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平成の総括は「しんがり」にて

隔月で主催する読書会(どく友会)に持ち込む本を考えてみた。
書籍の紹介をもって、noteのデビュー投稿としよう。読書会は令和元年の初月開催だけど、個人的に平成を総括してないなと思い、振り返ることから始めた結果・・・

僕にとっての平成のビッグニュースは、

「1位:山一証券の破綻」
「2位:オウム真理教事件」
「3位:阪神淡路大震災、東日本大震災」。

というわけで、今回は1位の山一證券の破綻に関する本を選定。自分の頭の整理がてら、こちらの本のご紹介をしたいと思います。

1.選書 『しんがり~山一証券 最後の12人~』

2015年8月発売。全430ページ。

”会社が消えても誇りは消えない”

なんとも素敵なコピーではないか!

この本は実話かつ実名入りで登場人物が出てくる
ノンフィクション的「小説」です。

2.著者はどういう人?

「清武英利」・・・ジャーナリスト

元読売新聞記者で元読売巨人軍取締役球団代表、同編成本部長、ゼネラルマネージャー、オーナー代行。巨人の来季のヘッドコーチ人事を巡って渡邉恒雄球団会長が不当に介入したとの内部告発で巨人軍ともめて解任され、ジャーナリストに。デビュー作の「しんがり」で第36回講談社ノンフィクション賞を受賞。他に、元陸軍飛行隊の苗村七郎を取材した『「同期の桜」は唄わせない』、第47回大宅壮一ノンフィクション賞候補作となった『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』がある。

3.「しんがり」とは何か?レビュー

ストーリーは、1997年の山一証券破綻時に最後まで筋を通し残務処理をした無名社員の実話です。いかに権力に負けずに正義を追求し、最後まで逃げずに戦って来たかの人生模様が臨場感を持って描かれています。

小説仕立てのためとても読みやすく、文字を目で追うごとに頭の中で映像が流れてくる。まさに映画を観ているかのような気持ちになってしまう卓越した著者の文章力です。

※ 「しんがり」(殿:しんがり)とは、軍事用語で、後退する部隊の中で最後尾の箇所を担当する部隊のことを言う。

4.なぜ「しんがり」を選んだのか?

出張先で、手持ちの本が全て読み終えたので仕方がなく書店にぶらりと・・
紀伊国屋に入ると文庫本コーナーに平積みしており僕と目があった感じ。

以前より個性的なタイトル名だけを覚えていて興味はあったものの、物語の展開がなんとなく予想されるので「まっ、買うほどではないか」と買わずじまい。今回は、文庫本でページも多いので移動中の間が持ちそうだと考え、何も期待をせずに購入しました。

※ちなみに山一証券が破綻した1997年は僕が大学を出て新卒入社した年。この年、山一證券・三洋証券・北海道拓殖銀行は破綻し、楽天が創業した”時代の節目”。



5.話の前提(山一証券破綻の概略)


(1)山一証券とは?

1897年(明治30年)創業、1997年(平成9年)自主廃業で停止、
2005年(平成17年)で会社として解散。
つまり100年で歴史に幕。
野村、大和、日興と並ぶ4大証券の一つだった。

(2)破綻した主な理由

”飛ばし行為”
要するに、含み損を抱えた資産を他社に付け替えて隠す粉飾決算方法。

決算期末になると含み損を抱えた資産を簿価で他社に売却した形にして損を表面化させないようにすることもあり、その場合は決算期を過ぎた後に同額+αで買い戻す特約をつける方法の粉飾決算。決算期日の異なる企業間で行われ、顧客法人の決算操作のために顧客からの要請で行われることもある。

山一証券は簿外債務として2600億円の踏み損を隠していた。
(バブル崩壊で株価が暴落したことで債務が急増)

大蔵省の定期検査の際には、債務残高リストの提出も書類の虚偽でごまかしていたため、大蔵省も実態を把握できていなかった。

なお、粉飾決算、総会屋への利益供与などの数々の法令違反により会社更生法は適用できず、会社も大きいため銀行からの融資でつなぐこともできず、大蔵省などの判断で自主的に廃業することを求められた。

