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もっと分かりやすく③「対称性を恒等置換まで破壊」する理由

(初めに)コンテストの応募期間は過ぎましたが、説明が不十分な所や重要な部分について、主に2次方程式を使って解説していきます。2次方程式で分かれば、3次方程式 ~ 5次方程式はそのアイデアの拡張なので、本文が分かりやすくなるかと思います。

(本文スタート)
 解の公式を得るためには、前回 (19) でやったように
 「累乗根の添加によって、構成可能なすべての式の対称性(構成可能なすべての式を変化させない置換)を恒等置換にまで破壊する必要がある
 ここでは、その理由を解説していきます。


(復習)対称式について

 まず初めに、対称式について復習します。対称式とは「文字を入れ替えても変化しない式」です(本シリーズ (4)、(19))。例えば2変数 $${\alpha,   \beta}$$ の対称式には以下のようなものがあります。いずれも $${\alpha,   \beta}$$ を入れ替えても式は変化しません。
 $${\alpha+\beta}$$
 $${\alpha\beta}$$
 $${\alpha^2+\beta^2}$$
 $${(\alpha-\beta)^2}$$
2次置換で考えると、対称式は2次置換 $${I}$$ と $${(\alpha       \beta)}$$ の両方で変化しません(本シリーズ (4)、(19))(注1)
 一方、対称式でないのは以下のようなものがあります。
 $${\alpha-\beta}$$
 $${\alpha\beta^2}$$
 $${\alpha^2-\beta^2}$$
 $${\alpha}$$
 $${\beta}$$
これらは、2次置換 $${I}$$ と $${(\alpha       \beta)}$$ のうち、$${\alpha}$$ と $${\beta}$$ を入れ替える互換 $${(\alpha       \beta)}$$ で変化します。
 なお、$${\alpha}$$ や $${\beta}$$ のような1文字で表される式も対称式ではありません。これらは互換 $${(\alpha       \beta)}$$ で、$${\alpha}$$ は $${\beta}$$ に、$${\beta}$$ は $${\alpha}$$ にと変化します。

$$
\begin{align*}
&\,\alpha\\
&\downarrow \Leftarrow {(\alpha       \beta)} を作用\\
&\,\beta(変化する)
\end{align*}
$$

$$
\begin{align*}
&\,\beta\\
&\downarrow \Leftarrow {(\alpha       \beta)} を作用\\
&\,\alpha(変化する)
\end{align*}
$$

つまり、1つの文字 $${\alpha,  \beta}$$ の対称性(式を変化させない置換)は恒等置換となります。
 表現として、$${\alpha+\beta}$$、$${\alpha\beta}$$ のよう対称式は「完全な対称性をもつ」 、解を表す式 $${\alpha,  \beta}$$ は「完全に対称性が壊れている」と表現することができます。

$$
\begin{alignat*}{2}
&\alpha+\beta,  \alpha\beta  のような対称式& &\longrightarrow 完全な対称性をもつ\\
&\alpha,  \beta  のような解を表す式& &\longrightarrow 完全に対称性が壊れている
\end{alignat*}
$$

(復習)2次方程式の解の公式

 2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ の解の公式とは次のようなものでした。

$$
\begin{align*}
x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

これは、2次方程式には

$$
\begin{align*}
\dfrac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a} と \dfrac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

の2つの解があるということです。
 ここで2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ の2つの解を $${\alpha,  \beta}$$ とし、それぞれを次のように定義します。

$$
\begin{align*}
\alpha&=\dfrac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\\
\beta&=\dfrac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

プラスの方を  $${\alpha}$$、マイナスの方を $${\beta}$$ とします。$${\alpha,  \beta}$$ は解そのものなので、このように置くことは可能です。なお、$${\alpha,  \beta}$$ には区別がない(こちらがプラス、こちらがマイナスになるという必然性がない)ので、逆にしても構いません。

対称性を恒等置換まで破壊する理由

 先ほど、2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ の2つの解を $${\alpha,  \beta}$$ とし、次のように $${\alpha,  \beta}$$ を定義しました。

$$
\begin{align*}
\alpha&=\dfrac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\\
\beta&=\dfrac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

$${\alpha,  \beta}$$ は対称式ではないので、それとイコールの関係をもつ2次方程式の解の公式

$$
\begin{align*}
x&=\dfrac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\\
x&=\dfrac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

