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非婚化/少子化が止まらない問題の裏側

今年発表された2023年度の日本の出生率が衝撃的である。

総務省の発表によると1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は1.20と1947年に統計を取り始めて以降、最も低くなったらしい。東京都に至っては0.9と初めて1を割り込んでいる

作家の橘玲さんが著書「臆病者のための億万長者入門」で以下のようなことを書かれていたことを思い出す。

未来がどうなっているか、どのような事件が起きるのかは分からないが、人口動態だけは例外的に精度高く予測できる。

大戦争や革命などが横行する乱世ではない現代の先進諸国においては、年齢ごとの死亡率は統計的に精度高く予測可能であり、いまのゼロ歳児が平均寿命を迎える約80年後あたりの人口構成がどう変化していくのかはあらかじめ分かっている。

2050年:人口9500万人、総人口に占める老年(65歳以上)人口39.5%

恐らくほぼこの未来予測通りになると思っていて間違いないだろう。

さて、少子化問題とは書いて字の如く子供が少なくなる問題だが、子供が誕生するには健康な男女が必要であり、その中でも出産に適する年齢の女性が必要であることは人類の構造上言うまでもない。

そしてこの国では多くの場合、結婚をしない状態で子供を持つ割合は低いので、婚姻数と出生数は相関性が強いことは下図で示されている。

出典:読売オンライン

A:婚姻数が減っている⇒出生数も減っている
B:出生数が減っている⇒婚姻数も減っている

では、婚姻と出生の間に因果関係はあるのだろうか?

相関関係と違い関係性が一方通行の因果関係が成立するためには、相関関係より厳格な条件をクリアする必要があるのでもう少しデータが無いと簡単に言い切ることは難しい。

ちなみに因果関係の成立に必要な3つの条件は以下である。

①必ず要素A(原因)の発生後に要素B(結果)が起きる

②「要素Aと要素Bにそれぞれ2つ以上の側面がある」かつ「要素Aと要素Bに関係性がある」

③要素Aと要素Bの両方を引き起こす「別の要素C」が存在していない

特に③がポイントになりそうで、要素A(婚姻数減少)と要素B(出生数減少)の両方を引き起こす別の要素Cの存在有無である。

婚姻数減少と出生数減少の両方を引き起こす別の要素Cとは何が考えられるだろうか?

例えば、結婚適齢期の男女が減ったのか?または出産適齢期の女性のみが減ったのか?別の切り口として生殖機能が不完全な男女が増えたのか?等々。

下の表を見ると、全国で人口が最大である東京の出生率が全国最下位となっている。

ただ、「人口が多いからといってその人口の内訳として結婚適齢期の男女が多いとは限らないし、出産適齢期の女性が多いとも限らないのではないか」、という屁理屈じみた仮説も出てきそうだ。

次のデータは東京都の転出入データとなる。

出典:統計局(https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/194.pdf)
出典:統計局(https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/194.pdf)
出典:統計局(https://www.stat.go.jp/data/idou/2023np/jissu/youyaku/index.html)

これらのデータを見て分かる通り、東京はどの道府県よりも転入が多く、転入者年齢内訳で見ても、15歳~29歳の転入者が多い。さらに転入超過数で見ると女性の方が多いことが分かる。

統計上では「東京は人口が多いからと言って結婚適齢期の男女が多いとは限らないし、出産適齢期の女性が多いとも限らないのではないか」という仮説は立証されなかったと言って良いだろう。

一方センシティブな内容なのでどこにも開示されないと思うが「生殖機能が不完全な男女が増えたのか?」どうかは有用なデータが見当たらず筆者には分からない。

ここまでで分かったことは下記である。

・最大人口の東京で結婚適齢期の男女が減ったという事実はない

・最大人口の東京で出産適齢期の女性が減ったという事実はない

・東京の出生率は全国最下位である

・出生数と婚姻数は相関が強い

・生殖機能が不完全な男女が増えたかは不明

わざわざ各種データを並べ立てなくても、多くの人が予想できそうな内容である。

子供を作ることが可能な人間は多くいるのになぜか子供が生まれない(作らない)のである。

次にもう一つ、「なぜ結婚しない(できない)のか」という問いに目を向けてみたい。

「結婚はコスパが悪い」
「家庭を運営するお金(自信)が無い」
「出会いが無い」

という理由はよく耳にするが、本当にそうなのかは疑わしい。

少し調べればわかると思うが、東京都で働く20代30代の平均所得は男女ともに全国でも最上位である。

そしてグローバルでみれば日本は相対的にも実質的にも経済的には恵まれている。

よって経済的理由による婚姻率及び出生率低下は考えづらい。

確かに高等教育の履行が半ばマスト化している状況を考えればそれなりの教育費用も必要になるが、本当にお金が無ければ奨学金制度の活用だって可能なはずだ。

不動産価格も近年顕著な上昇を見せているので住宅を取得するコストも上がっているが、住宅は賃貸住宅もあるので「購入住宅価格が高い=婚姻しない」という図式は無理やり感が否めない。

