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ごめん、『タイタニック』なんてダサいって思ってた

こう言っちゃなんだけど、映画としてはベタすぎるチョイスじゃないですか、『タイタニック』って。
TSUTAYAで映画でも借りようってなって、彼氏が「タイタニックにしよ!」って言ったら、なんかダサいって思っちゃうでしょ?

1997年に映画が公開された当時、僕は小学6年生。
翌年に発売されたビデオ版が実家にあって、家族といっしょに何度も見たから、もう見飽きた(と思っていた)くらいの作品。
とにかくお金がすごくかかってて、船首でカップルがイチャイチャしてて、3時間以上あって長くて、世界観の中でレオナルド・ディカプリオだけなんか浮いてる、ってのが子どもの頃に抱いていた印象でした。


時は流れ、2020年。
外出自粛が続く今、映画を1本観るのに普段より集中力が研ぎ澄まされている気がしていて。
セリフのひとつひとつとか、画面に映り込んだ小道具の意味とかを、じっくり読み取れるようになってきたんですよね。

そしたら『タイタニック』、めっちゃ面白かった。
見くびっててごめんね、キャメロン。

そんなわけで今回は、映画『タイタニック』の魅力をゆる〜く語っていきます。

いろんな意味で桁違いの超大作

1912年にイギリスからアメリカへ渡る航海の途中で沈没した実在の豪華客船タイタニック号を描いた、ラブロマンスの金字塔『タイタニック』。
巨匠ジェームズ・キャメロンが、監督だけでなく脚本も手掛けた本作は、あらゆる面において桁違いの記録を残しました。

まず、映画製作費が世界歴代3位の2億8,600万ドルで、日本円に換算するとなんと約310億円!
とんでもない額だけど、当時の映画史上最大のヒットとなる21億8,500万ドル(約2,368億円)の興行収入を達成。今でも興行収入世界歴代3位の座を守っています。
(ちなみに2位は『アバター』で、こちらもジェームズ・キャメロン監督作品!)

1998年の第70回アカデミー賞では最多の14部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、衣裳デザイン賞をはじめとする11部門を受賞。
セリーヌ・ディオンが歌って主題歌賞を獲得した『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』は、映画を見ていない人でも一度は聞いたことがあるはず。

『タイタニック』の優れたポイントは、キャスト、衣装、豪華なセット、迫力の映像などなど……挙げたらきりがありません。
中でも僕が素晴らしいと思うポイントは、「パニック映画」「時代劇」「ラブストーリー」3つの要素すべてを1つの映画で完璧に成立させていること。
こんな作品にはそうそう出会えない。

大概は、パニック映画に申し訳程度のラブストーリーが組み込まれているくらいのもの。
その点タイタニックは、時代劇のリアリティをラブストーリーが引き立て、パニックがさらにラブストーリーを盛り上げる、3つの要素が鼓舞し合う見事な黄金比になっているのです。
では、それらを具体的に見ていきましょう。


未曾有のパニック時代劇ラブストーリー

物語は1996年の現代、深海に潜るタイタニック調査団のシーンからスタート。
今も北大西洋に沈んでいる本物のタイタニック号の映像が使われています。

船内の金庫から見つかった1枚の絵。それは、伝説のブルー・ダイヤモンド「ハート・オブ・オーシャン」のネックレスを着けた美女のヌードデッサンでした。
まもなく、調査団の元へ「絵のモデルは私」という101歳のローズおばあちゃんから電話が。

果たして、事故の生存者はタイタニックの中で何を見たのか。
ハート・オブ・オーシャンはどこへ行ったのか。
ローズおばあちゃんが過去を語り始めます。

ここまで、たっぷり20分間。
フィクションでありながらドキュメンタリーのような臨場感で、この後語られるラブストーリーがまるで史実であるかのように感じさせるニクい演出となっています。

時代は1912年へ。
全長約270m、当時世界最大の豪華客船だったタイタニック号は、イギリスのサウサンプトン港からニューヨークへの華々しい処女航海の日を迎えました。
上流階級の令嬢と、貧しい絵描きの少年。出会うはずのなかった二人が船の上で出会い、身分を超えた短い恋が始まります。

タイタニック号は、外観から豪華絢爛な内装まで忠実に再現されていて、97年当時最先端だったCGで作られた海上のシーンは、2020年の今見ても遜色ない映像美です。
衣装やヘアメイクも最高峰のクオリティで、まるで自分も豪華客船の乗客になったような気分!

