猫の街の散歩道
その日、ウサギとカメは千駄木駅の階段を上がると、団子坂を背にして足を進めた。よみせ通り商店街のレトロなお店に視線を走らせながら通りを右に曲がると、狭い路地にはすでに人々の波が溢れかえっていた。
谷中銀座に入るとすぐ、ウサギは前を向いたまま、隣に歩くカメの袖を引っ張り、「カメくん、何か視線を感じる?」と囁いた。「僕も感じるよ。気のせいじゃないね」とカメが応じた。二人が同時に視線を上げると、猫が屋根の上からそっと見下ろしていた。
「そう言えば、谷中は猫の街だったわねー。あっ、あの猫ちゃん可愛い!」ウサギがそう言いながら駆け寄ったのは、凸凹堂の店頭に並んだ、小さなブルーのねこ玉だった。
二人がお店に入ると、天然石を使ったアクセサリーがズラリと並んでいた。「これも可愛い!天然石にちょこんと耳が生えてるわ!」ウサギは飾り棚にぶら下がっていた「ねこ玉」に、小さな歓声をあげた。
ねこ玉に別れを告げたあとも、二人は猫の街のお散歩を楽しんだ。
名物の「夕焼けだんだん」を登り切り、谷中銀座を後にした二人は、谷中墓地を静かに抜けて、更にその先へと足を進めた。
やがて、古びたレンガ造りの建物が二人の視界に入ってきた。カメが静かに足を止めた。「ここが国際子ども図書館だね。出版された作品は全て、国立国会図書館に納められるんだけれど、ここには児童書がすべて集められているんだ」
「そうなのね。今度ゆっくりと来たいわ」と、ウサギは名残惜しそうに呟いた。
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