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【ヒデコ日記⑧】 ピアノ問題

facebookで、ヒデコ(母、でぶ)のことを「ヒデコ日記」というタイトルでたまに書いている。ヒデコにまつわるコラムも電子書籍で書いたことがある。その原稿を時系列もバラバラながら、ここに少しずつアップて残していこうと思う。ヒデコがこの世を去った時、思い出すために。

今日家に一人でいたら、何やら業者から、ピアノの引き取りについて、とかいう電話が来た。事情を妻に聞いたら、中2の娘が勉強に集中したいからずっと続けてきたピアノをやめ、家にあるピアノを処分したいという。妻もそれに賛同し、業者に連絡したらしい。ヒデコ(母、でぶ)に買ってもらった大切なピアノを処分だなんて、ヒデコが悲しむ。

ヒデコに事情を話し、実家に置かせてくれないか頼んでみたら二つ返事で「処分したって二束三文だら? また弾きたいときが来るだらぁで。こっちに置いといていいで」と、実家に置かせてくれるという。それを妻に言うと、
「お前もヒデコもわかってねえな、ピアノは弾き続けないとダメになる。だいたいお前の実家はカビ臭いからピアノがカビる。メンテとか、できるのか?」と。

メンテなんてこっちで頼めばいい。だし、別にピアニストじゃないんだから、多少カビたっていい。それより大事なのは、姑に買ってもらったものを大切に保存しようという気持ちだ。処分とか、よくできるなと思う。しかも僕の知らないところで処分の手続きしてたとは勝手な嫁だ。

さらに「ピアノ運ぶ専門の業者じゃなきゃ運べない。まさゆき便なんか到底無理」とLINEが来たが、まさゆき(俺の父)にピアノを運ばせようなんて思っちゃいない。それほど僕も無知じゃない。てか「まさゆき便」って何だよ。カンガルー便かよ。
結局、ヒデコに詳しく事情を話し東京で処分することにした。ヒデコはあの日のことを思い出しながら、処分を悲しんでいた。

それは、娘がピアノを習い始めた5歳頃、ヒデコが東京へ泊まりに来たときのこと。僕ら夫婦の留守中、娘の子守りをヒデコにお願いし、ピアノ教室の日なので、教室まで連れて行くようお願いしたのだが、娘がぐずって行かないと言い出した。しかしヒデコは「高い月謝払ってるだで。お父さんが働いで稼いでるだで、もったいないで、行かにゃあダメだに」と泣いて嫌がる娘の手を引いてピアノ教室まで連れて行った。だが結局、その日は泣いてどうにもならず帰って来たという、あの時のことを。

そういえば、僕が小学生のとき、習字の塾をサボって遊んでたら、ヒデコがホウキを持って、「月謝がもったいないで!行かにゃだめ〜」って、のび太のお母さんみたいに追いかけて来たな。僕ものび太みたいに逃げたけど。
「月謝がもったいない」を、娘と僕と、二世代に渡ってヒデコから聞くことになるとは。
(2016年9月17日のfacebookより)
※写真はイメージ




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