ヒロインのローズは、アメリカの大富豪との望まない政略結婚のため、奴隷船に乗るような気持ちで歩み板を渡ります。
それまで日本では無名だったケイト・ウィンスレットは、このローズ役で一躍世界的スターに。
クラシカルなドレスが似合う凛としたルックスが、20世紀初頭の時代と見事にマッチして、気高くチャーミングなヒロイン像を映画史に刻みました。

対して、出港直前のポーカーでたまたま乗船チケットを手に入れた絵描きのジャックを演じたレオナルド・ディカプリオは、あの頃すでに日本でも大人気で、いわば当時世界一のイケメン。
実はジャック役には、ジョニー・デップ、ブラッド・ピット、クリスチャン・ベールなど、そうそうたる候補が挙がっていたのだとか。
その中から、アイドル俳優だったディカプリオが選ばれたことで、映画公開前はヒットを期待されていなかったり、アカデミー主演男優賞にはノミネートすらされなかったりと、彼は当初ほとんど評価されていませんでした。

確かに、細部までこだわり抜かれた時代劇の中で、ディカプリオの現代的なルックスと演技だけが少し浮いているように見えなくもない。
けれど、最終的にディカプリオをジャック役に推薦したのは、何を隠そうキャメロン監督その人でした。
『タイタニック』をただの時代劇でもパニック映画でもなく、ラブストーリーとしても確立させるには、ディカプリオの演じる浮世離れしたヒーローが必要だったのではないかと思うのです。
史実には存在しなかったジャックというキャラクターは、時代劇と現代とをつなぐ精霊のような役割だったのではないか、と。

ディカプリオはその後、アカデミー主演男優賞を獲得するまで18年も苦心することになりましたが、『タイタニック』の記録的大ヒットには、世界的アイドルだった彼が一役買っていたことは間違いありません。
(ちなみにディカプリオの吹き替えを担当したのは、『もののけ姫』で主人公アシタカの声を演じた松田洋治さん。字幕版だけでなく、ジャックの魅力的なキャラクターが声で見事に演じられている吹き替え版もおすすめです。)


毒親、モラハラ夫、不倫のフルコンボ

映画の時代設定は100年以上前ですが、ローズの置かれている状況は、現代の女性に降りかかる様々な社会問題とリンクしています。

亡くなった父が遺した莫大な借金を返すため、ローズに政略結婚を強いる母親。
上流階級では望まない結婚が珍しくないのかもしれないけれど、結婚に反発するローズを「身勝手」と叱咤したり、「私にお針子にでもなれっていうの?」と嘘泣きしたりする姿は、現代の“毒親”に通じる恐ろしさ。
「女はね、思い通りには生きられないの」と断言して娘を諭す目の奥には、母親らしい大らかさと、ゾッとするような冷たさが共存しています。

そして、ローズのフィアンセにして本作の憎き悪役、キャルドン。
ローズの趣味である絵画を鼻で笑ったり、「君は妻として夫である僕を敬うべきだ!」とちゃぶ台(テーブル)をひっくり返したりと、モラハラ夫そのもの。
いけ好かない御曹司になりきったビリー・ゼインの演技は、観客をこれでもかとむなくそ悪くさせてくれます。

そんなキャルドンとの婚姻前とはいえ、フィアンセが手配した豪華客船の上でイケメンと駆け落ちしてしまうローズ!
今の時代ならとんでもないゲス不倫で大炎上です……。

しかし、かたや毒親とモラハラ夫。かたや絵画の趣味を理解してくれて、外の世界へ連れ出そうとしてくれる自由奔放なレオ様!
さらに、フィアンセを奪われプライドをズタズタにされたキャルドンは、最終的にピストルで撃ってくるほどのヤバイ奴!
これほどの境遇なら、さすがに誰も彼女を咎めないでしょう……。

