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循環”水”経済   ~クリーン、グリーン、ヘルシー、豊かな都市のために~

2021年7月に世界経済フォーラムが次のブリーフィングペーパーを公開しました。

画像1THE IMAGINE IF WATER SERIES
Circular Cities : A circular water economy for cleaner, greener, healthier, more prosperous cities

水と廃水資源の使用と再利用が最適化され、それによる循環都市の可能性を捉えた秀逸な作品です。今後これは"Imagine If  Water"シリーズとして、随時発行していくようです。

循環経済を推進する立場である方には、必読のブリーフィングペーパー。
抜粋し日本語化してみました。


1、都市が直面する課題

世界中の都市部では、気候変動によって悪化した水ストレスのために、住みにくくなっています。この状況を今すぐ変える必要があります。

今後30年の間に、世界の都市部に住む人口は人類の3分の2以上に当たる70億人が生活することになります。しかし、気候変動、不安定な天候パターン、異常気象のために、都市は住みにくくなります。

都市は、水ストレスの増大という現実的な課題に直面しており、中にはすでに水不足に陥っているところもあります。2018年、ケープタウンは、干ばつ、高い需要、不十分な供給のために水道の蛇口が閉まる「デイ・ゼロ」を迎えた最初の世界の主要都市になるところでしたいました。大都市はどこもそうです。ケープタウンだけではありません。イスタンブール、メキシコシティ、チェンナイも最近、水の危機に直面しています。

4都市のうち1都市は、4兆ドル以上の経済活動を行っており、すでに水ストレスを抱えています。世界のメガシティの70%でも同様です。世界が通常通りのビジネスを続けた場合、2030年には人口300万人以上の45都市が極めて高い水ストレスに直面し、2050年には深刻な水不足に直面する都市住民の数は10億人以上になる可能性があります。


水問題は干ばつだけではありません。大気中のエネルギーが増大したことにより、極端な降雨現象の数も増加しています。2020年、ジャカルタでは、1866年の記録開始以来、1日の降水量が最も多くなり、洪水によって19人が死亡、6万2,000人が避難しました。

それと同時に、都市は暑くなっています。2050年には、970以上の都市で夏の平均最高気温が35℃を超えると予想されています。2050年には、970以上の都市で夏の平均最高気温が35℃に達すると予想されていますが、現在これほど暑い都市は354しかありません。2050年には、熱波により都市部の16億人以上が影響を受けると予想されています。今世紀末には、都市の気温が平均4.4℃上昇する可能性があります。

気候変動はこれらの影響をさらに悪化させ、より頻繁に、より激しくしています。さらに、急速な都市化により、都市の資源に対する需要と圧力が増大しています。毎月、500万人の人々が世界各地の都市部に移住しており、その多くは発展途上国にあります。これは、水とエネルギーの需要の増加、さらには人間の排泄物や水質汚染の増加を意味します。

水質汚染は水路を汚染し、環境を悪化させ、人間の健康にも悪影響を及ぼします。世界の廃水の80%以上が未だに処理されずに環境に放流されています。高所得国では約30%、高中所得国では62%、低中所得国では72%、そして低所得国では92%という驚異的な数字です。

この現実は、都市の生態系に対する持続可能性を脅かしているといえます。

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2、都市のデザインが課題

都市部では、水は一方通行的に利用されています。水を汲み、使用し、廃棄する。気候変動に配慮するなら急ぎ抜本的に考え直す必要があります。


21世紀においても、都市の設計、開発、建設はいまだ充分なレベルに達していません。グレー・インフラは、主に降雨や流出水を捕捉し、上流のダムや遠方の流域、地下水の汲み上げなどから水を調達し、都市に配管しています。その後、コンクリートや人間の手で作られた水路や排水システムを使って、水を都市から外に出します。

したがって、都市の水のほとんどは、外部から水を取り込み、使用し、(汚水処理されたものであれ未処理のものであれ)最終的に海に廃棄するという一方通行的な使われ方となっています。このような都市部の水インフラの考えは、水が有限資源として認識していないため、長期的には持続可能とはいえないものです。
このままでは、今世紀後半には都市の居住性が大きく低下します。

