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まずは深呼吸から

夕暮れになり、昼間の温もりが少しずつ冷えていく頃、肩を寄せ合ったウサギとカメは、原宿に向かってキャットストリートを歩いていた。後ろから来た一台のタクシーが人で混み合った路上を切り裂くように進んでくるのを見て、二人は慌てて身を避けた。

洒落たアパレルやシューズのお店に視線を送りながら歩いていると前方に、もうすぐオープンする「ハラカド」が見えた。独特な形の屋上庭園が静かに交差点を見下ろしている。人混みに少しだけ疲れてふと立ち止まると、With Harajuku のイルミネーションが二人の目を引いた。

With Harajuku

ウサギとカメはイルミネーションの中で「抹茶館」という店を見つけた。「自分で抹茶を点てられるなんて素敵ね」二人は期待に胸を膨らませて店に足を踏み入れた。

ほのかに香る抹茶を手に入にした二人は、手順通り、心を落ち着けるための深呼吸から始めた。不慣れな手つきで茶碗を支えると、気持ちを集中させて抹茶を点て始めた。

森半抹茶の上別儀

どのくらい時間が経っただろう。「出来たわ!自分のために自分で点てた抹茶だから、世界に一つしかない抹茶の完成ね」ウサギはそう言うと、そっと茶碗に口をつけた。カメも静かに抹茶を口に含むと、「濃い緑色だけれど、口当たりが良くてまろやかな飲み心地だね。慣れない僕にも飲みやすい」と呟いた。

テラス席にそよぐ風が流れた。イルミネーションに照らされながら抹茶を飲む二人は、今日という一日に優しく見守られていた。

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