円としての宇宙や数字(点Pと点Qについて)

タウ=ゼロと言うSF小説がある。
壊れて止まらなくなった宇宙船が際限なく速度を上げ続け、それでも宇宙を飛んでいく物語だ。宇宙船は止まることなく物語は終わるので読後感は恐ろしいものがある。

無限の星の彼方に消えた宇宙船は地球とは別の時間軸で存在している。地球から遠ざかれば遠ざかるほどにその時差は大きくなる。
にわかには実感し難い。だが実際に地表から離れた地点には時差がある。身近なところで言えばスカイツリーの上と下で既に10億分の4秒と言う時差が確認されている。


イメージしやすいか分からないが円盤の中心と外側では回転速度か違う様に、無限の彼方に消えた宇宙船と地球では致命的な時差が発生するのだ。
もう誰も乗組員の事を直接知らない。資料や歴史の人物になってしまった。存在の消失だ。宇宙船は点Pとなって地球と結ばれた線上を飛び続ける。永遠に。


永遠に?


ゼロと言う偉大な意味を与えられたポイントから始まって、恒河沙や阿僧祇の向こうに「無量大数」がある。いわゆる無限だ。厳密には無量大数の後にも数は続いているけれど確認はできない。できる人もいない。たぶん。

そこに点Pがある。そして点Pは動き出した。まっすぐに動く点P。点Pがゼロと言う虚無から始まってやがて無限に達した時、その点Pは意味を失って虚無になる。タウ=ゼロ。それは逆向きに動いた点Qでも同じ事だ。マイナス無限に達した時に点Qは意味を失って虚無になる。

その時だ。点Pと点Qは等しい存在になる。等しく無意味で等しく虚無なタウ=ゼロの点たち。そこで彼らは虚無と言う偉大なゼロポイントで交わり、ふたたびその偉大なゼロポイントから動き始める。

つまり円だ。無限に広がる円を描いて動き続ける点たちだ。数学的にはどうか知らないが少なくとも私にとって「それ」は円である。


タウ=ゼロの主人公たちが地球に帰還できるのはいつか分からない。だが彼らはやがて無限に到達した時にそこを折り返し地点として、再び無限からの道を行くんだろうなと思った。

小さな希望だ。あまりにも弱くか細い光だけど。
 

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