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#121:ITプロジェクトは「素人が演じる劇団四季」のようなもの

ITの仕事に関わって20年が経過したが、常に「なぜこんなにもITプロジェクトは難しいのだろうか?」と感じながら過ごしてきた。色々と揉めるし、スケジュールは延びるし、途中で人は倒れるし、完成後も障害出して怒られるし。

そして、ひとつの仮説にたどり着いた。

ITプロジェクトは「素人が演じる劇団四季」のようなもので、だから難しいのではないかと。

まあ突飛なことを言い出した自覚はあるので、少しずつ理由を説明させていただきたい。
(長文です。お暇な時にどうぞ)

ITプロジェクトの成功率

ITプロジェクトの成功率は約16%と言われる。多少改善してきたかもしれないが、8割近くは失敗する。プロジェクト遅延やリリース後の障害発生だけでなく、完成したのにあまり使われないこともある。とにかく難しいのである。

他と比べてみると、よりその異常さは際立つ。成功率の正しい数字は分からないが、ビル建設がそんなに失敗続きとはあまり思えない。

建築物との違い

いったい建築とITは何が違うのか。

まずITプロジェクト(システム)は、完成後も出来上がったものが目に見えない。もちろんシステム構成図にあるような、サーバがあってその上でプログラムが動いてネットワークが他のシステムと繋がって、という物理的な完成品はあるがそれを目の当たりにする人はいない。

少なくとも利用者には見えない。せいぜい画面や帳票などの目に見えるものを断片的に頭の中で繋いで「新しいシステム」と認識する程度。しかし、断片的に目にする画面イメージはシステムやITプロジェクトのほんの一部である。

少し話を進めると、実はITプロジェクトの完成品はシステムですらない。そのシステムを利用した業務プロセスこそが最終的な成果である。あくまでシステムは業務で利用する(顧客がサービス利用する)ために用意するものである。

そして完成した業務プロセスそのものも通常は誰かが見るものではない。出来上がったものが誰の目にも明らかな建築物とは大きく異なる。

業務プロセス≒劇

しかし正確に言うと、業務プロセスも目にすることはできる。(業務フロー図は目に見えるがそれのことではない)業務プロセスが行われている様子を、つまり誰かがそのシステムを使って業務をしている様子を録画すれば、他の人も見ることも可能という意味である。

余談だが、録画すれば使っている人の表情すら映すことも可能である。むしろ使いにくい時の舌打ちや既存業務に比べ楽になった喜び(そこまで喜ぶかは?)まで記録した方がよいかも。

結論何が言いたいかというと、ITプロジェクトの最終的な成果は人々の活動(業務プロセス)そのものである。それは少し演劇に似ている。

そう考えるとITプロジェクトの難しさについていくつかの説明がつく。

劇には脚本(シナリオ)が必要だが、脚本は誰でもが容易に書けるものではない。劇のテーマ選定もなかなか難しい。そして何より劇はLIVE(生)かつダイナミックな(動的な)営みであるため、想定しにくい面が大きい。また公演まで(最後まで)劇の出来上がりは分からない。

これらの話はITプロジェクトにもあてはまる。ITプロジェクトでも、その目的(劇のテーマ選定)や業務プロセス(シナリオ)を描くのは、難しかったりする。そして、最終的に出来上がったものを見るまで完成形が想定しにくい。

舞台装置≒システム

更にややこしくする要素がシステムだ。

ただ人が芝居する演劇でも前述の通り、読めないことが多いのに、ITプロジェクトでは大掛かりな舞台装置≒システムを必ず用意する。

大規模な舞台装置を要する演劇なので、これは劇団四季だなと結論付けた。最後は舞台装置と演者の融合した動きが求められるのだから、それは普通の劇に比べて難しいに決まっている。

劇団の構成メンバー

ITプロジェクトは劇であり、しかも舞台装置を使う劇団四季の劇であるところまで説明した。

では、この劇を構成するメンバーはどういった人々だろうか。

ITプロジェクトの主な登場人物で考えた時に、ビジネス部門、IT部門、ベンダーは、それぞれ演者兼脚本家、演出家、舞台装置の製作担当というところだろうか。

最後に出来上がったシステムを使って、業務を行うのはビジネス部門である。まさに演者。

次に脚本家として、業務プロセスを組み立てるのはだいたい既存業務に詳しいビジネス部門の担当者が担う。なので、演者兼脚本家である。しかし、これは今までの劇を演じていた役者にそれを参考にして脚本書いてみれば?ということに近い。専門のシナリオライターではない。(専門の脚本家≒コンサルを雇うこともある)

ではIT部門とベンダーの役割だが、業務のうちシステム≒舞台装置を使う場面に特化した関与に近い。あくまで劇そのもの(業務プロセス)はビジネス部門が主役である。舞台装置の製作やそれを使った演出に関してのみ、ベンダーやIT部門が関わる感じかもしれない。

新しい舞台装置ができたばかりで行うと、どうしても演者も不慣れであり素人が演じるような劇になる。そしてここまでを全部繋げてみるとITプロジェクトは「素人が演じる劇団四季ようなもの」になる。(まあ最後は強引だが…)

なおシステムの使い方に慣れるユーザ教育は、さながら本番に向けた舞台稽古のようなものか

改めて気付いたこと

仮説を前提にかなりこじつけた部分もあるが、例えてみて気付いたこともある。

ひとつは元々疑問としていたITプロジェクトが難しい理由について。素朴な感想として、劇団四季を成功させるのは(完成度のレベルは色々あるとしても)そりゃ難しいわ、と。

もうひとつは以前から薄ら気付いてはいたが、ITプロジェクトを成功させるにはかなりクリエイティビティ(想像力)が必要だということ。

正直、業務プロセスの実現には、劇団四季ほどのエンタメ性もクオリティーも求められない。そんなにレベル設定が高いと全て失敗するが、ただ舞台装置を使った劇であることには変わりない。やはり動かしてみないと、使ってみないと分からないことが多い。なるべくその想定外を埋めるために想像力の総動員が必要である。

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まあその難しさを、想像力が求められることをきついと感じる時もあるが、基本的には楽しめている気がする。これからもクリエィティブな劇(?)の舞台に関わっていきたいと思う。

長文を読んでいただきありがとうございます。

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