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【超超短編小説】祖父の山

 田舎に行くと山がある。
 山と言ったところで何がある訳でもない、単なる野山だ。
 高速道路や新幹線から見るタイプの手入れされていないあの山がひとつ、どうやら我が家のものとしてあると言うのを聞いた。


 そうは言ったものの登記も曖昧なもので、実際に祖父は隣家と土地の所有権を巡って裁判になり、結果的に幅15cmほどの溝川を半分に割った人間だ。
 その山だって本当はどうだか怪しいものである。


 しかも何か採れる訳でも無ければ、物流拠点に買いたいと言う企業が出る訳でも無い。
 仮にそんな話が持ち上がったとて、近所には似たような山が幾らでもあるのだから売ったところで二束三文だろう。


 自衛隊なんかが借り上げてくれるのであれば、などと言って笑っていた祖父が死んだ。
 別にそこに埋めてくれと言う訳でも無かったので、普通に先祖代々の墓に骨を埋めた。
 地方の風習なのか、墓石の下にある穴に遺骨は乱雑に投げ込まれた。


 骨壷から出て墓穴に入らなかった骨片を拾い上げる。
 その瞬間に思い立った。
 あの山の中に、勝手にお社様を建てよう。
 それらしい石仏みたいな小さい石を置いておけば良いだろう。
 その下に、木箱に収めたこの骨片を置く。
 祖父はその山で神となるのだ。


 もしかしたら先客がいるかも知れないが、構うものか。
 いつかは誰かが訪れて、ネット怪談か何かで見るかもしれない。それはそれで楽しみだ。

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