2050年までに、1万を超える都会が生まれ、総面積100万平方キロメートルに及びます。その総面積はエジプトよりも広大になります。現在の都市開発モデルだけでは、グレーインフラをただ増長してしまう可能性が高いのです。

このような従来通りのやり方では別の結果をも、もたらします。拡大を続けるコンクリートジャングルの中で熱を下げることは困難です。産業としての冷房は、世界の電力の30%を消費し、世界の温室効果ガス排出量の8%を生み出しています。2030年には、エアコンの台数が現在の20億台から3分の2に当たる台数が増加すると予想されています。また、建物の冷房に必要な電力需要は、世界全体で50%も増加する可能性があります。
都市の温暖化は経済活動にも影響を与えます。気温上昇による世界的な労働生産性の低下によるコストは、人類に大きな打撃を与えると予想され、熱ストレスによる累積的な経済的損失は、2030年までに2.4兆ドルに達すると見込まれています。

3、都市における循環”水”経済

水の使用に関するループを閉じることで、将来の気候関連問題から都市を守ることができます。

ポストコロナ社会では、都市を再設計することが必要であり、より良く、より環境に配慮した建物を再建することが新たな命題としなければなりません。

世界の経済大国50カ国は、長期的な復興策として14.6兆ドルを約束しており、そのうち3410億ドルがグリーン・イニシアティブに充てられています。同時に、グリーン・ファイナンスは新たな高みに到達しており、取引されているグリーン・ボンドの価値は2.3兆ドルを超えています。

水のインフラを見直すことは、このアジェンダの最優先事項でなければなりません。水インフラは、より持続可能な都市景観を作る上で、極めて重要な役割を果たします。都市部で使用される水の質と量、再利用される水、そして広い流域で循環する水は、地域環境の健全性と本質的に関連しています。

水を中心とした循環型都市は、水を循環的に管理し、都市環境の中で可能な限り高い本質的価値を維持することを基本的な目標とすべきです。これにより、自然の生態系へのストレスが軽減されます。また、外部の環境ストレスから都市を守ることができます。都市は、熱波、洪水、予測不可能な降雨、想定外の災害など、現在すでに顕在化し、さらに悪化すると予測される気候変動の影響に適応し、回復力を持たせる必要があるのです。

主な目標は、水の使用に関するループを閉じることです。都市は、水に含まれるすべての物質と水そのものを再利用し、飲料、衛生、灌漑、冷暖房から出る廃棄物を最小限に抑えなければなりません。循環型の都市では、廃水というものは存在しません。都市生活に欠かせないエネルギーや栄養素(炭素、窒素、リン、熱、有機廃棄物、バイオソリッドなど)の豊富な供給源として、各都市はこの資源を十分に活用します。

都市の経済成長と水の使用を切り離すことで、水の消費量を増やさずに都市を大きく成長させることができるのです。今世紀半ばまでに、循環型経済は一次資源からの水の消費を53%削減する可能性があります。

都市は、水を使って都市空間全体の自然資本を強化することでも利益を得られます。池、バイオスウェール(雨水濾過)、小川、湖は、生物多様性を高めるとともに、生活や仕事をする上でより望ましい場所となり、都市に住む人々の生活の質や精神的な幸福度を高めます。

優れた水管理への投資は、運用コストの削減につながります。これは投資回収期間の短い価値創造型の投資であり、環境面でもメリットがあります。
この資金は、循環型経済に向けた新しい水インフラへの再投資に充てることができます。

例えば、効率的な廃水管理に関連する調査の結果、すぐに利用可能な技術を導入することで、米国、欧州、中国で400億ドルの節約が可能であり、世界の廃水部門で発生する電力関連の排出量の約50%を削減できることがわかりました。

循環型社会の実現を目指す都市は、多額のグリーンファイナンスや気候変動ファイナンスを活用して、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクではなく資産としての水インフラを新たに構築することができます。これは、より持続可能な世界での都市の成長を将来にわたって保証するものでもあります。

このような水への投資は、循環型経済における雇用の創出にもつながります。リサイクル産業は世界で150万人以上を雇用しています。ブルーグリーン産業や都市の水の生態系を作り直すことが新たな仕事になります。
“green rooftop water manager”(屋上緑化の水管理者),
“city wetland executive”(都市の湿地の責任者),
“urban cooling supervisor”(都市冷房の責任者),
“circular water director”(循環水の責任者)
などの新しい職種が出現するでしょう。

