福祉に無関心なぼくがやりがいを見つけるまで | DoingからBeingへ | Vol.2
第2回のゲストは岡山県社会福祉協議会で働く西村洋己さん。福祉社会学者の竹端寛先生とSWLABディレクターの今津新之助が、西村さんの仕事について話を伺います。
西村 洋己(にしむら ひろき)
岡山県社会福祉協議会職員、社会福祉士
1984年生まれ。岡山県社会福祉協議会 職員、社会福祉士。岡山大学卒業後、岡山に残りたい一心で岡山県社協に入職。広域ネットワーキングの力を生かして2018年7月の岡山県倉敷市真備地区を襲った豪雨災害対応を行う。二児の父。『「無理しない」地域づくりの学校 ー「私」からはじまるコミュニティワーク』共編著。
福祉に興味がなかった僕が偶然みつけた仕事
西村さん:こんにちは!岡山県社会福祉協議会の西村です。このゼミを聞いている学生のみなさんは "社会福祉協議会" ってご存知ですか?福祉業界では”社協(しゃきょう)”って呼ばれています。なにをやっているところか、イメージってありますか?
竹端先生:現役の学生さんに聞いてみましょう。ふうかちゃん、ざわけん、いかがでしょうか?
ふうか:社会にいい影響を与える…みたいな?
ざわけん:地域福祉を推進していたり、なんか、連携とか啓発とかをやってる感じですかね。
西村:そうそう。よく知ってますね!「地域福祉の推進」が模範的な回答になるかと思います。僕が学生の時は社会福祉協議会(通称:社協)のことは全く知りませんでした。
竹端先生:西村さんは大学で何を勉強していたの?そもそも、生まれたのはアメリカって言ってなかったっけ?
西村:アメリカ生まれって部分を取り上げると、アメリカのコミュニティーワークとか社会運動とかをガンガンやってきたような印象になりますが、実際にはそんなことはありません。父の仕事の関係で生まれたときはアメリカにいましたが、生後4か月で帰国しています。兵庫県三田市で育ったので、英語は話せなくて関西弁が母語ですね。笑
岡山大学では法学部に在籍していました。学生の頃は勉強より音楽にのめりこんで、バンド活動やライブを観に行くことに夢中でした。岡山と言えばブルーハーツ!ってことは今の若いひとは知らないかなぁ。学生時代の彼女がいまの奥さんなので、岡山に残るために見つけた就職先が岡山県社会福祉協議会だったわけです。いまは2児のパパもしています。
福祉の仕事をしているひとって「障害のある兄弟がいます」とか「親が介護の仕事をしているのを見て」とか、何かしらのきっかけがあって福祉の仕事に就く人が多いですよね。ぼくの場合はそうではなくて、ただの偶然です。
ぼくは福祉に縁がない人生だったので、入職後も「地域の支え合いが大切」と言われてもピンとこないし、自分の仕事の意味や役割が腹に落ちてくるまで時間がかかりました。しんどくなって辞めようと思った時期もありますが、なんやかんやで15年、続けさせてもらっています。
社会福祉協議会での仕事とは?
竹端:社協でどんな仕事をしているのか、教えてもらえますか?
西村:まず、社協には3つの種類があって「全国社会福祉協議会」「都道府県社会福祉協議会」「市区町村社会福祉協議会」があります。一番身近なのは「市区町村社協」でしょう。役所に事務所があることも多いです。
ぼくがいるのは岡山県社協なので都道府県単位で設置されている社協です。ざわけんくんが言ってくれた「地域福祉を推進する役割」はすべての社協に共通していますが、規模によって事業内容が異なります。
県社協の場合、直接的な支援はしていません。福祉関係者をつないだり、課題を共有したり、研修を企画・運営したりするなどのハブ的な役割を担っています。人と人をつなぐファシリテーターの立場を担うことが多いので、福祉の現場で人の流れをよくすることが僕の仕事ですね。
竹端:西村くんは福祉の資格は持ってるの?
西村:入職したときは資格はもってませんでした。いまは社会福祉士の資格を取得しています。社協で働くには資格は必須条件ではないので、介護保険事業の事業を除けば無資格でも働くことができます。
あとは「公務員なんですか?」って質問もよくありますが、社協の職員は公務員ではありません。行政と連携しながら進める事業も多いので、公務員っぽい雰囲気が出ているかもしれません。うちのばあちゃんも「役所で働いてるやんなぁ」と今でも思っています。
人を繋いで現場の流れをよくする仕事
西村:県社協にいると、現場の福祉職のように個別のケース(利用者)を援助することはありません。現場で働いているひとと話すと、たくましいというか、バリバリやっている感じがして「かっこういいな。自分も現場に行きたいなー。」と思った時期もあります。
仕事上は「地域の支え合いが大切」とか言っても、自分自身の生活では地域の助け合いを実感してこなかったのでピンときていない。その矛盾に気づいてから、この仕事を続けるべきか悩んだ時期もありました。
竹端:悩んだ時期を乗り越えることができたのはなぜですか?
西村:災害支援を経験したことで大きく変わりました。災害の直後って「THE助け合い」と言えるような状況です。県内外からのボランティア受け入れや、支援体制作りの最前線にいた経験から多くのことを学びました。普段からつながりをつくっておくことの大切さがやっと自分の腹に落ちてきました。
「社協だからこそきること」に感じる可能性
西村:たとえば、大雨による浸水被害があった地域で、家財の運びだしや土砂の掻き出しはボランティアにお願いできますが、そのあとに家をリフォームして暮らすか、立て替えの必要性があるのかは素人には判断できません。大工さんないし専門職の力が必要です。そういうときに社協のネットワークをつかって、今おきている課題を集約して共有し「できることはありませんか?」という働きかけをします。「人と人をつなぐ」という役割を通じて自分自身も変わっていったことを感じています。
社協のように公共性を帯びている組織だからこそ、そこから広がりが生まれやすいんです。福祉業界の中でも経営者層に近いところにいるので情報も集まるし、積み重ねてきたネットワークがあるので動きやすい場所だと思います。そういえば、ホームレス支援をしているNPO法人の代表から言われた話が印象に残っています。
「あなたは町内会長に門前払いされませんね。それがなぜか、わかりますか?」
代表から強い口調で言われたので、その理由をたずねるとこう言われました。
「私たちのようなNPO法人は町内会長との信頼関係をつくるまでが大変。けど、あなたは個人で信頼を積み上げなくても、あなたの組織への信頼があるから町内会長や福祉の偉い人と話すことができる。それがどれだけの財産か、自覚した方がいいですよ。」
この話は強烈に覚えています。組織に属しているからこその難しさもありますが、伝統的な福祉組織だからこそできることがあります。可能性はたくさんある。そう思いながら働いています。
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【自主ゼミ2020】「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SWLABを探究する~」とは
正解なき時代を生きる私たちが他者や世界と向き合っていくために、ソーシャルワーカーとしての生き方・働き方、魅力や可能性をともに探索していく場。狭義のソーシャルワーカーの枠をはみ出したゲストの方々、そして参加者の皆さんと対話・共話を重ねることで、ソーシャルワーカーとは何かを問い直し、深めていく時間です。20年10月から21年3月までの半年間にかけて全10回開催しました。
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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える
私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。
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