ホットフラッシュ対策もヨガで:更年期世代の血流改善ガイド
更年期の不調とヨガについての第2回です。
前回は更年期に起こる心身の変化について、またヨガがどうサポートできるかについてお話しました。今回はホットフラッシュをはじめとする「血管運動症状」について、そしてヨガがこれらの症状にどう貢献できるかなどをテーマにしていきます。
ホットフラッシュと血管運動症状
ホットフラッシュは、更年期不調の代表選手。外気温と関係なく急に上半身にのぼせやほてりを感じる症状で、発汗を伴うことが多いです。
研究報告によれば、その割合は50代前半に最も多く(45.2%)次いで50代後半(31.7%)、40代後半(26.1%)と続き、60代以降にも約2割の方が悩みを持っています。
辛い食べ物を食べた、人前で失敗したなどの明確な理由がある場合はまだしも、何もしていないのに急に起こるホットフラッシュは厄介ですよね。集中力や睡眠の質に影響することもあれば、不快感や恥ずかしさがストレッサーになることもあるでしょう。
更年期の不調の多くはエストロゲンの減少によって自律神経のバランスの乱れを引き起こすことから起こります。自律神経は無意識のうちに身体の調子を整える役割があり、血管の拡張と収縮の制御も担っています。
血管の収縮と拡張はさまざまな場面で行われますが、体温調整にも深く関与します。寒い時は血管を収縮させ血流を減らすことで体の熱が体外に逃げないように、逆に暑い時には血管を弛緩させて血液を多く流し、熱を効率的に体外に逃がしています。ホットフラッシュはこの機能の不調によって起こります。
血管のコントロール障害によって起きる身体的症状は、ホットフラッシュ以外にも動悸や寝汗、むくみ、冷え、めまい、耳鳴りなどが見られますが、これらをまとめて「血管運動症状」と呼んでいます。
運動が血流と自律神経を整えるのはなぜ
血液は酸素や栄養を体の各部に届け、老廃物を除去するために肝臓や腎臓へ運びます。血液循環が悪くなると、これらの機能が障害され自律神経のバランスが乱れます。また、自律神経が乱れると血管のコントロールの不調が起きてしまう。つまり血液循環と自律神経は相互作用の関係にあります。
血行促進は血管運動症状の軽減にも有効です。血液の巡りが悪くなる原因には、冷えや脱水、締め付け、ストレス、喫煙などがあります。根本原因がないか見直してみましょう。
また、運動不足もその大きな要因です。心臓から1分間に送り出される血液量(心拍出量 cardic output; CO)は、安静時に毎分5リットル程度ですが、運動時は筋ポンプ作用が亢進し、最大5倍にもなります。
運動時に血流が促されるのに対し、放っておくと血行が悪くなり、筋肉が衰え、さらに血行不良が進んでしまうのです。
アラインメントと代償動作
しかし日常動作だけでは日常動作だけでは使う筋肉と使わない筋肉が決まりがちです。
たくさん歩くし、立ち仕事だし…普段の動きだけでもカロリー消費ができている人で合っても、肩こりや腰痛があるひとは多いはず。これは酷使されすぎたり、使わなさすぎる身体部位があるからに他なりません。
使わない部位には栄養が届かず、老廃物も流れにくくなり、筋肉が衰えてコリが生じやすくなります。一方、使いすぎた筋肉と神経は過剰に働き、自分でスイッチを切ることができなくなり、やはり緊張やコリを引き起こします。
普段使われないまま弱くなった部位は本来の機能や安定性を発揮できず、近くの部位を動員して動きを遂行しようとします。これを「代償動作」と呼んでいます。
ヨガのアサナ(ポーズ)でも同じことが起きます。現代的なヨガには「アサナを行う際の身体各部、主に関節の理想的な配置」を意味するアラインメントの概念が持ち込まれています。配置が崩れてしまった状態をミスアラインメントと呼びます。
ミスアラインメントは、長時間のキープでアラインメントが崩れるほか、柔軟性や筋力不足によって完成できない時に、違う部位を動員してアサナを形にしようとした時の代償動作として現れることがとても多いのです。
「やりにくさ」は先生