一夜にして本格的な循環型社会を実現することはできません。
それには、地域や都市全体さらには流域をも視野にいれる必要があります。
いくつかの都市部では、循環型の水の取り組みによって前進し始めています。ある地区の”廃棄物”が、別の地区の”資源”となることでより大きな価値が生まれます。

事例 シンガポールとその循環型水経済からの学び
天然の帯水層を持たないシンガポールは、循環型水経済の最先端に位置しています。再生水は、現在の水需要の 40%。NEWater と呼ばれるこのシステムは、2060 年までに 55%まで拡大すると予測されています。
再生水を飲むことに対する一般の人々の拒否反応は広範な教育によって克服しました。水の再利用は、シンガポールが将来的に安全で信頼できる水源を提供するための最も重要な柱の一つです。シンガポールは雨水を市域内の貯水池に集めており、また2023年までに30万個のスマート水道メーターを導入する予定です。

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4、循環型ウォーターソリューションのポートフォリオ

世界にはすでに多くのイノベーションが存在しています。循環型の水経済を実現するためには、都市がこれらを大規模に展開し、相互に結びつける必要があります。

水の捕獲と貯蔵

水を貯蔵し活用するスポンジ都市化:
上海は、気候変動に対する都市の回復力を高めることを目標に掲げ、自然に基づく解決策を第一に、都市排水戦略の見直しを行いました。上海では、大量の雨水を必要な時まで貯留するスポンジシティ地区を導入しました。このようなブルーグリーン型インフラは、当初提案されていたグレー型ソリューションに比べて数百億米ドルも安く済みました。

都市は貯めた雨水を冷房に利用:
ブルーグリーン型インフラは、都市のヒートアイランドを解消することができます。例えば、ベルリンのポツダム広場では、屋上緑化、緩衝池、雨水貯留槽を設置することで、夏の気温を2℃低下させることができています 。メキシコシティでは、植樹された樹木の蒸発散により、都市部の気温を1℃低下させています。

都市の水源が冷房のエネルギーを節約:
トロントとパリでは、都市の水源を利用し建物の冷房に役立てるた無料の冷房システムを導入しています。Climespaceでは、冷房に必要な電力の50%をセーヌ川から取っているため、従来の空調に比べて電力が35%、CO2排出量が50%、水の消費量が65%削減されています。

廃水

循環型都市づくりの鍵となる廃水利用:
廃水は未利用の都市廃棄物の中で最大のものであり、すべての固形廃棄物を合わせたものと同じくらいの規模です。廃水には、水道水に比べて最大14倍もの化学エネルギーや熱エネルギーが含まれています。人口400万人の都市では、廃水から回収される炭素、アンモニア、リンの価値は、年間3億ドルに相当します。循環型水インフラの導入には、先行投資や法整備が必要です。

水の使用量を減らした工場に報酬を提供:
都市部の工場では、循環水経済が順調に進んでいます。産業目的で使用する水の大部分をクローズドループでリサイクル・再利用し、水の外需を削減しています。

事例: 循環型ウォーターソリューションをピンポイントで提案

雨水の貯留や雨水貯留槽を備えた新しいオフィスビルでは、配管による水の使用を最小限に抑え、水を自給しています。

透水性コンクリートを用いて雨水を雨水管に貯留したり、屋上に貯留した雨水をコミュニティガーデンの水やりや集合住宅の衛生管理に利用しています。

産業界やデータセンターからの温排水は、地域暖房やエネルギー節約のための資源となります。

廃水処理施設は、エネルギー生産を行うように再設計、廃水からのバイオガスを利用して発電しています。

都市の廃水からすべての資源を抽出すれば、都市部は肥料や有機物の純生産地となり、都市周辺部の農場で利益を得ることができます。

廃水を売買・共有するためのプラットフォームを構築すれば、水やそのエネルギー、生物資源を再利用し、セクターを超えて収益化する機会が得られます。

5,さあはじめよう

循環”水”都市の取り組みを世界的に協調し推進することが重要です。これにより、需要が生まれ、イノベーションや投資に弾みがつきます。

2030年までに循環型水インフラの割合を増やすことを約束する都市のリーダーグループを支援:
すでに始まっています。中国は、今後30年間で、都市部の80%が雨水の70%以上を吸収・再利用することを目標としており、「Sponge City」プロジェクトの一環として30のパイロット都市が参加しています。


