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『4分33秒』【1595文字】 #カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote

当時、夢も希望も失った俺は
ただ部屋の隅で時間が過ぎて行くのを
待っていた。

そんな状態の俺を無理矢理
従兄弟は連れ出し山奥へと連れて行った。

電車の窓ガラスから強い日差しが
久しぶりに外に出た俺の肌に
刺さるように厳しかった。


随分山奥まで来たようでバスを
降りると肌寒く感じる程だった。

従兄弟は
「ある店にお前を連れて行く。
ただ店のルールは守ってくれ」
と俺に言うと山道を歩き出した。

久しぶりに大地を踏みしめる感覚が
身体に伝わった。

到着した場所には『カフェ4分33秒』
と書かれた小さなカフェがあった。

従兄弟は外にいる店員と何やら
話をしていた。

こんな山奥のカフェなんて
誰が利用するんだろう。
そんな風に思っていると
従兄弟は、何故か手にストップウォッチを
持って俺の元に戻って来た。

「入店から退店まで4分33秒だ。
必ず守ってくれ」
従兄弟は強い口調で言った。
「カフェで飲んだら
すぐに帰れってことか?」
俺は尋ねた。

「いや、カフェにいられる時間が
4分33秒と決まっているんだ。
それを過ぎたらお前は戻って来れない。
だが、俺はお前を信じる。
だから戻って来てくれ。」
そう言われてたが、いまいち理解していない俺の首にストップウォッチをかけた。

俺は先程の店員に店の説明を受けてから
ストップウォッチを押され店員が扉を
開けてくれたので、店に入って行った。

中には、外からは想像できないほど
思った以上に人がいた。
俺は、言われた通りカウンターで
アイスコーヒーを受け取ると
指定された席に向かう。
席には、妻と娘が座っていた。
2人は微笑みながら俺を呼ぶ。

つい落としそうになったアイスコーヒーを
両手で持ち直し席についた。
「ちゃんと食べてないでしょ!」
妻が言うと
「パパ、好き嫌いはだめよ!」
と娘が妻の口癖を真似ながら言った。

2人の声を聞いて俺の口から始め嗚咽しか
出なかった。2人の笑顔。会いたかった
2人の手を握りしめながら
俺は説教されているのに笑っていた。
2人との会話はストップウォッチの
音が鳴り中断された。

残り時間33秒を表していた。

「もっと話していたいわ」
「パパのお話聞かせて」
2人の笑顔に俺はボロボロと
涙をこぼしながら2人を抱きしめた。

「ありがとう」
俺は2人を強く抱きしめ
最後に1言お礼を言った。
「「大好きよ/だよ」」
2人の声が混ざる。


氷の溶けているアイスコーヒーを
持って出口へ向かう。

2人は座席から手を振ってくれた。
俺は出口でストップウォッチを
店員に返すと扉を開けてもらった。


店を出ると従兄弟が
安心したような顔で待っていてくれた。

「お前は戻って来ると信じてた」
そう言って俺の肩を抱いた。


3年前の車の事故で俺は妻と娘を亡くた。
俺だけが助かってしまった。
ずっと2人に謝りたかった。
でも2人は俺に謝られる事は
望んでいなかった。
元気でいてくれないと安心できないと
言われて、俺の事が心配で2人は
向こうの世界に行けない様だった。

自宅に戻り、従兄弟に礼を言う。
沢山聞きたい事もあったが、
うまく言葉が浮かばなかった。

「もう大丈夫みたいだな」
従兄弟は相変わらず、でかい声で言うと
俺の背中を勢いよく叩いた。

「ああ」
俺の表情筋も動き出し、笑顔で答えた。

「俺、墓参りに行くよ」
従兄弟に向かって言った。

「嬉しいよ。お前が戻って来てくれて」
そう言って従兄弟は帰って行った。



明日、2人の墓参りに行こう。
その後、従兄弟の墓参りをしよう。
そして、もう1度ちゃんとお礼を言おうと
俺は明日の事を考え始めた。






普段、ショートショートを書くのに
1000字くらいの文章を書いてから
400字に削るのですが、
今回書いてて、410字じゃ伝わらないかな?
と不安になり、こちらの作品載せました。

普段、鎌やらチェーンソーやらを振り回す
作品ばかりなので、こういった
作品を書かないので不安なんです(照)

読んでいただき、ありがとうございました。

#毎週ショートショートnote
#カフェ4分33秒
#熟成下書き

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