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宮沢賢治『双子の星』感想

最近なんとなく読んだ宮沢賢治の作品『双子の星』、その物語を通して見えた景色や主人公たちの心があまりに素敵だった。
この感動を忘れないために、感想を残しておこうと思う。


あらすじ

天の川、その西の岸にある双子の星にはチュンセ童子とポウセ童子がそれぞれ住んでいる。
2人の役目は夜の時間、星めぐりの歌にあわせて一晩のあいだ銀笛を吹くこと。

ある日、お日様が昇り一晩の役目を終えた2人は野原の泉へ遊びに行く。その泉で滝をつくって遊んでいると、大烏(おおがらす)、そして蠍(さそり)が水を飲みにやって来た。どうやら大烏と蠍は随分と仲が悪いようで、喧嘩を始めてしまう。

またある晩、双子のもとに彗星(ほうきぼし)が来て旅へと誘う。彗星曰く、王様から2人を旅させてほしいと言われたとのこと。しかし彗星は嘘をついており、旅の途中で彗星に掴まっていた2人を振り落とす。海にまで落ちてしまった2人は、そこで様々な生き物たちと出会う。

魅力① 素敵な世界観

この作品は文章を読むだけで目の前に星空の煌めきが広がるような、そんな素晴らしい景色を体験できる。
また、細かい部分の表現でも『双子の星』の世界観がはっきり見て取れる。

たとえば、

今日は西の野原の泉へ行きませんか。そして、風車で霧をこしらえて、小さな虹を飛ばして遊ぼうではありませんか。

なにそれ楽しそう。現代社会の大人にはこんな優しい遊びなんて残されていないようなものなので、とても羨ましい。

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今は、空は、りんごのいい匂いで一杯です。西の空に消え残った銀色のお月様が吐いたのです。

宇宙はラズベリーのような匂いがするという話は聞くが、りんごの香りがする空もまた魅力的だ。しかも、その香りはお月様が吐いたのだという。そんな世界に生きたかった。
(ここで「りんごのいい匂い」が出て来たのは宮沢賢治が岩手県出身であることに関係があるのかな?)

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双子のお星様たちは悦んでつめたい水晶のような流れを浴び、匂(におい)のいい青光りのうすものの衣を着け新らしい白光りの沓(くつ)をはきました。

綺麗すぎる…。今までただの水を水晶のようだと感じたことなんて無かったので、あまりに純真無垢な表現に言葉を失った。
そして沓(くつ)を靴ではなく水+日で沓って!
『双子の星』では水という字を使った表現が多く、沓もその一つとして揃えてあるのだとすればこれはもう文章がオシャレすぎる。

魅力② 主人公たちが優しく高潔

チュンセ童子とポウセ童子、この双子のお星様の優しく、そして高潔な素晴らしい心に思わず空を仰いだ。
ぼくは彼らを強い人だと思う。そんな強い人になりたい。

蠍は二人につかまってよろよろ歩き出しました。二人の肩の骨は曲りそうになりました。(中略)けれども二人は顔をまっ赤にしてこらえて一足ずつ歩きました。

大烏との喧嘩で傷を負った蠍を双子が家まで届けるシーン。重すぎる蠍を、長い時間をかけて必死に運ぶ2人の姿はとても格好いい。
最後には蠍も改心するほどで、この様子は海の小学校の読本にも入れられたほど。
これだけのことを遂げた2人をぼくは尊敬します。

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(前略)海の底のひとでがお慈悲をねがいました。又私どもから申しあげますがなまこももしできますならお許しを願いとう存じます。

海で会った、悪いことをしてひとでになった星や、嘘をついたためにばらばらに裂けてなまこになった彗星に空の王様からの慈悲を求めるシーン。
双子はひとでから散々の扱いを受けたし、彗星には嘘をつかれて酷い目に遭ったのにもかかわらず…なんて綺麗な心をしているんだ。

ぼくは危害を加えてきた相手のためになにかを願えるだろうか。そんなことができるのは2人がとても強い心を持っているからなのだと思う。そんな強さにとても惹かれる。ぼくもこうなりたい。

おわりに

意図しないタイミングで、ぼくの生活を彩ってくれるような作品に出会えた。
『双子の星』を人生の早い段階で読めたことはとても運が良かったように思う。

この文章を読んで宮沢賢治の『双子の星』に興味を持った人がいるかは分からないが、ぜひともこれを機に作品に触れてみてほしい。

世界にはまだ沢山の素晴らしい景色があることを教えてくれるかもしれないから。

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