これらをまとめた

$$
\begin{align*}
x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$

も、対称式ではありません。よって解の公式の対称性は、解の式 $${\alpha,  \beta}$$ と同等の対称性、つまり「完全に対称性が壊れた」恒等置換にまで破壊される必要があります(本シリーズ (11)、(19))。

 以上が、解の公式を得るためには
 「累乗根の添加によって、構成可能なすべての式の対称性(構成可能なすべての式を変化させない置換)を恒等置換まで破壊する必要がある
ことの理由です。対称性が恒等置換にまで破壊された集合の中で、2次方程式の解の公式が構成できる(解の公式が存在する)わけです。

(本シリーズ (19) から再掲)

 このことは、3次方程式、4次方程式、5次方程式、$${\cdots}$$ と、次数が高くなっても同じです。何次方程式でも、その解の公式の対称性は恒等置換にまで破壊される必要があります。そして、5次以上の方程式ではそれが不可能であること(遇置換シンメトリーまでしか破壊することができないこと)によって、5次以上の方程式には解の公式が存在しないことが帰結されます(アーベル・ルフィニの定理)(本シリーズ (14)~(17))。

(注)2次置換について(復習)

 2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ の2つの解 $${\alpha,  \beta}$$ の置換(置き換え)を考えます。この2つの文字の置換を2次置換といいます。2つの解 $${\alpha,  \beta}$$ の2次置換は、次の (case1) (case2) の2通りがあります。

(case1) $${\dbinom{\alpha       \beta}{\alpha       \beta}=I}$$

(case2) $${\dbinom{\alpha       \beta}{\beta       \alpha}=(\alpha       \beta)}$$

(case1) は $${\alpha}$$ を $${\alpha}$$ に、$${\beta}$$ を $${\beta}$$ に置き換える、つまり何も変化しない恒等置換 $${I}$$ です。なにも変化しない置き換えも置換として考えます。

(case2) は $${\alpha}$$ を $${\beta}$$ に、$${\beta}$$ を $${\alpha}$$ に置き換える互換 $${(\alpha       \beta)}$$ です。
 $${\alpha}$$ と $${\beta}$$ を置き替える2次置換はこの $${I}$$ と $${(\alpha       \beta)}$$ の2つのみで、他にはありません。

(参考)各章の内容

(1)「2次方程式の解の公式」を式変形で導出
   ・平方完成
(2)「3次方程式の解の公式」を導出するための準備
   ・$${1}$$ の3乗根 $${\omega}$$
(3)「3次方程式の解の公式」を式変形で導出
   ・チルンハウス変換
(4)「解と係数の関係」と「対称式」の解説
(5)「対称式」を用いた「2次方程式の解の公式」の導出
(6)「解の置換」と「ラグランジュ・リゾルベント」の解説
(7)「ラグランジュ・リゾルベント」による「3次方程式の解の公式」の導出
(8)「遇置換」と「奇置換」の解説(ここから「アーベルの証明」の準備)
(9)「差積の2乗」が対称式となることを解説
(10)「平方根」「3乗根」と次々と累乗根を加えていくアイデア
(11)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「2次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(添加する式について加筆予定)
(12)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(前編)。「差積の2乗の平方根」を用いて対称性を保つ置換を「遇置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。
(13)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(後編)。「ラグランジュ・リゾルベント」を用いて対称性を保つ置換を「恒等置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。$${\longrightarrow}$$ 3次方程式の解の公式の完成
(14)「アーベルの証明」の解説①。5次方程式の解の差積(または差積の2乗の平方根)を添加して、加減乗除ができる式の範囲を拡大。その結果、構成可能な式の対称性が5次置換(対称式)から遇置換シンメトリーへと破壊されることを解説。
(15)「アーベルの証明」の解説②。すべての置換は互換で表せることから、5次置換をすべて互換の積で表して、遇置換と奇置換に分類する。
(16)「アーベルの証明」の解説➂。「すべての遇置換は3次巡回置換の積で表される」ことの解説。
(17)「アーベルの証明」の解説➃(最後)。「任意の3次巡回置換が5次巡回置換の積で表せる」ことによって、5次方程式には解の公式が存在しないことが証明されることの解説。
(18)もっと分かりやすくシリーズ①「累乗根の添加」について重点解説。
(19)もっと分かりやすくシリーズ②「対称性の破壊」について重点解説。
(20)もっと分かりやすくシリーズ③「対称性を恒等置換まで破壊」することについて重点解説。


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