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ポスト資本主義社会の基盤となる「Local Coop」構想について | 林篤志

皆さん、こんにちは。Next Commons Lab (NCL) ファウンダー / Sustainable Innovation Lab 共同代表の林篤志です。今回は、私たちが現在構想している「Local Coop」についてお話ししたいと思います。

ローカルベンチャー事業の成果 

『ポスト資本主義社会の具現化』をかかげるNCLが創業時から進めてきたのが「ローカルベンチャー事業」です。過疎化が進む地域の資源や課題を事業の種として捉え直して可視化し、起業にチャレンジする人材をマッチングします。縁もゆかりもない地域に、主に都市部から10数名の起業家を誘致し、常駐するNCLのコーディネーターを中心に、事業づくりと新たな暮らしを3年かけて伴走するローカル・スモールビジネスに特化したインキュベーションプログラムです。3年の伴走期間を経て、60%以上の起業家が4年目以降もその地域に深く関わりながら、自ら立ち上げた事業を継続しています。現在は、約100以上の事業が各地で立ち上がり、ローカルベンチャー事業導入自治体も累計13箇所になりました。

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社会ニーズの変化 

ローカルベンチャー事業を通じて、様々な自治体や企業と接点が増えてきたのですが、この1〜2年で大きく潮目が変わったと感じています。NCLが、自治体や企業から受ける相談内容が変わってきたのです。私自身、10年以上ローカルの現場に関わって仕事をしています。10年前、地域と関わろうとする企業からの相談窓口となっていたのは、たいていCSRや社会貢献の部署でしたが、現在は、新規事業開発またはCSV / サステナビリティに関連する部署が圧倒的に多くなっています。大企業であっても、これまでやってきた事業領域だけで企業活動を続けても未来はなく、気候変動問題やコロナを発端に大きく変化する社会の潮流に合わせて変化しなければいけない。待ったなしの状況を打開すべく、本業の延長線上で、日本の大企業が地域に目を向け始めているのです。社会課題の解決と事業性の両立を地域社会に見出そうとしています。

一方、自治体では、「移住者を増やしたい」「観光を頑張りたい」というような地方創生的な相談は10年前から変わらずありますが、この1〜2年で顕在化してきたのは、自治体の機能そのものを小さくしていきたいというニーズです。端的に言うと、自治体のもつ機能や仕組みが、時代の変化に対応しきれなくなってきていて、“小さくしていかざるを得ない”のです。人口増加期においては、市場経済を成長させ、マーケットメカニズムではカバーできない領域を行政が税金を原資に再投資するという構造が機能していましたが、少子化が進み人口減少期に入った日本では、高齢化も進み社会保障費が年々上がり、自治体の財政基盤はかなり厳しい状況になっています。歳入が減少する中で歳出の増大をカバーするのは限界があり、一方で市場経済は万能ではないので、取りこぼしが増え、真ん中に大きな穴が開いていくのです。私たちは、そこを民でもなく、公でもなく、共(コモンズ)の構築とテクノロジーの力で埋めていき、同時に社会課題の可視化(市場化)をしていくべきと考えています。

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失われたコミュニティパワー 

古い社会システムが崩れていく中で、私たちが本来取りうる対抗策の鍵は「コミュニティパワー」です。しかし、戦後70年以上をかけて様々なコミュニティパワーを失ってきたのも、私たちが置かれている厳しい現状の一つです。かつての地縁血縁をベースにした農村社会から都市化が進み、地方部から都市に大量の若者が流れることで高度経済成長を遂げてきた日本は、多くのコミュニティや共同体を捨ててきました。結果、地方の衰退と都市一極集中を招きました。90年代からサードプレイスの重要性が語られるようになり、その後、ソーシャルメディアやスマートフォンの出現により、物理的制約を越えて人々が繋がることが容易になり、私たちはオンライン上のコミュニティを持つことが当たり前になりました。

一方で、ソーシャルメディアのアルゴリズムは偏った情報摂取を促し、極端なイデオロギーが醸成されることで、社会的な分断は深刻化しています。たとえ違う価値観やバックグラウンドを持つ人同士であっても、対話を重ねながらつながることができれば、困ったときに助け合える関係性を取り戻すことができるのではないでしょうか。私たちは、ソーシャルメディアや地縁血縁だけに限らない、新しい時代の共同体を再構築していく必要があります。

