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タイムリーでもある:読書録「2050年のメディア」

・2050年のメディア
著者:下山進
出版:文藝春秋

「危機と人類」「古典は本当に不要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。」と、ここのところノンフィクションは「アタリ」が続いていますが、本書が一番「面白かった」かもしれません。
(「危機と人類」は一番<刺激を受けた>、「古典は〜」は一番<驚いた>…ですかね)


90年代後半から現在にかけて、「マスメディア」と「ネット」がどう言う関係性を日本で辿ってきたか、「讀賣新聞」「日本経済新聞」「Yahoo」を軸に時系列的に追った作品です。(そういう意味では「題名に偽りあり」ですがw)
単に事象を追うだけではなく、その背景、そこで苦闘する人間物語を描き、「読み物」として「読ませる」内容となっています。


最終的には「電子版を発行した日経新聞の先見性」が売上に反映し(他紙が部数を落とす中、日経は電子版と合わせて維持)、「社内外の闘争を勝ち抜いた讀賣新聞が、本業(新聞発行)において危機感を深める」「ヤフトピ等でマスメディアを翻弄したYahooがメディアから離れていく」と言う形になります。
その過程は極めてドラマチックで、また単純な「勝ち組日経」と収まらないところも読みどころですかね。(ま、On The Wayの話でもありますし)

日経新聞:電子化を進め、フィナンシャルタイムズの買収等でグローバル化にも着手。編集の現場もデジタル化して、一見「勝ち組」っぽいが、その裏で「スキャンダルによる閉じた組織」となっていて、組織のあり方がネットのオープン性と相反した状況になっている。

讀賣新聞:現社長の山口氏を中心に、「清武の乱」をはじめ、各種の法廷闘争に勝ち抜き、組織としての「勁さ」を高めながら、ビジネスにおいては「あらたにす」の失敗(その最大の原因は讀賣にある)に象徴されるように、ネットの後塵を拝する存在になりつつある。

Yahoo:旧来のマスメディアを「ヤフトピ」「Yahooニュース」で翻弄させながら、組織の官僚化とスマホシフトの失敗によって、「メディア」から距離を置くスタンスをとるようになる。

そしてこの発表。

「世界の第三極」になるIT会社を目指すっていうのは、「データを扱う会社になる」といううことであり、それは「メディア」のあり方とは異なる方向性を目指すということでもあるでしょう。
(個人的には「スーパーアプリ」については懐疑的です。と言うか、孫さんってそういう「リアルのサービス」のとこって今ひとつ上手くない印象があるんですけどね。
ま、それは別の話)

本書読みながら思ったのは、
「いやぁ、この20年はホントに面白い時代やったんやなぁ」
ということ。
同時にそのことに無自覚だった自分の迂闊さも痛感させられましたが。


本書については題名が内容をストレートに反映していないこと(その心意気は分かるんですが)と、装丁が地味なこと(なんか学術書みたいじゃない?)が残念ですが、すくなくとも僕と同年代の人にとっては無茶苦茶面白いと思います。
「イノベーションのジレンマ」の実際…という観点からも。

オススメです。


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