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愛は割り切れない

「カメくん、おはよう!」カメがウサギとの待ち合わせ場所に向かって歩いていると、後ろから追いついてきたウサギが声をかけた。彼女は歩調を合わせながら、「今日は何の日だったかしら?」と、声を弾ませてカメの目をのぞき込んだ。

「おはよう、ウサギさん。今日は3月14日だから円周率の日だね。 円周率の近似値は3.14だから。 それと『パイの日』だよね。円周率のことをギリシャ文字で『π(パイ)』と表すからそうなったとか」カメはそう言うと、彼女の視線を静かに受けとめた。

「そうなんだ……」どこか割り切れない表情で肩を落とすウサギに、カメは少し慌てて続けた。「円周率はエンドレス。パイも生地を何度も折り返して層を重ねてつくるから、『エンドレスの愛』という意味があるんだよ…」

恥ずかしさのあまりだんだん小さくなるカメ声に、ウサギは小首を傾げていた。カメは彼女の前で気持ちを少し落ち着かせながら、「はい、ホワイトデーのプレゼント!」と照れながら手を差し出した。

カメの複雑な心の動きを測りかねていたウサギだったが、「カメくん、ありがとう!今、開けてもいい?」と、リボンを解き始めた。「わぁ、バームクーヘンね! 欲しかったの。でも、話を聞いていたら、パイも欲しくなってきたんだけど?」見つめてくるウサギに、カメは頬をピンク色に染めて下を向いた。「やっぱり、聞こえていたよね……」

ウサギはいたずらっぽく笑うと、「私は耳と記憶力には自信があるの。この前のバームクーヘンの年輪の話もちゃんと覚えているわ。だから、バームクーヘンが欲しかったの」

気まずくなり辺りに視線を彷徨わせるカメの隣で、ウサギは瞳を輝かせながら、プレゼントの入った箱を空高く掲げてみせた。

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