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がんばっていきまっしょい!

気がつくとテレビ画面には、
《終わり》の文字が写し出されていた。
ソファに体を沈めて、
録画しておいたテレビドラマを観ていたはず、
だった。
それがどうだろう。
途中からの展開は全く記憶にない。
そして番組が終わると、不思議と目が醒める。
なぜだ。
これは永遠の謎だ。

週に一度のテレビドラマを見続けるには、
それなりの覚悟が必要だった。
どんなに疲れていても眠くても、
次の週までには
今週分を観ておかなければならない。
ごく稀に、
今週分を観た後で先週分を観る、という
荒技を使うこともあったが、
やはり先の展開を知ってしまってから
前回のものを観るのは、味気ない。

そういった義務感に縛られるのが辛くなり、
私はだんだんと連続ドラマを
観なくなってしまった。
ことに社会人になってからの疲労感は強く、
欠かさずに連続ドラマを観る気力が
失われてしまったのだった。


それでも。
今も私の心に残り、
決して色褪せることのないテレビドラマが
いくつかある。

観返してみると、
今や演技派と言われる俳優の駆け出しの若さに、
ちょっと胸きゅんしたりする。
時代が変わっても褪せないストーリー、
その時にしか出せなかったであろう
俳優の煌めきが、
何年経っても私の胸を揺さぶってくるのだった。

《熱に浮かされたように
再び観たくなるに決まっている》

そう思ったドラマは、
お年玉貯金をおろしてDVDを買ったものだった。


DVDを買ってでも残したかったテレビドラマ。
それは——

♢ビーチボーイズ 
♢がんばっていきまっしょい
♢歌姫

どれも思い入れがありすぎて、
語り出したら夜が白々と明ける頃まで
止められないと思うのだけれど、
今回は敢えてひとつだけ、
ざっくりと思いを語ろうと思う。



#テレビドラマ感想文

《がんばっていきまっしょい》

原作を読むより先にドラマを観た。
何の先入観も情報もなく、
ただ、鈴木杏ちゃんという演技派の俳優が出ているから、ちょっと観てみようという軽い気持ちで観始めた。
当時はなぜだか部活モノのドラマが好きで、
感情移入しやすかったのだ。

鈴木杏ちゃんは、大変に素晴らしい俳優だった。
青春時代の真っ直ぐさ、身勝手さ、
全力感、かがやき。
それらを全身から放射していた。
ああ、杏ちゃん。
あの時のあなたは本当に最高だった。
最高の青春を描いてくれていたよ。



杏ちゃん演じるところの「悦ねえ」は、
入学した高校で競技ボートに乗りたいあまり
部を立ち上げて仲間を募り、
大会に出場して勝つことを目標にするのだった。
友情あり、恋あり、
家族との葛藤あり、試行錯誤ありの、
いわゆる青春モノだ。
ともに活動してゆく仲間たちは何しろ素朴で、
普通の女の子たち。
こう言っては失礼かもしれないけれど、
学校イチの美人やモテ子だとかは
出てこない。
松山の美しい海を舞台に、
そんな彼女たちの成長物語は進んでゆく。


けれどもそこには、
とんでもなく苦い痛みが待っていたのだった。
もっとも大切な、三年生最後の大会。
その直前に部長である悦ねえが腰を痛めてしまい、彼女だけ出場できなくなってしまうのだ。
そんなことがあっていいものだろうか!
私はその事実に茫然とし、
号泣した。
部の一番の功労者が報われること。
そんなサクセスストーリーを
誰もが期待することだろう。
それなのに、
こんなに残酷な結末が待っているなんて。
悦ねえの心情を思うと
たまらなく切なくやるせなかった。
このドラマを見るたびに、
私はこの場面で何度も何度も泣いた。
何回も観ていてわかっていても、
涙を抑えることは出来なかった。


努力は、必ず報われるとは限らない。

その痛みは、誰にでも思い当たることが
あるのではないだろうか。
だからこそ、ドラマという架空の場の中では
成就してほしいと願うし、その夢を見る。
その方がスカッとすることだろう。
しかし、このドラマで
そんな奇跡は起こらないのだ。

悦ねえは、
腰の痛みを庇いながら
仲間を応援するために奔走する。
その姿をみて、
折り合いの悪かった悦ねえの父親が
娘を励まし支えるのだ。
そして私は再び大泣きすることになる。
(今こうして書きながら思い出して、
目頭がアツクなっている)

彼女たちは最後の大会を駆け抜け、
やがて卒業してゆく。
皆の進路はばらばらで、
船に乗って新しい土地へ旅立ってゆく。

高校生活、すなわちマル。


ともに過ごした季節はかけがえのないもの。
哀しみも喜びも共有してきた仲間がいる、
という強さ。
この先彼女たちそれぞれが
どんな人生を送っても、
思い出の日々に背中を押され、
心の舵をまっすぐに切ってゆくことだろう。
高校生活はイージーオールしたけれど、
心の中では静かに熱く、
永遠にオールを漕ぎ続けてゆくのだと思った。

※イージーオールとは、
ボート競技の用語で
『オールを水中から出し漕ぐ動作を止めること』


青春は、どうしてイタイのだろう。
不恰好でカッコ悪くて、美しく眩しい。
二度と手に入れられない時間は、
狂おしいほどに澄んでいるのだ。




ドラマを観た後で、原作本も読んだ。
別なキャストで映画も公開されていたが、
映画は観ていない。
何しろ私は
杏ちゃんの悦ねえが好きだったから。

このドラマでは
途中である俳優の交代があったりして、
回数が減ってしまった印象がある。
それでもDVDを買って持っていてよかったと、
つくづく思った。
そしてこのDVDには
おまけのような逸話がある。

《おでんのコンニャクは三角!》
という非常に重要な台詞があるのだが、
あろうことかパンフレットの文字は
三角が《四角》になっていたのだ。
いやいやいや、、
コンニャクは四角いこともあるだろうけれど、
ここでそれはナイよ!
と思った私は、すぐさま問い合わせをした。
後日、
印刷し直されたものが送られてきたのだけれど、
それはそれでレアなものになったとも言える。

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嗚呼。
久しぶりに観てしまおうか。
また、泣いてしまおうか。
悦ねえたちの輝きに触れて、
私の心を
ボートの波で洗ってもらうことにしよう。
波飛沫と涙を拭くための
バスタオルの用意はできている。

さあ、明日からも
がんばっていきまっしょい!


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