日常では、行動の先にある目的を達成するために代償動作が必要な場面がたくさんあります。しかしヨガの場合はアサナが出来た・出来ないはあまり問題ではなく「取り組み方」を重視します。
アサナの完成は、適切な取り組みの先に訪れるものであり、固執するものではありません。精神論に聴こえる人もいるかもしれませんが、ミスアラインメントは怪我や故障のリスクになるほか、結局いつも通りの部位を使ってしまい、オーバーユースによるコリや痛みが取れないことがあります。また、使ってない部位のトレーニングとしても中途半端になるのはもったいない話。
だからこそエクササイズをやるためには多かれ少なかれ、「やりにくい動き」を含めた運動メニューを入れることが必要です。現代のハタヨガはアラインメントへの注意が含まれているため、自然とそれが叶うのです。
一般的な大人のライフスタイルで酷使されやすい筋肉には、僧帽筋上部や上腕二頭筋が挙げられます。一方、使われにくい筋肉には大腿内転筋群や上腕三頭筋などが挙げられます
ハタヨガでは、正しいアラインメントを意識することで、これらの筋肉をバランス良く使うことができます。
また、使われてない筋肉と酷使される筋肉は、拮抗筋であることが多いです。例えば、僧帽筋下部が衰えると、肩甲骨が持ち上がり肩コリがより酷くなる可能性があります。使いやすいのは肩甲骨上部、でも使ってほしいのは肩甲骨下部なのです。
忙しくても猛暑でも、できることはある
運動が大切といえ、この暑さ中では体力温存のために運動をあきらめる日もあります。そんな時におすすめしたいのが呼吸しながらの手のひらグーパーと足首まわし。
じゃんけんの時は重力に従っていることに加え、勝負だからか割とみんな指まで伸ばしたパーを作れるんですが、レッスンの最後に行うシャバーサナ(仰向けで力を抜くだけ)の前に「思い切りパーにして」とガイドしても指が伸びきらない人が結構な割合でいらっしゃるんですよね。もしかして「そのくらいまあいいか」という気持ちもあるかもしれないのですが、思い切りのパーって日常生活でしない動きなんですよ。
身体の末端は血流が滞りやすい箇所でもあるので、指の伸筋というあんまり使わない筋肉を使うだけでちょっとスッキリします。足首回しも似たような効果がありますが、さらにむくみ改善にもなります。足首回しは、わたしは寝る前に30回やるようにしていますが、終わる前に寝てしまっていることもあります。
グーの時には爪が邪魔にならないように親指を内側にして拳を握り、パーの時は思い切り指先まで伸ばしながら動きと同じタイミングで呼吸するだけ。腕、脚も使って身体全体で行うのも良いですよ。眠れない夜などにやると効果を感じます。
更年期世代の忙しい日常に新しい習慣を加えるのは難しいですが、これならできるでしょ? 今より調子を良くしたいなら、小さなことを変えるだけも必ず効果につながります。今をそのままにしないことが、より良い未来を築く力になります。
次回予告
さて、文字数の関係で今回はこの辺りにしますが、今回お話しした血管運動障害に効果的な大きな関節を動かして、足先・指先まで使う簡単なフローヨガを近々ご紹介したいと思います。ぜひ、フォローなどしてお待ちくだされば嬉しいです。
(とはいえ、別テーマのシリーズもあるので、そっちが先になるかもしれません。それは許して!)
参考文献:
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 研究実績『中高年女性におけるホットフラッシュの有症率 および不眠症状との関連』https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20210902.html
小山勝弘・安藤大輔 『運動生理学 生理学の基礎から疾病予防まで』2013, 三共出版, pp95-99
二宮石雄・安藤啓司・彼末一之・松川寛二『スタンダード生理学【第三版】』2002,2015,文光堂, pp367-368
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