(3)破綻した遠因は組織的な問題

内部対立

●リテール部門:個人営業部隊(高卒・中堅大卒のたたき上げ)
  VS
●ホールセール部門:法人営業部隊(主に東大卒のエリート)の対立構造

山一証券は法人営業に注力していた分、法人営業が花形部隊。
問題を起こしたのは法人営業部隊であり、個人営業部隊は割を食った状況。
最後の記者会見で号泣した野澤社長は個人営業部隊出身で法人営業部隊の悪事を押し付けられた格好である。

簿外債務のことは、破綻時に社長だった野澤氏も社長就任後に知らされたほど、一部の役員と企画室、特定の社員しか知らない社内隠蔽でもあり、全社員寝耳に水の状況であった。

6.個人的に刺さったポイント

(1)上司を守れないことへ罪悪感を持つ社員

たとえば、東京地検特捜部が総会屋への利益供与事件で強制捜査に入った際、事情聴取で上司の悪事を話さなければいけないジレンマで苦しむ社員の言葉。

「守るべき上司を裏切ってしまいました。辛くてゲロがでました。・・・私は死んでお詫びしなければならないんです。。。」

組織人としての板挟みが罪悪感となり多くの社員を苦しめていた様子。

(2)”最後の聖戦”へ自ら手を挙げる社員の存在

山一証券の廃業決定後、社内調査委員会が結成されましたが、なんと自ら手を挙げる者も多数いたそうです。

調査委員会に参加するということは、それだけ自分自身の転職活動が遅れるにもかかわらずです。

さらに調査といっても大物OBや現経営陣など含む100名ほどの社員に平の身分の社員がヒアリングするなど精神的にも困難なミッション。名乗り出るだけの愛社精神、正義感、何が起きていたのか真実を追求する気持ちなど真っ直ぐな気持ちを本業で会社が活かせなかったのは残念なことです。

※山一証券が廃業時にすべきこと

①営業を停止し、本支店を閉鎖する業務
②山一の資産を売却し、社員の再就職支援
③顧客から預かった24兆円の株券、資産を返却
④債務隠しを暴く調査業務

調査業務は4番目にあたります。

ちなみに現場にはエリート社員はすでに転職済みでほとんど残っていなかったといいます。

(3)多くの社員は自分の運命を憎まなかった

著者が各種アンケートや取材すると多くの人からは、「自分が貧乏くじを引いたとは思わない」との反応が返ってきたそうです。

また、もし破綻しなければ山一に勤め続けたかったとも多くの人が語り、最後まで清算業務をやっていた社員にいたっては「なぜあなたは残務処理を廃業後も引き受けたのですか?」との質問に、ほぼ全員が「誰かがやらなければならなかったから」と回答したと言います。

右肩上がり時代をつくって来た真面目さと律義さに清々しさを感じるエピソードでした。
(中には北海道拓殖銀行からの出向で山一證券に来ていた人もいましたが、派遣元の拓銀と出向先の山一とで、破綻を2回経験した社員もいる)

※現在のOBは? ”山友会”

山一証券に勤めたことがある人の親睦会(山友会)が今でも続いていて、毎年定期総会を開き、東京、名古屋、大阪で交遊を深め、1365人も会員がいる。(会員資格は勤続20年以上、1万円の入会金)

7.まとめ

結局、時代が変わっても、「問題の本質は変わらない = 組織や人間の本質は変わらない」というのが読後感です。

この本を読んだときは、世間が大揺れのタイミングでした。

”モリカケ問題”、財務省の公文書改ざん事件、東芝の不正会計、日大のアメフトタックル問題、ボクシング、体操など組織の腐敗と「忖度・不正・隠蔽」が世間をにぎわせていた頃。

すべての本質は山一証券の破綻の問題と共通しているかのようです。

なぜ、金も名誉もある人たちが踏み外すのか?

「承認欲求」 ⇒ 「偽装」「不正」「忖度」

でもね、そんな中でも必ず筋を通し、公正に最後まで頑張る無名の人たちがたくさんいるという事実がせめてもの救いです。

人間の良い部分も悪い部分も、そして組織力学も、大切なことは全部この本に入っていましたよ。

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