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思い出「兄の幻覚」

【孤高の祖母】

2歳半の時。

今まで住んでいた西川口から、東京の町屋と言う所に引っ越してきた。

引っ越し先は、おばあちゃんの家。

母親が弟を妊娠したので、お祖母ちゃんが家事全般ををする為だった。

そして、体に負担をかけない様にと言う理由で、引っ越してきた。

更に、出産費用を捻出する為、家賃を浮かせようと言う考えもあった。

実は、俺のおばあちゃんは、人間嫌いで親族以外の人付き合いが悪い。

1人でいる事大好き人間だった。

そんなお祖母ちゃんが、よく今回の引っ越しを了解してくれたと感じた。

そんなお祖母ちゃんだけど、俺の事は凄く可愛がってくれていた。

でも出不精で、西川口にいた時も、なかなか俺に会いに来てくれなかった。

いつも母親が、何とか説得してやっと来てくれる位だった。

なので、お祖母ちゃんに会いたいと言うと、いつもこちらから出向いた。

しかも今回は、一緒に長期間住む事になる。

自分の娘の事だと思い、本気で覚悟を決めたのだろう。

一人大好きお祖母ちゃんなのに。

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【消えゆくパンタグラフ】

一緒に住み始めると、お祖母ちゃんは、俺の面倒をしっかり見てくれた。

俺は、お祖母ちゃん大好きっ子だった。

そして、いつもお祖母ちゃんに甘えていた。

その度に、全く嫌な顔をせず、ずっと一緒に遊んでくれた。

そのせいで、母親が家事全般をやる羽目になってしまっていた。

母親の家事の負担を減らす為に引っ越してきたのに、本末転倒だ。

でも俺は、そんな事なんて全く気にせず、お祖母ちゃんを1人占めした。

この時お祖母ちゃんは、ずっと嫌がる事も無く、俺と遊んでくれていた。

たまに、親戚のおじさんも遊びに来た。

この時、俺の大好きな電車のおもちゃを、よく買って来てくれた。

この電車のおもちゃは、またいで乗れる大きな電車のおもちゃだった。

この電車のおもちゃには、リアルなパンタグラフが付いていた。

それが結構尖った部分が多く、触るとチクチク痛い。

でも、いかにも電車っぽくて、俺は嫌いじゃなかった。

そのチクチク痛がっている姿を、お祖母ちゃんはしっかり見ていた。

そうしたら、4台あった電車のパンタグラフ全部むしり取ってしまった。

俺は「それを取らないでくれ~」と思ったが、問答無用で全部取られた。

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【一人っ子最終日】

俺は、3歳になっていた。

俺は、外で遊ぶ時、怖くて遠くには行けず、いつも玄関前で遊んでいた。

そこで三輪車を乗って遊んでいた。

その他にも、三輪車をひっくり返し、ペダルを回して遊んだ。

この時何故か「お弁当屋さん~」と言って遊んだが、何故かは解らない。

多分直感で、そんな感じがしたのだと思うけど、分け解らん。

お祖母ちゃんがトイレに入ると、寂しくてよく泣いていた。

俺は、常にお祖母ちゃんのそばに居ないと、寂しくて仕方なかった。

そんな生活をしていたある日、とうとう母親に陣痛が来た。

この時、急いで救急車を呼び、父親にも連絡して帰ってきてもらった。

父親は、お祖母ちゃんの家から、歩いて10分位の所の職場で働いていた。

なので、即帰ってこれた。

そして母親と父親が、救急車に乗り病院に向かって行った。

この時俺は、お祖母ちゃんと家で留守番する事になった。

この日は、お祖母ちゃんと2人で過ごす事になった。

でも、お祖母ちゃん子だった俺は、全然寂しくなかった。

俺はこの時、兄になる実感なんて全くなかった。

なので、生まれてくる赤ちゃんの事なんて、全く無関心だった。

お兄さんになると言うのは、前から聞かされていた。

でもこの時は、兄の意味なんて全く解らない。

ずっと甘えていたいと言う気持ちしかなかった。

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【兄貴の初日】

次の日の1月9日、とうとう弟が生まれた。

俺とお祖母ちゃんは、朝ご飯を食べた後、早速病院に向かった。

病院は、歩いて15分の町屋駅前にある「竹内病院」

途中まで1人で歩いたが、結局疲れておんぶしてもらい、向かった。

病院に到着して、母親とお祖母ちゃんが、生まれた時の状況を話している。

俺は、そばでその話を聞いていたら、安産だったと話してた。

しかも、病院に到着して4時間後に生まれたらしい。

そして俺は、母親のベットに上って赤ちゃんを見てみた。

赤ちゃんを見てみたら、男か女か全く解らない。

母親に、性別を聞いてみたら、男だから弟だと言っていた。

俺は、弟が出来た事は理解できたが、お兄さんの実感が全くない。

突然現れた赤ちゃんに、何をどうしてあげれば良いのかも解らない。

でも、とりあえず頭を撫でてみた。

そうしたら、プヨプヨしてゴムみたいに柔らかかった。

まるで、すぐに壊れそうな危険ささえ感じた。

でも、この感触を実感し、やっと可愛がりたいという感情が出てきた。

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【しぼんだ風船】

しばらくして、母親用に病院食が運ばれてきた。

俺は、母親に抱っこされながら、その病院食を食べてみた。

そうしたら、凄く美味しい。

大人にとっては、味が薄くて不味いらしいが、俺にとっては最高の美味だ。

思わず、母親の料理より美味しいと感じてしまった。

この時、父親がもう少し美味い物を作ってくれと言っていた事を思い出す。

俺は、その言葉の意味が今わかった。

母親は、料理がもの凄く下手くそなんだと。

この日、母親は病院に入院する事になり、我々は家に戻った。

そして次の日の午後、母親が病院から帰ってきた。

子供が生まれたのに、たった1日の入院で戻れたのは、意外だった。

俺は1週間位、母親が戻って来ないと聞いていたからだ。

この時の母親は、おなかの膨らみが無く、しわだらけだった。

まるで風船がしぼんでしまった様な感じがした。

このしわの事を母親に言ってみたら、しばらくすれば消えると言う。

このしわを触ってみたら、赤ちゃんの頭よりブヨブヨして、なんか面白い。

俺は、一緒にお風呂に入ると、このしわをいつも触っていた。

そうすると母親は、転げる様に、くすぐったがっていた。

それが更に面白くて、嫌がる母親に関係なく、よく触っていた。

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