「100 Resilient Cities」や「C40 Network」に倣い、「100 Circular Cities」のネットワークを形成:
アムステルダム、ロッテルダム、マルメ、ブリュッセルなど、すでに循環経済のホットスポットとなっている都市が候補となる。これらの都市と、ロンドン、東京、メキシコシティ、イスタンブールなど、水不足の観点からデイ・ゼロ(水道断水日)間近な潜在的にリスクのある都市を組み合わせることで、刺激的な学習と成功事例共有できるようになります。


自由貿易におけるタックスヘイブンのように税制優遇措置や低関税を適用した「ブルー」な循環型経済圏の設立:
工業団地や新しい都市統合地区は、水を中心とした循環型経済を始めるのに適した場所です。企業や住宅の新しいクラスターは、互いの資源や廃棄物の流れを利用し、節約やモニタリングシステムを実現します。このようなゾーンは、水に関する最良の循環経済モデルの実験を促進し、グリーンファイナンスを呼び寄せます。


水と循環に関する消費者の教育と認識を世界的に拡大:
循環型都市を実現するためには、都市生活者にとってトイレから蛇口までの水がいかに重要であるかを教育することが重要です。リサイクルされた飲料水を使用するには、信頼、情報、社会的規範が重要です。食品・飲料メーカーは、消費者の態度を理由に、再生処理水を製品の原材料として使用することを避けています。これを変えなければなりません。


循環型都市の水に関する成果に資金を提供:
ブルー・ボンドは、海や循環経済の投資ファンドの成果を確証しはじめています。ブルー・グリーン・ボンドやその他の金融インセンティブでは、ESGと水に関する目標の整合性を確認する必要があるものの投資家は都市が循環型アプローチを採用することを奨励しなければなりません。環境面や社会面での貢献は、水への貢献でもあります。年金基金や機関投資家は、新しい都市や水のインフラが循環型であれば、より好意的に受け止めるでしょう。

アクションとインパクトの優先分野
循環型の水の取り組みを進めるために、各都市が今すぐ行動を起こしてください。新しい経済モデルが、都市の循環型水事業の規模に応じて機能することを示してください。循環に取り組むパイロットプロジェクトに投資してみましょう。

6、都市のための循環型ウォーターアプローチ:思考を切り替えろ

水は、衣類や電子機器、プラスチックとは異なり、比較的安価に加工できるため、究極の循環型資源といえます。また、水は何度でも使用することができるため、無限に価値を生み出すことができます。都市には多くの人が集まっているため、使用される水には大きなエネルギー(熱)と生物資源(糞尿)が含まれています。このように、水はいまだ十分に活用されておらず、過小評価されている資源です。

21世紀にはさらなる都市化が予想され、この状況は続くでしょう。都市の面積は地球上の土地の3%未満ですが、都市に水を供給する集水域は約41%を占めています。しかし持続可能とは到底いえない状態です。人類の水の利用方法は今すぐにでも変えなければなりません。

循環水利用は、都市のウォーターフットプリントを削減し、回復力、経済成長、持続可能性の好循環を生み出し、健康、気候、自然にも利益をもたらす素晴らしい取組みとなります。都市部は、特に気候変動に対する回復力が高まり、より持続可能で、住民にとってより健康的な環境となります。また、水源地や自然環境にも優しくなります。そして何よりも、都市の未来のために水の安全を確保していくようになります。

何もしないという選択肢はありません。今こそ、都市の繁栄のために、都市における水の役割を再考し、再設計する絶好の機会なのです。


■おわりに

いかがでしたでしょうか? 循環経済を考える上で水資源は無視できません。また水資源のリサイクル化は反対意見が出にくく、可視化しやすい・数値化しやすい点で循環経済の第一歩として取り組みやすい素材ではないでしょうか。


 この記事は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下、世界経済フォーラムから転載しています。もと資料はこちら World Economic Forum reports may be republished in accordance with the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public License, and in accordance with their Terms of Use.


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