最終的には、母親ともフィアンセとも決別し、何にも縛られず自ら愛した人を選んだローズ。
タイタニックが沈没し、極寒の北大西洋に放り出されても、生きることを決して諦めず命の笛を鳴らし続けました。
スキャンダラスでありながら、女性の自立と解放を象徴するローズの姿が、今日まで世界中の女性の胸を打っていることは想像に難くありません。


まだまだあるタイタニックの隠れた見所

ジャックとローズの二人の存在は完全なるフィクションですが、タイタニック号沈没事件の描写は、史実にもとづいてリアリティが追求されています。
船長、造船会社の社長、設計士など、実在の人物も多数登場し、当時の顔写真を参考にキャストの外見まで似せる徹底ぶり!

ラブストーリーから一転、タイタニック号が氷山に衝突してからは、あっという間に船上はパニックに。
史実でも、たった2時間半で沈没してしまったという記録が残っていて、船が海に飲まれていく様子がスピーディーかつリアルに展開していきます。
この「リアリティ」こそが、映画『タイタニック』の最も重要なポイントであると僕は考えます。

ただでさえ「パニック映画」「時代劇」「ラブストーリー」の融合という荒技。
そこに少しでも、わざとらしさ、いわゆる“ご都合主義”を感じてしまうと、観客は一気に冷めてしまいます。
ところが『タイタニック』は、これだけの超大作であるにもかかわらず、人物の心理描写が実に繊細です。

たとえば、救命ボートの数が圧倒的に足りないことがわかると、デッキの乗客は阿鼻叫喚。
割り込み、暴力、ピストルの発砲……人間のダークサイドがどんどん露わになって、もはや地獄絵図。
それでも、ジャックとローズは最後まで取り乱すことがなかった。
これだけのパニックの中、不自然にも思える二人の落ち着きっぷりは、前半でラブストーリーがたっぷりと描かれ、「あなたさえいれば何も不安じゃない」という信頼感が二人に生まれていることを感じさせます。
キャレドンの「今そんなことしてる場合!?」と感じるような凶行も、船の沈没という窮地だからこその自暴自棄だと考えれば、ある意味では真実味のある人間らしい一面なのかもしれません。

他には、そもそもローズが上流階級という設定だからこそ、社交界で設計士と交流があり、乗客の中でいち早く沈没の情報を手にすることができた流れも、実にスマート。
さらに、ローズは救助船でジャックの姓を名乗って新たな人生を歩み始めますが、母親とキャレドンが下層階級を見下していたことが、三等船客に紛れることで二人の目を逃れられる伏線になっています。

そして、「そういえばハート・オブ・オーシャンはどうなったの!?」と観客が忘れかけていた頃、控えめながら上品なエンディングで、195分の上映は幕を閉じます。


ローズのような強いハートで乗り切ろう

閉鎖空間に、死の恐怖……タイタニック号の悲劇は、今我々がさらされている世界的な脅威とどこか通じるものを感じます。
自暴自棄になったり、自分だけは助かろうと秩序を乱したり……生命の窮地には人間のあらゆる歪んだ姿が浮き彫りになるのだと改めて思い知らされました。

けれど、ローズは冷静で、そして強かった。
命の危機にも決して取り乱したり泣いたりせず、恋人が死してなお決して未来を諦めず、凛とした強さで沈没事故から生還しました。
壮絶なピンチを生き抜いたローズの姿は、今の塞ぎ込んだ我々にこそ勇気を与えてくれる存在だと思うのです。

ウイルスとの戦いの日々は、まだしばらく続きます。
それでも、ローズのような強いハートを持って、このピンチを乗り越えたい。
夜の真っ暗な海にもやがて朝日が昇るように、この辛抱の先には、きっとこれまでよりももっと明るい新たな世界が待っていると思うから。

マリアナの
海より深い
年下の
男に抱かれ
落ちる眠りは


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