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じいじのさくら山

図書館の児童コーナーで、ウサギはゆっくりとその絵本を閉じた。瞳に押し寄せてきた涙のせいで、彼女の視界はぼんやりと滲んで見えた。「カメくん、ずるいわ。こんなに私を泣かすなんて」彼女は以前カメに拾ってもらったハンカチで、静かに涙を拭った。

「桜の季節にピッタリの絵本を読みたいの」そう言ったのはウサギだった。カメはしばらく考えた後「これがいいと思うよ」と彼女に一冊の絵本を紹介した。それが、松成真理子さんの「じいじのさくら山」だった。彼は春のおはなし会で、いつもこの絵本を読み聞かせていたという。

「じいじ」と孫の男の子は、いつも二人でさくら山に登る。じいじは山のことなら何でも知っている。
「じいじは すごいな」おれがいう。
「なんも なんも」とじいじがわらう。

ある日、じいじが病に倒れる。心配でたまらない「おれ」は一人でさくら山に登り、桜の木に祈った。
「じいじの びょうきを なおして ください」「おれ」の祈りが通じて、「じいじ」と「おれ」は、再び桜の咲くさくら山に登る。それが最後になるとも知らずに…。

ストーリーをそこまで思い出した時、ウサギの頬をまた一筋の涙が流れ落ちた。「カメくん、この絵本を見つけてくれてありがとう。私もこの絵本に出合えてよかったわ」

ウサギは図書館を後にして、桜並木を歩き始める。ふと横を見ても今日はカメはいない。あの絵本を読んだからかもしれない。今日は一人でいることが、いつもより寂しく感じるウサギだった。


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