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世代の断絶。/老人たちは闘う。

この世の中がおもしろいのは、ジェンダーと世代の違いがあるからではあって。ジェンダーと世代が違えば、みんなそれぞれ別世界に生きています。したがって自分が属している世界以外はすべて他人事です。他人の属する世界のことなんて、人はなんにも知りません。はやいはなしがどーだっていい。


自然公園の池で小学生の男の子がザリガニを採っている、ヤマザキchipstarうすしお味持参で。かたわたの小学生女子は、スクリューブラシで細眉を整え、睫毛を上向きにさせ、口紅をつけて得意で顔。交差点で中学女子がミニスカにニーハイソックスで脚を交差させて澄まし顔で立っている。(彼女は学校の先生を好きになっていて、先生をうれし困らせている。)スーツ姿の若いサラリーマンの髪型はジャニーズ系(死語ですね)で、細眉で鼻毛を綺麗に剃っている。(実はかれはFXで損ばかりしている。)デニーズでOLたちは「彩り野菜とハンバーグ」やら「グラタン風ハンバーグ、トリュフソース」を食べながら、恋愛話にキャッキャ言ってる。(一見和気あいあいに見えるものの、しかしその実マウントの取り合いです。)秋葉原でやたら目のでかい整形コスプレギャルちゃんは霜月るなの一族だ。アイドル好きの男の子は、自分がまだ童貞であることに悶々とし、真夜中にちよ×Recoの抱き枕を抱いてイビキをかいている。(素敵な夢が見れるといいですね。)ミドルエイジのマダムはようやく育児に手がかからなくなったとおもったら、頭痛、めまい、イライラ感に悩まされるようになった。(かつてはビキニ姿で闘ってミスマガジンの優勝を勝ち得たわたしが、なんでこうなるの? 家族に当たり散らす、そんな自分が嫌ッ!)おまけに結婚当初イケメンだった夫は、40歳ちょいで白髪まじりで補聴器使用者。居酒屋で中年サラリーマンたちは赤ら顔で生ビール片手にタコワサと牛スジ大根をつまみながら人事の話題で愚痴ってる。隣のテーブルでは老人がテレビに映る乃木坂46をぼんやり眺めながら、鯖の味噌煮を醤油ビシャがけで喰っている。おばあさんはショッピングカートを押してよろよろ郵便局へ現れて、振込、引き出し機械の前でうろたえている。


大人はコドモをバカだと信じている。とかくオヤジは若い女に夢中になるけれど、しかし相手の若い女は当のオヤジを男だと見なしていなく、それどころかイノシシ科に属しているぶさいくな動物だと見なしている。男だって似たようなもの。男にとっての女とは、「たとえ万が一であろうとも、あの子とセックスできたらサイコー♡」とおもえる女性だけが女であって、そのカテゴリーに入らない女性はけっして女とは見なさない。この世界って残酷な場所ですね~。われわれはよくもまあこんな殺伐とした世界で生きていられるもの。生きてるだけでも立派ですよ。おれ偉いッ、あたし偉いッ、みなさん自分を褒めてあげましょう。


さて、みなさん、この沙漠のような世界のなかで、誰よりも闘っているのが(誰あろう)老人たちですよ。なんの因果かぼくは先日(さいわい自分自身にはいまのところ心配はないものの、知的好奇心に導かれて)味覚障害について調べてみた。なお、ぼくがこの世でいちばん好きなのはお料理すること食べること。そんなぼくは味覚障害の説明を読んで心底ぞっとした。


70歳以上にもなれば味蕾の数が乳幼児に比べて3割から5割も減少する。さらには唾液の分泌量が減ることもあって、特に塩味の感受性が衰え、なんと成人の12分の1まで減弱する人もいる。甘味の感受性も衰える。


わちゃー!!! えらいことですわ。いまさらながらぼくは納得がいった。なるほど老人が好きなものは梅干、塩昆布、漬物、汁蕎麦、醤油ビシャがけで食べる鮨、すべて塩度の濃いものばかり。(なお、老人に減塩を勧めることは間違っています。むしろ老人はミネラルたっぷりの海塩を適量摂るべきです。)またなるほど老人はチョコレート、舟和の栗羊羹、はたまた和菓子が好きだ。これもまた甘味の感受性が低下しているから、甘いものが幸福をもたらすというわけ。なるほど、そういうことだったのね。



もちろん老人には他にも身体的不具合がいっぱい。老眼、難聴、おまけに頻尿。もの忘れがひどい。毎日飲むたくさんのクスリをきょうはもう飲んだのかまだ飲んでいないのかわからない。頭がボーッとする。神経痛に悩まされる。『誰でもできるひざ根治法』のページを祈るようにめくる。公園で元気に(意図的に)変な歩き方をしてはりきっている老人は、歩けなくなる恐怖と闘っています。朝っぱらから太極拳をやっている老人たちはけっして怪しい宗教団体ではなく、あの人たちもまた体の衰えと闘っています。老人仲間の話題は家族の愚痴と知り合いの病気や死。おじいさんは威張りたいものだから威張れる相手を探し、結果相手に嫌がられる。なかには独居老人でお友達はかかりつけの病院の先生だけみたいな人もいる。なるほど、老人にはかかりつけの先生にお菓子や果物をプレゼントする人が多い。いじらしいじゃないですか。みなさん、闘っておられるんですよ。なるほど、老齢期って、幸福に暮らすためのウデが問われる季節なんですね。


ぼく自身はもちろん、中年のみなさん、これがわれわれが生きることになる、ニア・フューチャー・ワールドですよ。この現実から逃れることは誰にもできません。グルメのみなさんは味覚障害がせめて軽度で済むように、いまのうちからヴィタミンB12、亜鉛、ひいてはまんべんなくヴィタミン&ミネラルサプリを毎日摂取しましょう。予言しましょう、自分まだまだ若いとおもっていても、しかし、あっというまにみんなひとしく老人ですから。



人は自分が歳をとってはじめて、綾小路きみまろの話芸の世界がけっしてディストピアSFでなかったことを知る。中年のみなさん、綾小路きみまろさんの話芸を聴いて、来るべき近未来のご自分のリアル・ライフがいったいどういうものなのか、予習しておきましょう。



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