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多角的なフィードバックで、地域づくりの事業に自信 ──高知市本山町・藤川工務店さんの挑戦

こちらの連載記事では、さまざま事情からSustainable Innovation Lab(SIL)に参画された企業や個人を取材し、「SILで何を得られたか?」「SILでの体験、学びを通じて、どこへ向かおうとしているか?」など、各社各人のリアルをお伝えしていきます。「サステナブル・トランスフォーメーション(SX)の実験場」であるSILで何を得て、何を成し遂げるかは企業、人それぞれ。SXを自社や自分に生かす参考になれば嬉しいです。今回の主役は、高知市本山町で地域に収益を循環・還元することを大切にする藤川工務店さんです。本稿も、SIL事務局の塚原がお届けします。

地域を慈しみ、悩み、励む、藤川さん

高知市が2021年の夏に行った調査によると、20代~60代以上の男女1,766名のうち約30%が、「地方移住に関心がある」と回答していました。年代別に見ると、移住への関心が最も高いのは20代。若者ほど地方に移住し、その地域に根づいて働き、生きていきたいと考えていることがわかります。

高知市プレスリリース:【最新移住事情 2021】全国で徹底調査!実態から導く
「移住が成功する条件」〜地方移住への関心が高まる若者・単身者〜

そんな若者を受け入れる地域の一つである、高知県の本山町。この町で生まれ、育ち、そして藤川工務店を長年にわたり経営する藤川さんは、この地域が一人ひとりにとって住みやすくあるために奮闘する事業主です。移住者が増えてきたのに、住宅が不足していることに頭を悩ませていました。単身者が住める空き家がない、移住者が拠点を作りたいのに、それに応える住居がない…。これを何とかしたいと思われています。

木材など、地域資源を活用する人手不足も悩みの種です。藤川さんが本山町を見つめる中で、農業では若返りが進み、多様な人が関わることで充実した状況が生まれつつあります。しかし、林業に目を転じるとまだ人手が足りず、地場の資源である木材を扱う工務店として何とかしたいと心悩ませています。そんな時に出会ったのが、SXの実験場であり、持続可能な地域づくりを推進するSILです。藤川さんは、SILでどのような知見を得て、ご自身の構想を発展させ、SILをどう生かそうとしているのでしょうか?

藤川さんは、SILに何を期待して参画した?

その答えをお聞きする前に、熱意と行動力のある藤川さんは、本山町でこれまでどのようなことに取り組んできたのか、最近の実績を見てみましょう。藤川さんにこのことを質問したところ、次のような成果をお答えいただきました。下記の実績は、住宅が整備されることによって、地域資源の担い手に「地域づくりを考える時間を提供したい」という思いと必然性から生まれたとのことです。すなわち、活躍する人たちのためのハードづくりであり、本山町に関わりたいと思う際のハードルをぐっと下げる取り組みでもあります。

— 藤川工務店の直近の実績 —

  • ゲストハウス建設中、4区画分譲住宅の販売開始

  • モデルハウス建設中(電力会社LOOOPの太陽光発電リース事業採用予定)

  • 単身住宅の整備計画(12戸)

  • 建設中のゲストハウス、モデルハウスを活用し、移住者向けのイベントを実施

  • 地域資源を活かし、人が集まれる拠点づくりを計画中

上記のように、確かなビジョンをもとに価値を生むための取り組みを着々と進めています。今後の計画として、若者向けや高齢者向けの区画などの整理を検討しながら、社会福祉的な視座にもとづく仕組みを構想中だそうです。

そんな藤川さんは、上に書いた地域の課題を克服する「多様なメンバーとの対話から地域経済を回す新しい視点の獲得」を期待してSILに参加されたそうです。SILを選んだ理由は、「多くの人が、他人に頼って生きていける社会・仕組みを作っていきたい」と考えたからで、一人の突出したリーダーをつくる旧来的なあり方ではないという点においても、SILに集う年齢や背景が多様な仲間の存在が大きかったようです。

