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【小説】さようなら the Issue

「ちくしょう、なんで入らないんだ」
 陰茎をあてがって押し込もうとするがうまく入らない。
 女はまだ眠っているが、いつ目を覚ますかわからない。玄関の方も気になる。買い出しと出迎えを終えた奴らがいつ戻ってくるか。

 ここまで入らないのは想定外だった。
 しかしゼリーを使う訳にもいかない。一瞬でもいいし先っぽだけでもいいからこの女に入れておきたい。
 これで生涯最後のセックスになったって構わない。一生をこの思い出だけで生きていくのでもいい。

「俺を受け入れろよ、なんで拒むんだ」
 女は固く閉じたままだった。指のひとつも入りそうにない。唾をつけたがどうにもならない。
 ずらした下着の所為かとも思ったが脱がせている暇もない。
「ちくしょう、おい、俺を」

***

 先輩はため息をつくとコップの中の氷をストローで突きまわしていたが、それにも飽きると再び短いため息をついてぼくに訊いた。
「お前はどうしてそう、私の処女性にこだわるんだ」
「何ででしょう」
 ぼくはまっすぐ先輩を見つめたけれど先輩はこちらを見ようとしない。
「男は最初の男になりたがると言うがお前もなのか」
「そりゃあ、そうなんですけど。その理由をうまく言語化できないと言うか」
「最初なんてロクなもんじゃあないだろう。どうせ上手くできないんだし」
「えっ」
「一般論の話だよ。大体、最初の記憶なんて薄れてしまって思い出す事なんて無くなりそうだが」


 先輩は意地でもこちらを見ないと言う風にして外を見ているが、その視線の先には何もない。
 窓の外には鳩やカラスも飛んでいないし雨も降っていない。
 ぼくは先輩の答えに少し安心しながらも、やはりこちらを見ない先輩に対して少し寂しさを覚えていた。

「それでも、最初にぼくを受け入れてくれたと言う事は重要じゃないですか。その相手が誰なのかも」
 ぼくも少し気持ちが挫けてきて、コップの中の氷をストローで回してみた。
 溶けた氷が小さな音を立てて崩れた。
 それでも先輩はこちらを見ない姿勢のまま「でもそれはお前にとって相手が誰か重要であったとしても、相手も初めてである必要はなくないか?」と言った。

「最初に受け入れてくれた相手の最初である事は重要だと思います」
「そうか?」
「それこそ二回目以降って最初に比べたらハードル下がるじゃないですか」
「足を開くとか相手に対する判断基準とかが、か」
「はい。なので最初の相手の最初って言うのは、重要ですよ」
「それはもうあれじゃないか、私に対する告白じゃないか」
「もうバレてないとか思っていませんから」
 先輩は驚いた顔でこちらを見た。

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