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『文体の舵を取れ』練習問題③長短どちらも 問1

問1:一段落(200~300文字)の語りを、15字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。

テーマ:ある種の緊迫・白熱した動きのある出来事


 すべては雨のせいだ。客先でそんな言い訳はできない。では手紙の住所が読めなかったとか。だめだめ、配達員失格だ。緑帽子の配達員は首を振った。雨降る街を走る。雨合羽の下で膨れた鞄が揺れた。中には手紙が詰まっている。ブーツが滑る。角を曲がり損ねそうになる。踏ん張ってぎりぎり耐えた。家はすぐそこだった。ポーチで雨合羽を脱ぐ。鞄から分厚い手紙を取りだした。腕時計はきっかり3時だ。お届け時間と一緒である。配達員はノッカーを叩く。お届け物ですよ。何度やっても、返事はなかった。
232字

両問共通追加問題:同じ物語を長短両方で綴ってみよう。
(問2:700文字に達するまで1文で執筆すること)

 すべては雨のせいだ、いやいや、客先でそんな言い訳はできない、では手紙の住所が読めなかったというのはどうだろう、だめだめ、それじゃあ配達員失格だ、とあれこれ考えながら緑の帽子をかぶった配達員は雨の街中を走り、首を振って言い訳を考える思考を止め、とにかく配達先に間に合わせることを考えるのだと足を急がせて街道を進んでいたが、その雨合羽の下には配達予定の手紙がいっぱいに詰まった鞄が隠されており、そこまでの速度は出ていなかったため、それが配達員をさらに焦らせて足の置き所を間違え、濡れた石畳の上でブーツが滑り、曲がり角でバランスを崩した身体がひっくり返りそうになり、あわや大切な荷物まで濡れそうになったのだが、そこは配達員、手紙を届けるプライドは厚く、荷物は濡らすまいと足を踏ん張って耐えたのち、曲がった先に配達する家の屋根がすぐ見えたからほっと息をはいて、ポーチに上がりこみ、雨合羽を脱いで鞄から分厚い手紙を取りだすと、住所が間違っていないことを確認し、腕時計を覗いたところ、時間はきっかり3時、配達予定時間とまったく同じであったから配達員はどっと安心して、言い訳を考えなくてよくなった、と冷えた身体もびしょ濡れのブーツもお構いなしに、よかった、よかった、とつぶやきながら扉に取りつけられたノッカーでコンコンと控えめにノックをして、指定された時間に届けに来ましたよ、とお伝えするけれども返事はなく、聞こえていないのかな、と扉を叩く音を強くしようとも、お届け物ですよ!と閑静な住宅街にはふさわしくないような音量で訪問を伝えようとも、その扉は固く閉ざされていて人の気配はなく、決して開かれることはなかった。
699字


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