共同体の再構築と自治を取り戻すための社会基盤

さて、経済も横ばい、自治体もその機能を失っていく中で、私たちはどう暮らし、生きていけば良いのでしょうか。そこで必要なのが、「共同体の再構築」と「自治を取り戻すこと」です。それらを現実社会に実装していくために、私たちは「Local Coop」という社会基盤を形にしていきたいと考えています。「自ら治める」と書く「自治」ではありますが、現在の私たちは、自治を(自治体に)アウトソースして、傍観している状況にあるとも考えられます。Local Coopとは、現状はメインシステムである自治体に対して、まずはサブシステムをつくり、住民自ら主体的に関わる装置です。いわば、「第二の自治体」とも表現できるLocal Coopは非営利型を含む、支配権の分散した組合型の法人として、住民の出資・参画によって各地に設立されます。

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自治体や国がやることに過剰に期待したり、文句を言ったりするのではなく、民間企業に丸投げするのでもなく、自ら立ち上がり、共に考え、汗をかきながら、地域に残す未来のための意思決定を自ら行っていく「住民共助による自治機構」を目指します。自治機構と地域内外の企業などが連携して、必要な機能や仕組みを実装していくことで、再生可能エネルギー、住環境、教育、食、自然環境、交通など、これまでは自治体に任せていたところを担っていくのです。

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Local Coopで実装されるサービスやソリューションは、住民がすべてゼロから立ち上げるのではなく、その多くは民間で作られた既存サービスの組み合わせです。しかし、Local Coopに導入されるサービスは、経済的動機や利己的なモチベーションによって駆動するだけではなく、社会的動機や利他性を前提にした地域経済をつくっていくためのツールでなければいけません。中央集権的で利益のほとんどが域外企業に持っていかれるようなサービスは、Local Coopによってフィルタリングされ、また、利便性の追求のみを重視したサービスは、ローカライズされ、自然資本や社会資本の増幅に資するような仕様にマイナーチェンジされます。Local Coopは、企業の在り方やそのサービスが、持続的なエコシステム(地域社会)の一部になっていくようにプロデュースする役割も担っていきます。

社会課題の市場化を目指す

より多くの企業やスタートアップが、事業を通じて地域に関わっていく上で、社会性と市場性の両方を確保できることが重要です。Local Coopでは、基本設計の一つとして、地域の信頼を集めていく基盤を内包しています。その一つが、アミタ社と連携しながら実装していくMEGURU STATION(ゴミステーション)です。MEGURU STATIONは、従来型のゴミステーションとは違い、住民有志によって、より細かな分別が行われ、ゴミを減らすだけでなく、ゴミの資源化を目指すものです。機能の一つである、スマートコミュニティバイオに地域のみなさんが生ゴミを持ち込むことで、メタンガス発酵によるバイオガス活用や液肥化が行われ、CO2を出して焼却することなく、地域に還元されます。同時に、ゴミを捨てるという習慣が、やりがいがあって楽しい習慣に変わっていくことで、共同体意識が変わり、つながりが広がり、しなやかなコミュニティが育まれます。MEGURU STATIONは、CO2排出量の削減など環境コストを下げるだけでなく、ゴミの資源化を通じて高齢者のやりがいを醸成したり、社会的つながりを強化したりすることで、介護費のような社会コストを下げる効果を持ち、その成果をベースにPFS(成果連動型民間委託契約方式)やSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)のようなスキームを活用して、自治体とも連携していくことを想定しています。MEGURU STATIONがプリインストールされたLocal Coopには、地域の未利用資源と信頼ネットワークが集まり続け、社会的ニーズや課題の解像度を高めることで、起業家や企業によるソーシャル・ローカル・ビジネス領域の参入を推し進めます。

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Local Coop構想を形にしたい方へ 

現在、Local Coopでは、全国津々浦々に地域の信頼基盤ネットワークを持つ日本郵政や、エネルギー事業を通じた地域への経済循環や脱炭素化社会の実装に強みを持つ三ッ輪ホールディングスなどが、実装パートナーとなり、自治体やステークホルダーと協議を重ねています。
第一弾として導入を検討しているのは、奈良県奈良市・月ヶ瀬エリアです。奈良市では、地域住民とともに経済・社会・環境面を統合的に捉えた課題解決を図り、持続可能な共生社会の構築を目指すプロジェクトを構想しています。私たちはLocal Coopを地域づくりのアプローチの一つとして、自然資本と社会資本が豊かに回り続ける地域社会モデルを目指します。構想と仮説から構築と実証へ向かう段階に、いよいよ入りました。

Local Coop事業の中核メンバーとして、一緒に新しい未来をつくっていける人を探しておりますので、興味がある方はこちらのリンクをご覧いただき、説明会にご参加ください。

奈良市地域プロジェクトマネージャー採用説明会
11月10日(水)20:00-21:00
11月22日(月)20:00-21:00
11月27日(土)14:00-15:00
オンラインにて開催。お申し込みはこちら

※Next Commons Lab / Sustainable Innovation Labについてはこちらのウェブサイトをご覧下さい。


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