未来を翼に乗せて
真夏の熱風の中、ウサギとカメは羽田空港の滑走路を見下ろしていた。滑走路から飛び立つ飛行機は、まるで魔法の力を得たかのように、軽々と重力を振り切って自由に空へと消えていった。
しばらく言葉もなく、飛行機を見送っていたカメが口を開いた。「この場所に来ると、忘れかけていた旅の想い出が蘇るよ」
その声が耳に届くと、ウサギはじっと彼を見つめた。「あなたは、ワイキキの海を端から端まで泳ぎ、マウナケアの頂上で流れ星を眺めたことがあるんでしょう?」
「それに、パリのメリーゴーランドにも乗ったんだってね。でも、その時、私はここに置き去りにされていた…」ウサギは少し拗ねたように視線をそらした。
カメは彼女の手を取ると、スーツケースを引く人々に紛れながら、第1ターミナルへ向かう連絡バスに飛び乗った。
第1ターミナルの展望デッキに立つと、赤く染まった空の中に富士山がくっきりと浮かび上がり、二人を優しく見守っていた。
カメはウサギに向かって優しく語りかけた。「僕たち、一緒に南の島へ行ったこと、覚えてる? 西表島でカヤックに乗って、石垣島でサンゴ礁の海を泳いだよね。そして、日本で一番星が見える波照間島にも二人で行ったよね?」
「それは…そうだけど…」
ウサギの頬はふくらみ、納得していないことを物語っていた。
「大切なのはこれからだよ。僕たちには真っ白な未来が待っているんだから」
カメは慌てて、滑走路を飛び立つ飛行機をぎこちなく指さした。
「じゃあ、私の好きなところにどこへでも連れて行ってくれるのね?」ウサギは次の旅への期待を胸に抱きながら、カメに熱い視線を送った。
「私をどこに連れて行ってくれるの?」
ウサギは、まるで何も聞こえなかったかのように遠ざかろうとするカメの袖をしっかりとつかみ、にっこりと笑った。
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