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シンプルを問い直す Less is not always More

2010年代に入ってから「ミニマリスト」という言葉をよく聞くようになりました。この連載コラムのテーマも、現代的な価値観の中で「シンプルでこだわりのある生き方」をいかに追求していくか、というものなので、今回は「ミニマリスト」(つまりシンプルに生きるということ)を、今どのように解釈すべきかについて考えてみたいと思います。

海外では、2010年頃に「The Minimalists」と名乗る二人組が現れ、そのコンセプトをアメリカ中を行脚しながら広めていくという出来事がありました。日本では、欧米よりも少し遅れてこのような考え方が広まり、2013年にマガジンハウスから『&Premium』が創刊されたことがひとつの転換点だったように思います。そして、この2つの事例を比べるだけでも、前者はどこかストイックで男性的、後者は柔らかくて女性的(ターゲットが女性だったこともありますが)と、シンプルライフの在り方も多様であることに気付かされます。

そんなことを考えている中、たまたま聴いていたPodcastから斬新な視点を得る機会がありました。若林恵さん(元WIRED日本版編集長)率いる黒鳥社とコクヨのコラボレーションで運営されている『コクヨ野外学習センター』という番組内に「働くことの人類学」というシリーズがあります。文化人類学者の松村圭一郎さんをホストに、毎回異なる文化人類学者をゲストに呼び、働くことの周辺にあるさまざまなテーマを掘り下げていくという内容です。

ある回の中で、パプアニューギニアでフィールドワークを行う文化人類学者の方が、現地に「シンプルマン」という表現があるんだ、という話をしていました。その社会では、人々は近代化した生活に適応しているにも関わらず、一般的な「法定通貨」とコミュニティ内でのみ使える「貝殻でできた通貨」の二種類のお金が共存していて、その人物が偉大かどうかは、人生の最期に貝殻のお金をどれだけ持っているかで決まる、という価値観が存在しているそうです。貝殻のお金は、コミュニティにどれだけ貢献したかを示す尺度でもあり、その社会において意味のある人生を送っていることの象徴でもあるが故に、コミュニティ内で交流や貢献を生まずに生きている人(結果として貝殻のお金をあまり持たない人)は、「寂しい生き方をしている人」という揶揄的な表現として「シンプルマン」と呼ばれるのだそうです。

この話は、シンプルであることの「盲目的な側面」を鮮やかに浮き彫りにしてくれています。シンプルでこだわりのある生き方を追求していこうとするとき、自己の中に閉じるような価値観だけで取捨選択を突き詰めていくと、自分自身との関係においては豊かであっても、他者や社会との関係においては乏しい、「シンプルマン」な人生へと向かってしまう可能性もあります。

高度複雑化した現代社会という前提の上に生きる私たちは、所持するモノや他者との関係をシンプルにしていくことが、なんとなく効果的で正しいことのように考えているかもしれません。しかし、そうした形式的な処方箋に振り回されることなく、幸せや豊かさとは何かということを自分の頭で思考し続けることが、本質的には大切なのだと気付かされます。


NOTES:
・「The Minimalists」の二人の物語は、2016年に公開され話題になった映画『ミニマリズム: 本当に大切なもの』に描かれています。ミニマリストについて改めて考えてみたい方はぜひ。
・「貝殻のお金」についての詳細は、「お金って何だろう?」の回で語られています。私たちの生き方について予想外の角度から新しい視点をもたらしてくれる刺激的なコンテンツで、他の回も含めてオススメです。

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