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海と星空の冒険

その日、夕暮れの図書館の中庭はオレンジ色の光に包まれており、静かに本を読むカメの背中を照らしていた。彼は分厚い本に視線を落としながら、いつも通りの穏やかな表情を浮かべていた。そこへウサギが軽やかにやってきて、彼に声をかけた。

「カメくん、ウサギのティースプーンへのメールありがとう。そのことでちょっと聞きたいんだけど、北海道まで泳いだって、あれは本当なの?」ウサギは、ずっと心に秘めていた疑問をそっと口にした。

カメは目を閉じ、静かに記憶をたどりながら話し始めた。「そう、あのとき僕は青森から北海道まで泳いだんだ。波は荒れていて潮流もすごく速かった。それでも僕は泳ぎ続けた。まさに命をかけた冒険だった。津軽海峡は、世界中の海の中でも泳いで横断することが困難な『オーシャンズセブン』の一つなんだ」

「そんなこと、本当に人にできるの?」彼女は目を見開いてカメに尋ねた。カメは静かに頷くと、「僕は海で泳ぐチームに入っていたんだ。そして、気づいたら津軽海峡に挑戦することになっていた」と静かに笑った。

ウサギが言葉を失っていると、カメは話を続けた。「だから、一人で津軽海峡を泳いで渡ったわけじゃないんだ。仲間とリレーしながら泳いだんだ。三隻の漁船が泳者を囲むように三角形を作って守ってくれていた。サメやマグロがぶつかってこないように、船は電気でバリアを張っていた。もし本当に来たら、泳者は逃げるしかないって言われていたけどね」

すっかり日が暮れ、空には星々がちらちらと輝き始めた。ウサギはその星たちに向かって手を伸ばし、目を細めた。「津軽の海を渡るのは、私には難しいけれど、あの星の海なら、自由に泳げるかもしれないわ」と、彼女は小さな声でつぶやいた。

「いつか、あそこで冒険してみたいね」と、カメは静かに応えた。 その時、二人の想いは星々の間を駆け抜けた。

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