雨屋涼

ファンタジー・SF中心の小説を書きます。ライター駆け出し。文章で生計を立てることが目標。

雨屋涼

ファンタジー・SF中心の小説を書きます。ライター駆け出し。文章で生計を立てることが目標。

マガジン

  • 文舵練習問題

    『文体の舵をとれ』自筆練習問題まとめ

最近の記事

【掌編】夜、静寂、魔法

BFC3オープンマイク作品です。 173「夜、静寂、魔法」 --------------------------------------------------------------------------------------  夜は静かだ。 「都会じゃ信じられないだろうけど、外灯の明かりは10m間隔にしかないんだ。住人だって夜中の一時には寝静まって、電気のひとつ付いていない。本当に、静かすぎて耳の奥で音がするみたいだったんだよ。山の上も本当に星が近くてさ。僕が魔法を

    • 【掌編】潮騒(BFC3落選作)

       朝焼けがどこまでも続く海から昇ってくる。潮風が吹き、真っ白な砂浜の下に埋められた骨や金属製の勲章、珊瑚の死骸などを曝けだした。木桶を抱えたニミルはそれらをひょいっと避けて、汀へ向かう。  波の打ち寄せる汀には、海のはずれから流れ着いた船が乗りあげていた。新しいものから風化して壊れたものまで。ミニルは指を折って数えたが、両手で足りなくなったので諦めた。その先の数字をミニルは知らなかった。  ――海には、“人だったもの”が大勢いる。私らは決して、それに触れてはいけないのさ。  

      • 現代・異世界論争

         ――列車が人を運び、魔法使いはその上を飛ぶ。箒を使った飛行は身ひとつの気楽なものだが、大勢の人間と荷物を積みこんだ列車は違った。生き急ぐように速度を上げていき、線路が擦れて悲鳴をあげる。  魔法使いは人間の速度についていかない。それもまた、人間と魔法使いが下した選択の差なのだろう。  魔法使いは高度をあげてツバメのそばまで追いつくと、遥か眼下に建つ煉瓦の街に手を振り、天空の街を目指した。 完 「これ、現代ファンタジーか異世界ファンタジーかどっちだと思います? あ、人による

        • 【掌編】アイアム

           気分はどうですか。  声をかけられてわたしは目を開く。新しい「眼」は周囲の神経と繋がり、視覚としての機能を開始した。 「問題ないです」  ベッド脇に立つ技師に答えて身体を起こす。初めに「眼」に覚えさせるものは決まっていた。  棚から一冊の本を引き抜いて机に向かう。目を閉じると脳内にシルクの布が広がった。わたしは布に生じた皺を丁寧に伸ばしていく。心を無にする行為は高等な技術らしいが、わたしにとっては容易なことだった。  思考を遮断して開いた「眼」は本を無機質な物体として捉える

        【掌編】夜、静寂、魔法

        マガジン

        • 文舵練習問題
          6本

        記事

          『文体の舵をとれ』練習問題④重ねて重ねて重ねまくる 問2

          問2:構成上の反復 語りを短く執筆するが、そこではまず何らかの発言や行為があってから、そのあとエコーや繰り返しとして何らかの発言や行為を出すこと。 課題の意図に沿えているか怪しいですが、掌編を書きました。 スケッチ  授業で今度、学校裏の森の植物をスケッチするのだと言ったら、リンクル叔父さんがスケッチブックをくれた。緑の厚紙に挟まれた紙はその肌触りから、質の良いものだとジミーにも分かる。 「昔に買ったものだけど、まだ使えるはずだ。けどねジミー、そのスケッチブックで誰かを

          『文体の舵をとれ』練習問題④重ねて重ねて重ねまくる 問2

          『文体の舵をとれ』練習問題④重ねて重ねて重ねまくる 問1

          一段落(300文字)の語りを執筆し、そのうちで名詞や動詞、形容詞をすくなくとも3回は繰り返すこと。助詞などの目立たない言葉は不可。  空から一つの太陽が沈み、三つある月の一つが水平線から顔をだす。星詠はそれを、街はずれの灯台から見ていた。一の月がほかの二つの月を引っ張りあげて、月たちが顔をだす。星詠は見ていた。三つの月が夜空に浮かぶさまを。それぞれの月の下に、ひときわ輝く星が現れるのを。星詠は見ていた。手に握られたスケッチブックに月の輪郭を写す。星の光を写す。それが星詠の仕

          『文体の舵をとれ』練習問題④重ねて重ねて重ねまくる 問1

          『文体の舵をとれ』練習問題③長短どちらも 問2

          問2:700文字に達するまで1文で執筆すること テーマ:感情が力強く高まっていくようなシーン  擦り硝子の窓では外が晴れているのか、曇っているのかよく分からない、とおぼろげな光が差しこむ窓を眺めて、それから、キッチンに向かって足を動かすと、積み重なった食器たちが目にはいるので蛇口をひねって水に浸し、スポンジを泡立たせて一つずつ泡まみれにしていくのだが、これは彼女にとって毎朝の日課であったから、彼女は頭が起ききっていないまま手を動かしていて、汚れを落とすよりも泡をつけること

          『文体の舵をとれ』練習問題③長短どちらも 問2

          『文体の舵を取れ』練習問題③長短どちらも 問1

          問1:一段落(200~300文字)の語りを、15字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。 テーマ:ある種の緊迫・白熱した動きのある出来事  すべては雨のせいだ。客先でそんな言い訳はできない。では手紙の住所が読めなかったとか。だめだめ、配達員失格だ。緑帽子の配達員は首を振った。雨降る街を走る。雨合羽の下で膨れた鞄が揺れた。中には手紙が詰まっている。ブーツが滑る。角を曲がり損ねそうになる。踏ん張ってぎりぎり耐えた。家はすぐそこだった。ポーチで雨合羽を脱ぐ。鞄

          『文体の舵を取れ』練習問題③長短どちらも 問1

          『文体の舵をとれ』練習問題②ジョゼ・サラマーゴのつもりで

          300文字〜700文字で句読点のない語りの文を執筆すること 日本語は接続詞でいくらでも文を伸ばせるんじゃないかと思いやってみたら、たくさんできてしまった。 所用時間は3つで1時間半くらい。 ジョゼ・サラマーゴは読んだことがないけど一文がとにかく長いらしいので、1人称の文では意識して句点なしでも読めるよう書いてみた。 ①1人称 688字  今でも鮮明に覚えているのは当時仲の良かった友人Tが開いたパーティのことでその時の僕は貧乏でパーティ用の衣装なんて何十年も前の父のお古しか

          『文体の舵をとれ』練習問題②ジョゼ・サラマーゴのつもりで

          『文体の舵をとれ』練習問題①問1問2

          練習問題①文はうきうきと 問1:1段落~1ページで声に出して読むための語りの文を書いてみよう いっぱしの炭鉱堀りは音を聞くんだ、と言ったのは五つ離れた兄ドワーフのルシップで、初めて坑道に足を踏みいれたその日から、ミルニルは毎日兄の言葉を思い返していた。 音を聞くんだぞ、と言い聞かせて身体と同じくらい大きなつるはしを振り下ろす。 硬い岩にぶつかると、キンッと音を立ててつるはしは跳ね返った。身体がひっくり返らないようバランスを取って、ミルニルは前かがみに耳を澄ませる。これは貴金

          『文体の舵をとれ』練習問題①問1問2