ここから導けるひとつの結論としては、政府や自治体からの経済的な婚姻/子育てへの支援策は一定の効果は期待できるがボトルネックを直接取り除くようなクリティカルな施策にはなり得ないと考えている。

その根拠に言及すれば、経済的に恵まれない国や地域で子供が多いところはたくさんある。かつての戦後日本もそうだった。

これらの地域は貧しいが故に一人では生きていけないのである。子供も働き手として多ければ多いほど家計全体としては有利になる。コスパの観点から言えば生活費は人数が増えれば良くなる計算だ。

逆説的だが、筆者の仮説はこの辺りにある。

要するに、結婚しないことも出生数が少ないことも、「豊かになり過ぎた」ことが根本原因なのではないか?

下図はアメリカ中央情報局(CIA)が出している国別出生率データである

出典:https://eleminist.com/article/2585


出典:https://eleminist.com/article/2585

傾向として出生率上位国は新興国未満の国が多く、下位の国は先進国が多く含まれている。

豊かになり過ぎたあまり、幼児教育にもこれまで以上のコストを掛けるのが当たり前、高等教育にもコストを掛けるのが当たり前、自宅は買って当たり前、、、という一種の「豊か過ぎる固定観念」が都市部に住む現代人のデフォルトになってしまった。

そのような”虚像の固定観念から外れること”を「みんなと違う」と錯覚し、「みんなと違う」と「(なんとなく惨めな気がする)」のである。

であれば、別に「(不自由ないし)結婚しない(出来ない)」という論法になっているのではないだろうか。

要するに「お気持ち」の問題である。

個人的な意見だけ添えておくと、上記のような論法で結婚をしない選択をしたり、子を持つことに消極的な傾向が加速することは非常に残念である。

最近では”子供は嗜好品”や”お金持ちしか子供は持てない”的な意見も多いらしい。

色々な意見はあっても良いが、人間も生物であり、生物とは種の保存をなしには絶滅に向かう運命である。

これまでの歴史の中で先人たちが繋いできたものや社会インフラをある意味「自分勝手なお気持ち」で収縮させてしまう事はそれこそ現代人のエゴな気がする。

別の切り口では”そもそも出会いが無い”という話がある。

こちらも都市部に限ればこれだけ若い人口が集まっている現状を考えると幻想だ。

池には確かに魚がいる。

しかし、池を眺めているだけでは魚は釣れない。

適切な仕掛けの付いた釣り糸を自ら垂らすかどうかの問題だ。何も行動しないで”運命の出会いが向こうからやってくる”ことなど無いのだ。

ここで考えるに値する問題として、”適切な仕掛けとは何か”と”池の環境把握”である。

言い換えれば婚姻プロセス変化の把握である。

お見合いによる出会い⇒結婚が減り、自由恋愛による結婚が主流となって久しい。下図は少し古いデータだが、今でもその傾向に変化はないものと推測する。

更に近年ではテクノロジーの発達によりマッチングアプリなどのインターネットを通じたオンラインデーティングサービスが隆盛を極めている。

筆者も周りから「合コンはオワコン」と聞き驚いた。しかしそもそも合コンとは結果的に結婚相手が見つかる事もあるが、初手から結婚相手を見つけに行くものではないのだが。
※この話をすると長くなるので今回は割愛

旧来の自由恋愛市場は職場や学校など所属する身の回りの環境や友人の友人のような人的ネットワークが主な範囲となっていたが、インターネットとテクノロジーの進化によりその範囲は一気に拡張された。

自由恋愛市場のオープンワールド化である。

恋愛に限らず、オープンワールド化、自由化した世界は格差の拡大に繋がることは市場の原理なのだが、例に漏れず恋愛市場もモテ/非モテの格差が広がる世界となった。これは経済的格差よりも残酷だ。

また人間に限らず動物社会の初期恋愛市場の力学としては「メス=選ぶ側」「オス=選ばれる側」という構図となっており、人間社会においても、”出会い⇒恋愛の初期段階”においては女性が優位なマーケットである。

