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三種の美学 Power of Three

SIPSMITHの英国版オリジナルカクテルブック『SIP』では、SIPSMITHを含む3種類の材料だけでつくる100種のカクテルが紹介されています。カクテルの歴史を紐解くと、現代でも人々に知られているような(あるいはどこのバーでも注文できるような)カクテルは、19世紀後半のアメリカの都市部で発展したと言われています。「カクテルの女王」と呼ばれるマンハッタンや、「カクテルの王様」と呼ばれるマティーニなども、この時代に誕生しました。

一般的に「クラシック・カクテル」と呼ばれるものは、20世紀半ば頃までに生み出されたドリンクのことを指すと言われますが、その多くは2〜3種類程度の材料でつくられた極めてシンプルなカクテルです(日本ではほぼ同義として「スタンダード・カクテル」という呼び方をされることもあります)。一方、現在世界中のバーテンダーたちが競い合っているモダン・カクテルの潮流は、いかに材料と技法の複雑な組み合わせによって新しい味のカクテルを生み出すことができるかという挑戦であり、シンプルから複雑へと向かって進化してきたカクテルの歴史の一端であると捉えることもできます。

SIPSMITHのカクテルブックの話に戻すと、その本では、現代にあえて3種の材料でつくるカクテルのみを紹介する、ということを試みています。本の背表紙にも、「カクテルは必ずしも複雑である必要はない」という言葉が刻まれているのですが、そこから彼らのまっすぐな姿勢を感じることができます。「こだわりを持ったシンプルさとは何か」ということを突き詰めていくと、「広さ」と「深さ」の関係性に行き着くのではないかと思います。そしてそれは、私たちの生活の中のあらゆる物事における「美学」の話にもつながってきます。

日々の生活の中の例で言えば、「服」が分かりやすいかもしれません。シーズンやトレンドでたくさんの新しいスタイルが現れるので、それらを「広く」把握し、自分のコーディネートを毎シーズン更新していくことは、なかなか複雑な作業のように思えます。しかし、仮に自分の中でのコーディネートを常に3パターンに絞り込んでしまうとすれば、それらをどうやって「深めていくか」ということに意識が向くようになります。決してバリエーション豊富じゃなくても、少ないパターンで服を上手に着こなしている人を見ると、そこに独自の美学と魅力を感じるものです。

「3種」の制約は、俳句で言うところの「五・七・五」の制約に近いかもしれません。美学というものが「思考」と「試行」の積層だとするならば、制約が強いほどそのサイクルを回す経験は増え、物事を深く掘り下げやすくなると考えることもできます。カクテルや服にとどまらず、生活のさまざまな部分で、私たちは持て余すほどの選択肢を常に抱え(そして多ければ多いほど素晴らしいという幻想の中に生き)、日々物事を選択するだけでも膨大なエネルギーと時間を費やしています。まずは何かひとつの対象でも、選択肢を3つに絞り、それらを深く掘り下げていくことに注意を向けてみるのはどうでしょう。そのような習慣の先に、予期していなかった「自分なりの美学」が、ふと立ち上がってくるかもしれません。


NOTES:
・SIPSMITHの「シンプルであること」に対するこだわりは、『リカーページ』というメディアの記事でも詳しく読むことができます。

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SIPSMITHの創業者の一人であるジャレッド氏が、前述の『リカーページ』の記事内で、お気に入りのジン・トニックの飲み方を紹介しています。やはり極めてシンプルな内容ですが、引用したいと思います。

1. グラスに3つの氷を入れます。
2. 「シップスミス ロンドン・ドライ・ジン」を50ml加えます。
3. 100mlのトニックウォーターをそっと注ぎます。(普段は家にある「フィーバーツリー」を使っていますが、良いトニックはたくさんあります)
4. かき混ぜずに液体を2〜3回持ち上げます。こうすることで泡を保つことができます。
5. 蒸溜所ではガーニッシュ(添え物)にライムを使いますが、私は小さなくし形のレモンや柑橘類のツイスト(アレンジ)も楽しんでいます。

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