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【小説】蕎麦屋(意外ないちめん)

 ぼくは湊さんと歩きながら同じジムに通うワタナベくんがいかに厭な奴かを説いていた。
 ワタナベくんは厭なやつだ。
 恐らくぼくのような浮ついた見た目の人間が本能的に嫌いなんだと思う。学生時代にいじめられたとかじゃないと思う。むしろいじめていたタイプなんじゃないだろうか。

 マススパーリングだと言うのに打撃は本気だし、実際にスパーリングをすればラビットパンチを使ったり親指を目に入れてきたりする。
 そうやって他人には気づかれない程度のいやがらせをしてたんだろうな、後ろ暗い性格だなと思う。
 きっと年子の弟がいて、その弟も苦労してるんだと思う。兄弟仲は最悪に違いない。

 だいたい右利きなのにサウスポーと言うのも気に喰わない。
 元々がボクサーだか何なのだか知らないけれど気取ってる。
 とにかく彼はぼくが嫌いで、ぼくも彼の事は好きでは無い。その前にジムにいたスズキさんもぼくが好きでは無かったし、嫌われる傾向があるのかも知れない。
 球技や集団競技が好きでは無いから個人競技をやっているのだけれど、個人競技のジムで同じジムに通う人間に嫌われるのであればぼくと言う人間に大きな問題があるのかも知れない。

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