生き方を見つめ、自信を深めたSILという場と仲間

ここからは、SILは藤川さんの期待に応えられたのかに踏み込んでいきます。正直なところを答えていただいたら、「満足できる成果を得られている」ということでした。手探りで共創を進めている所もあるので、SILに集う者どうし互いに満足できていることにほっとしました…。藤川さんが感じた成果は、以下の通りです。

自分の活動について再認識できた

  • 年齢の離れたメンバーと考え方が一致していることが多かった。多様なSILメンバーとの対話で確認した反応は、藤川さんが考えていた方向と一致しており、これまでの活動は間違いなかったと自信を持てた。

  • 地域課題を解決するアイデアについて、若者たちから斬新な意見がもらえると想像していた。ここについては、ある程度「おっ」と思う意見があった。

  • 悩み、奮闘するSILメンバーの姿が、自身と重なって励まされた。

自信を深められた

  • Xゼミ(参加メンバーが、ESG投資など最前線の人から学び、議論する場)などを通して、地域に根差す企業として取り組める事例や可能性に多く触れられた。

  • SILに参加することで藤川工務店のビジョン、構想、実績などが適切な歩みであることが検証された。

地域の課題に対して、民でも公でもなく共(コモンズ)を構築し、テクノロジーの力を通じて解決すると同時に、社会課題を可視化(市場化)するLocal Coop構想(詳しくはこちら)を知った。ぴたりと自分の思いと一致していて、我が意を得たりと思った。

SILに飛び込んだことで、地域にいるだけでは触れない人たちとやり取りし、生き方を見つめ、事業構想に対して自信を深めた藤川さん。SILでの一年間を振り返り、次のように言葉にしてくれました。

「SILは、様々な考え方、組織、年代の方が参画していて、話をするだけで学びがあります。たとえば、自分の意見をぶつけてみて、若い方々、企業、自治体から、どんな反応が返ってくるか、他の人はどんな視点で物事を見ているか等々。

SILに参画することで、住んでいる地域では得る事が難しい視点を学ぶ事ができ、それらを地域に落とし込み、取り入れ、交流する機会を得られています。実は、田舎には仕事があるのですが、稼ぎ方を知らない。生活、仕事、稼ぎを両立できれば、自然豊かな田舎が復活すると信じて今後も事業に取組んでいきたいと思っています」

藤川さん

そして、これから

それでは、最後に藤川さんのこれからと、SILとの関わり方を聞きましょう。藤川さんは、地域の中でステークホルダーどうしで収益を循環させ、地域に還元できる仕組みを描いてます。言い方を変えると、都市部で事業をすれば利益は上がりやすいが、それは「しない」ということで、「地域住民にとって必要な施策に還元したい」という思いです。たとえば、草刈りなど地域活動でよく挙げられる環境整備などは、住民の共助によって出来る事でもあります。藤川さんが描く地域像は、必ずしも大きな収益を前提とする必要がないそうです。

そしてSILとの関わり方として、「SILの参画メンバーが、藤川工務店と事業連携することでも、まずは関係人口的に交流を活発にすることでも、新しい価値が生まれていくと嬉しい」と、すてきな笑顔で話してくれました。言葉を続けて、「何よりも地域に貢献したいと思っているので、SILの人たちに本山町へ来てもらって、ここを体感してほしい」と真剣な目をされていました。ちなみに、本山町をSILのメンバーが訪れ、地域で持続可能な事業を営むことを体感するツアーを現在企画されているそうです。

また、藤川工務店の事業面におけるSILへの期待としては、「民間企業どうしであれば、マッチングはテンポよく進みそう。具体的なアクションづくりを2年目は考えていきたい」と気持ちを新たにされています。大企業との連携は大歓迎だそうです。企業のニーズ、その企業独自のプロセスがあれば、細かく応える気持ちがあるとのことです。

ここまで読んでお感じのように、年齢や所属などは関係ない。思いの強さ、行動力が、SXを起こす源です。表面的なものとは違う本質を、藤川さんは地に足を付けて進めています。藤川さんの取り組みによってどんな価値が生まれてくるのか、これからも楽しみです。


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