食事、入浴、もろもろの細かな作業。ひとつでも余計な仕事をふやしたら「この後の準備が間に合わない!」と嫌がられます。申し訳なくてお願いできなくなっていくし、そうやって支配されて、私たちの意見はおいてけぼりになります。ときどき、スタッフの中に良い意味で”異端児”がいて、そっと部屋に来て雑談をして、いい時間を過ごせることもありますが、そういう人はなぜか他のスタッフから毛嫌いされます。私はそういう人に助けられて、ここまで来ました。このゼミに参加している人の話をきいて「余裕があるんだな」と思いました。私は施設には戻りたくないので、自分の家で暮らし続けるために障害者自立生活センターの活動に参加しています。

私は知的障害や身体障害のある人のショートステイでアルバイトをしている学生です。少し前に担当した身体障害のひとが、介護する私に対してすごく気を使うひとでした。移動する、食事をする、着替える、お風呂に入る、寝返りをうつなど、人として当たり前のことをするのに「申し訳ない」と思わせるものはなんだろう。一方で、私には重度知的障害の弟がいるので、弟のケアをする人に「申し訳ない」と思う気持ちもめっちゃわかります。少し前に、バイト先の先輩から「身体を起こすときって、介護する自分が楽なように支えると相手にとっても楽な姿勢にが見つかるよ」と言われたことが印象に残りました。お互いが無理をしない、居心地のいい距離、楽な姿勢をみつけること。自分と相手の間に、そういうものを見つけられるといいのかなと思います。

竹端:今日はぼくと今津さんが思っていた以上に、いろんな声が聞こえてきました。こういう話をする場ってあんまりないのかな。

今津:人間って、人と人との間で生きているので、相手との相互関係を生きざるを得ません。その場にある暗黙に流れているルールに同質化する生き方をするひともいるし、反発する生き方のひともいる。どちらにしても作用しています。

竹端さんの著書の受け売りですが「社会を良くするのは健全な思いであるけれど、それは自分自身を見つめていくこと。そこから始めることができるのではないか」と。このゼミで少しでも響くものを見つけてもらえたらいいし、こうやって反応をもらえることで私も励まされます。

次回のゲストは、ぼくの知り合いの菊地龍之さん(株式会社michinaru代表取締役)です。ぼくが新卒で勤めた日本データビジョンという会社で出会ったひとで、面白い企業や豊かな組織について研究する会社を設立して、一般企業や福祉関係企業とお仕事をしている。組織作りに関わってきたひとです。次回のゼミも楽しみにしていてください。

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【自主ゼミ2020】「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SWLABを探究する~」とは

SWLAB自主ゼミ企画「Doing から Being へ ー 福祉社会学者とともに、SOCIAL WORKERS LABを探究する ー」では、正解なき時代を生きる私たちが他者や世界と向き合っていくために、ソーシャルワーカーとしての生き方・働き方、魅力や可能性をともに探索していく場にできればと思っています。

ホスト役は、SWLABディレクターである今津新之助と、福祉社会学者である竹端寛。ゲストは福祉・医療分野を問わず、さまざまな分野・領域からのゲストをお招きします。

狭義のソーシャルワーカーの枠をはみ出したゲストの方々、そして参加者の皆さんと対話・共話を重ねることで、ソーシャルワーカーとは何かを問い直し、深めていく時間にできればと思います。20年10月から21年3月までの半年間、全10回開催のゼミナールです。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。

正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。


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