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しろいうさぎ と くろいうさぎ

穏やかな秋の午後、ウサギはお気に入りのティーカップとバターサンドをそっと窓辺のテーブルに並べた。アールグレイを注ぐと、優しい香りがふわりと部屋中に広がった。

彼女は部屋の隅の小さな本棚に歩み寄り、そっと一冊の絵本を引き出した。それは、大切な人からもらったもので、忘れようとしても忘れられない、特別な本だった。

窓辺に戻り、過去の思い出をそっと胸の奥にしまいながら、そっと最初のページをめくると、仲の良い白いうさぎと黒いうさぎの物語が静かに幕を開けようとしていた。

「二人で楽しい時間を過ごしているのに、ふと寂しくなる気持ち、すごくわかるわ。楽しい瞬間ほど、あっという間に過ぎてしまうから、余計に切なくなるのよね」ウサギはそっとページをめくった。

「それに、同じ時間はもう二度と来ないと思ってしまうと、楽しい時間がどこか遠くに感じられてしまうの。だから人は、約束を求めたくなるのかしらね」

ウサギはふと手を止めて、そっと窓の外に目をやった。柔らかい風が、色づき始めた木々の間を通り抜けていく。目に映る景色に、彼女は小さな切なさを抱いていた。

「でもね、くろいうさぎは勇気を出して、自分の気持ちを伝えるの。これからもずっと一緒にいられますようにって、しろいうさぎに言うのよ」彼女は少し照れくさそうに微笑んだ。

「言葉にするって大事だわ。思っているだけじゃ伝わらないし、同じ気持ちなら、きっと伝わるはずだもの」

バターサンドの甘さがゆっくりと口の中に広がると、忘れかけていた記憶が、甘く優しく蘇ってくる。

「このお話はハッピーエンドで終わるの。でも、じゃあ、この絵本をくれた人は、私に何を伝えたかったんだろう…」ウサギは、ふと視線を落として小さくつぶやいた。

冷めたアールグレイをそっと口に運ぶと、彼女の想いは、夕焼けに染まる空へと、風に誘われるように静かに流れていった。まるで誰かのもとへ伝えに行くかのように。

<しろいうさぎとくろいうさぎ>
ガース・ウイリアムズ 文・絵/まつおかきょうこ・訳/福音館書店

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