【小説】キックスタートビスケット
インターホンが鳴らされた。
俺が部屋の電気を消して向かいのマンションに棲む人妻の着替えを覗きながら自身のエンジンをキックしていたタイミングでだ。この人妻は俺に限らず他人に覗かれているのを知った上で部屋中の灯りをつけて着替えをしている。頼めば一度くらいセックスさせて貰えるかも知れないなと思うが、いくら勃起不全の旦那とは言えあの風体の男と揉めるのは誰しもが厭がるところである。結果的に覗きながらそれぞれのエンジンをキックして終わる。
それにしてもインターホンが鳴らされた。
俺はアイドリングが不安定な心臓を宥めてからジャージを腰まで引き上げて煙草に火をつける。咥え煙草で玄関に立って覗き穴から外を伺うと隣に棲む女子大生が白衣を着て立っていた。
掛かりかけていたエンジンが沈静化したのを確認してからドアを開けると
「あのこれ、作り過ぎちゃって」
と女子大生が寸胴を俺に差し向けた。
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