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【エッセイ】わが家のつみれ

9月下旬、お墓参りで宮城県の女川(おながわ)に行った。
女川は三陸海岸に面した港町で、仙台ではないような新鮮な美味しい魚が手に入る。魚好きの私にとっては欠かせないスポットだ。

私の中で女川はサンマのイメージが強い。以前「女川サンマまつり」に行ったことがあり、その場で食べたサンマのつみれ汁がとても美味しかったのだ。つみれ汁は、女川のお母さんたちが作った漁師町の家庭料理で、塩と醤油ベースの汁にネギとサンマのつみれが入っている。

その日も女川の地元スーパーに立ち寄り、いつものごとく鮮魚売場に直行した。売り場の冷凍庫をふと見ると、「わが家のつみれ」という商品を発見した。

「わが家のつみれ」は、チューブが付いたパッケージの中にすでに味付けされたすり身が入っている。汁を作り沸騰したところに絞り出せば、簡単につみれ汁が作れるという。しかも「宮城県女川産」としっかり書いてあるではないか。つみれを作る手間が省けるし、手は汚れないし、時短が叶う。毎日会社から帰り、焦りながら家族の夕食をつくる身としては何ともありがたい商品だ。2つ購入し、翌日には寄せ鍋の具にしていただいた。

今では、時短商品を買うくらいにつみれ汁が大好きなのだが、子どもの頃は苦手だった。
肉だんごと比べてさっぱりしていて物足りなかったのと、魚特有の苦みが原因だったと思う。

当時は秋になると夕食にサンマの登場回数が増えた。今では信じられないことだが当時はサンマが豊漁で、リーズナブルな価格で食べられたのだ。「サンマのつみれ汁」も登場回数が多かった。

つみれ汁が出るたびに憂鬱だった。
両親は、好き嫌いを理由に食事を残すことを許さなかった。私は苦手な物を先に片付けるタイプだったので、つみれ汁が出されると、一番最初に食べきっていた。

その日も真っ先につみれ汁に手を付けた。早くつみれ汁を片付けて、おかずの肉を美味しく食べたいという一心で。
しかし、その焦りが裏目に出てしまった。私は、つみれ汁が入ったお椀を持つ手を滑らせて、中身を全て床にひっくり返してしまったのだ。

次の瞬間、汁に入っていたつみれやネギ、大根などが無残にも床に飛び散った。私のスカートも汁で濡れてビチャビチャだ。「んもう!何やってるの!」母は怒った。
「うわの空で食べているから、こういうことになるんだ」と。

すると父がイライラした声で「茶碗とお椀の位置が逆になってるからだろ!」と言った。思い返すとお椀を左、茶碗を右に置いていた気がしないでもないが、気が付かなかったのは黙っていた。

父の一言にすかさず母が「茶碗とお椀の場所は関係ないでしょ。注意散漫なのが原因だ」と応戦、父が「いや、関係ある。普段の位置と逆だと持ちづらいだろ」と反論し、夫婦げんかに発展してしまった。

両親の言い合いを横目に、私はその場にいるのがいたたまれなくなり、そさくさと自分の部屋に立ち去った。
もちろん、手早くメインの肉を口に入れ、内心「つみれ汁をクリアできてラッキー」と思いながら。ちゃっかりしてて、好きなものに対しては食い意地が張った子どもだった。

そのように苦手だったサンマのつみれ汁が、まさか20年後には貴重なものになっているとは!
そんなことは思いもよらず、秋になれば毎年食べられるものだと思い込んでいた。その上、年を重ねることで自分自身の好みが変わり、魚が大好物になりつみれ汁が恋しくなるとは。小学生の私が聞いたら驚くに違いない。

けれども当時と違い、思うように時間がとれなくても、手軽につみれ汁を作って食べられる時代になった。魚好きとしては大変嬉しいことだ。

「わが家のつみれ」の残り1袋を解凍した。こないだ鍋にしたから、今回はつみれ汁にしようかな。
醤油ベース、味噌ベースどちらで作ろうか。
そして次に、女川に行ったら「わが家のつみれ」をまとめ買いしてこよう。

◆参考
美味しいつみれ汁を手軽に食べられる、超おすすめ商品です。





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