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Re:【短編小説】Misaki of Se7en

 冬は晴れている方が寒いということに納得がいかない。
 アキオは濃い排気ガスみたいなため息をついてスマホをポケットに押し込んだ。
「どうしたよアキオ」
 うんこ座りをしたマサトがコーヒーの空き缶に唾を垂らしながら訊いた。唾は空き缶のすぐそばに落ちてシミにたった。
 そのマサトが指先に持っている煙草から火種を貰いながらカズナリが嗤う。
 「どうせ彼女のことだろ?」
 カズナリは吸っているのか吹かしているのか、吐き出した大量の煙がぐるぐると回りながら寒空に昇っていく。


 アキオたちがファミリーレストランと言うパラダイスを失ってからはコンビニの駐車場くらいしか行く先が無かった。
 敵対チームと店内でケンカをすれば出入り禁止にもなる。
 手当たり次第コンビニの駐車場でたむろしては店長に通報されたが、あまりやる気の無い経営者のコンビニを見つけてからは、そこで屯すようになった。


「いや、おれの彼女じゃなくて」
 アキオがぼんやりしながら答える。
「じゃあなによ」
 マサトが唾を空き缶に落としながら言う。唾は空き缶から 外れて地面のシミになる。
「まぁいいじゃねぇか」
 アキオはあいまいに誤魔化そうとしたがカズナリが後を引き継ぐ。
「暇つぶしになりそうな事をね、探してんのよ。アキオは」
「カズだってそうだろ」
 二人がお互いの肩をグーで叩きあっていると、やたら騒々しいバイクに乗ったセブンが到着した。
「やー、まいったまいった。親父がうるさくてよ」
「うるせぇのはお前のバイクだ。まだチャンバーの割れ、直してねぇのかよ」
 マサトが唾を空き缶に落としながら言う。唾は空き缶のふちに当たると、缶にそって地面に垂れるとシミを作った。
「金がねーんだもの」
 セブンはサイドスタンドを立ててバイクを停めると三人の輪に入ってしゃがみ込んだ。
「親父がうるさいって、なによ」
 カズナリが大量の煙を吐きながら訊く。
「マスク外せってさ」
 セブンはマスクを下げると、アンパンで細くなった歯を見せてニヤリと笑った。
「やめらんねーのよ、スコーンと気持ちよくなるからさ」
 セブンは再びマスクを戻した。
 こんなご時世になってマスクで隠せるものがあるとはな、と思ったが知っている人間は全員知っているので隠す意味も無いのかも知れない。

「そう言えばお前ら産業道路のアレ知ってるか」
 アキオが切り出すとカズナリが身を乗り出した。
「なによ、産業道路のアレって」
「あー、産業道路の7人交機?」
 マサトはつまらなさそうに言った。
「そう、産業道路の交機」
「そえってあーだべ?あのおっかねーセンパイぁ白バイ乗ってるってぇ」
 セブンがアンパンを喰いながら話に入った。
「そう、そのそれだ」
 アキオは面倒くさそうに答えた。
「暴走族あがってやる事が青い制服きた暴走族ってんじゃな」
 マサトが空き缶に唾を落としながら笑った。唾は空き缶の飲み口に音もなく入っていった。

「暇なのかね、警察」
 カズナリは煙草をさかさに咥えるとフィルターから勢いよく大量の煙を噴出させた。
「それで昔ぜって~だったチームのやつら、潰して回ってんしょ?」
「やっぱ暇なんじゃん」
「まぁあれよ、地元じゃ配属されないからってわざわざ住民票移してるって事はさ、なんか入れ知恵してるのがいるっつーことだべ?」
 煙草を無駄に灰にしたカズナリが鼻毛を抜きながら言う。
「まーそーなるよな」
 セブンがわかっているのかわかってないのか曖昧な相槌を打った。

「アキオはなんで急にその話を?」
 マサトが話をもとに戻した。
「いや、なんかその7人交機の先輩がさ、さっきラインしてきて」
「あー、チアキちゃんじゃないやつね」
「チアキってだえよ」
 セブンは呂律の回らない舌で話を乱す。
「アキオの彼女だよ」
「まだそんなんじゃねーよ」
「いいから、そんでその交機の先輩がどうしたってのよ」
「いや、なんか事故って死んだって」


 アキオが言うと、全員が黙ってアキオを見た。
「それで、巡回に出ると明らかに知らない誰か制服着たい奴いねぇ?って」  
 アキオが続けると全員がほぼ同時に空を見た。
「そんでなんかその七人を見ると不幸になるから気をつけろって」
 曇り空に浮かんだ月がぼんやりとした形を光らせている。
 適切な言い方が何かあった気がするが、誰もそれが何かを言えずにいる。
「あのよ」
 セブンが思い出した様に言った。
「さっきから言ってる住民票ってなに。免許じゃなくて?」
 カズナリが嗤う。
「お前の場合、それにしたって持ってないだろ」
「アハハ」
「歯が無くてもアハハってか」
「っていうか、この中で免許持ってるのアキオだけでしょ」
「真面目だもんな」
「就職決まってるし」
「あー、ちゃんとしねぇとな」
 だらだらと雑談が始まった。
 他愛のない会話でコンビニの駐車場が埋め尽くされていく。
 まぁ俺は就職決まってるもんな、と呟いてアキオは煙草を空き缶に押し込んだ

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