このような環境下では面白いことが起こる。下図はそれを単純に表現したものだ。

引用:https://optilover.com/matchhack/

要するに、一部のモテる男が大部分の女性とマッチングする。それは結婚を前提としたマッチングではない”遊びのマッチング”も含めてである。

①「選ぶ側の大多数の女性」は恋愛市場カースト上位のモテる男を選ぶ

②モテる男は複数人の女性と繋がりはじめる

③”たとえ遊びでも”モテる男性と繋がってしまう女性は「私に釣り合う男のレベルはこのレベル」とアンカーされる

④それ以降、女性側はいわゆる普通の男性を透明化し恋愛対象から外す

上記のようなことが起こると想像しているし、筆者のフィールドワークによる観察の範囲でもこの現象の発現はとても多い。

しかし日本は一夫多妻制ではなく一夫一妻制なので、同時期に婚姻関係に与れる女性は1人の男性(モテ)につき1人となる。

「出会い⇒恋愛」フェーズでは「選ぶ=女性」だったが、「恋愛⇒結婚」フェーズでは「選ぶ=男性(モテ)」と男女の立場が逆転する現象が起こるのだ。

ここで「選ばれなかった女性」は自由恋愛市場(選ぶ側)に戻るのだが、上記の様に自身にアンカーされた男性の基準を落とさない。

以降、このループである。

そうこうしているうちに月日が流れ、女性は結婚適齢期も出産適齢期も後半に差し掛かっている事に気付く。

ここで女性は自らのアンカーを外し、「現実的な出会い⇒結婚」まで繋げられる人はうまく行くと30代前半~中盤に結婚し子供を授かる。

アンカーを外せず、婚期も出産適齢期も逃すと女性は独身街道を突き進むことになる。

一方、男性はというと、モテ男性以外は透明化され、すっかり自信を無くしている。また女性から拒否されるのを恐れ消極的になっている(草食化)。

そんな中でもめげずに「現実的な出会い⇒結婚」まで繋げられる男性はうまく行くと30代前半~中盤に結婚し子供を授かる。

このように、自由恋愛市場は出会いと結婚のハードルが上がる仕様なのだ。

ちなみに、2020年のデータでは生涯未婚率が男性で28%、女性で18%と10%の開きがある。

この10%の差も上で説明した「モテ男総取り理論」で簡単に説明できる。

生涯未婚率の定義は【「45歳~49歳」と「50歳~54歳」未婚率の平均値から、「50歳時」の未婚率(結婚したことがない人の割合)】である。

要するに1度結婚をし、その後離婚した場合はカウントされない。例えば1人の男性が2人の女性と結婚をすると(そのうち1人の女性とは離婚している)、女性側の生涯未婚率は男性と比べ下がるということになる。

これが、昨今の晩婚化、トレンドとして生涯未婚率の上昇、生涯未婚率の男女差に繋がっている根本的な原因なのではないかというのが筆者の考えだ。

ここまでをまとめると、まずは自由恋愛オープンワールド化の弊害として晩婚化、生涯未婚率の上昇があり、次に”お気持ち”による非婚化が加わって少子化にドライブが掛かる、という流れだ。

仮に筆者の考えがある程度正しかった場合、やはり現在進行している政府や自治体の結婚子育て支援策は少子化を止めるクリティカルな解決施策にはなり得ない

ひとつだけ気になる施策として東京都がAIマッチングシステムというマッチング事業を始めるらしいのだ。

AIが相性の良い方をご紹介します。見た目や条件だけでは測れないものが思わぬ出会いをもたらすかもしれません。

https://www.futari-story.metro.tokyo.lg.jp/ai-matching/

記載の様に「希望条件マッチングシステム」ではない点がこれまで書いてきたようなオープンワールド化した代償をどこまで拭えるのかに注目だ。

個人的にはAIの精度が悪く、ランダムマッチングのような仕様を期待したい。

誰が悪いとか、環境や社会が悪いということではないし、結婚をして子供を持つことが幸せだとか、一人でも幸せだとかいう”お気持ち”の話もしていない。

少子化問題、非婚化問題は「マーケットの仕様」の問題である。

経済的に物質的に豊かになり、テクノロジーの発達で便利になった結果、我々個人としては家庭を持ち、家族との濃い人間関係構築や愛情の豊穣という人間にとって大切なものを失いながら、国としては衰退の道を転がり落ちるとはなんとも皮肉な結末である。


おしまい

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