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『文体の舵をとれ』練習問題③長短どちらも 問2

問2:700文字に達するまで1文で執筆すること

テーマ:感情が力強く高まっていくようなシーン

 擦り硝子の窓では外が晴れているのか、曇っているのかよく分からない、とおぼろげな光が差しこむ窓を眺めて、それから、キッチンに向かって足を動かすと、積み重なった食器たちが目にはいるので蛇口をひねって水に浸し、スポンジを泡立たせて一つずつ泡まみれにしていくのだが、これは彼女にとって毎朝の日課であったから、彼女は頭が起ききっていないまま手を動かしていて、汚れを落とすよりも泡をつけることを大事に皿やコップをスポンジで撫で、水切り籠に食器たちを並べては、流れる水音だけに耳を澄ませながら、別に自分が洗わなければいけないルールではなかったのに、といつ始まったのかも覚えていない、朝起きて最初にする家事習慣について考えを巡らせ、放っておいたら夕ごはんか、そのまた翌日の朝まで洗われていなかった食器たちを思い出し、洗うから置いておいて、という信憑性のない言葉までついでに蘇ってきて、ようやく、なぜ朝起きてすぐ食器を洗うはめになったのか結論に至ったところで、無意識化で行っていた洗い物に視界のピントを合わせると、シンクのなかに溜まった食器たちは綺麗に水切り籠に収まり、心が晴れやかになった気持ちがしたので、彼女は蛇口の水を止め、朝ごはんの準備に取りかかろうと電子ケトルの電源を入れ、8枚切りのトーストを2枚トースターに放りこみ、洗ったばかりのマグカップと平皿を水切り籠から回収しようとしたところで、ふと、以前は籠の中身を一度戸棚にしまい、またもう一度同じ仕事を繰り返さないとシンクが綺麗にならなかったことに気づき、もう8枚切りトーストをすぐに使い切らないことも、ケトルの水の量を倍にしなくていいことも、すっかり習慣になっていたことすべてが無駄であると思い知らされ、ぽつんとその場に立ち尽くしてしまった。
743字

両問共通追加問題:同じ物語を長短両方で綴ってみよう。
(問1:一段落(200~300文字)の語りを、15字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。)

 今日は晴れだろうか。起きてキッチンへ向かう。シンクには食器が積み重なっていた。蛇口をひねり、スポンジを手に取る。食器洗いは朝の日課だ。彼女は寝ぼけたまま皿を洗う。水音が耳に響く。どうして朝洗うのだっけ。彼女は昔の出来事を思い出す。洗われない食器。シンクに積み重なり続ける。それ、洗うから置いておいて。ついでに嫌な言葉まで思いだした。彼女は過去から戻ってくる。食器洗いはおしまい。水切り籠にすべて収まっている。朝ごはんを食べよう。8枚切りトーストを2枚焼く。電子ケトルでお湯を沸かす。マグカップと平皿を籠から回収する。そこで彼女は気づいた。洗い物の量の少なさ。トーストの消費量。お湯の必要量。治らない習慣がすべてを多く動かす。彼女はぽつんと立ち尽くした。
326字

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