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北京ハーフマラソンでの出来事についての私見

先日の北京ハーフで、マラソン中国記録(2時間06分57秒)保持者の何傑選手が1時間03分44秒の記録で優勝したが、3名のペーサーがBreaking 2のような形でレースの最後まで先導したことが「八百長」などとして批判されている。

この動画を見た最初の感想は「なんともお粗末なフィニッシュシーンだな」と思った。

しかし、陸上長距離の世界ではルール上、ロードレースで女子選手に対して男子ペーサーが最初から最後まで先導することや、日本選手権10000mのようにオープン参加扱いのペーサーが最初からほぼ最後まで先導することが何の問題もなく「八百長」とみなされていないこともある。

ペーサーに関して、このスポーツには曖昧な点があり、特に記録会などで標準記録突破などのために、ペーサーが起用されているケースも多くある。今回の件はあくまで見た目上の問題と、中国の悪いイメージがかけ合わさったもの。「金でペーサーを起用するにももうちょっとうまくやれたんじゃないか」という印象で、ペーサーに対して主催者やマネジャーの詰めが甘かったという感じです。

今回は、北京ハーフというそれなりに大きい大会で、

  1. ペーサーが優勝争いに絡んでしまったこと(それは競技上で問題なければ珍しいことではない

  2. 競技全体における、特にフィニッシュシーンの露骨なアフリカ選手3人の「ペーサー感」

  3. この様子がよくわかる動画が拡散されたこと

  4. 中国に対し良くないイメージを持つ人々の集中砲火

が明らかになったと思う。


中国とアフリカの関係性

中国のロードレースは2010年代から飛躍的にその開催数を増やし、特に国際化という名の下、そこそこの賞金レースが増加。とはいえ、ラベルレース化していくなかで大陸ごとの多くの国の選手を招待するというよりかは、アフリカの選手(特にケニアとエチオピアの選手)を招待することが日常的となっていった。

中国という国は、日本から見れば悪いイメージだらけの国である。しかし、一方で中国はアフリカ諸国に対してインフラ投資を2000年代以降に急加速させており、アフリカのインフラ整備に大きく貢献している。

このような背景もあり、アフリカの人々は中国という国に対して良いイメージを持っている人が多いというデータがあり、中国とアフリカ諸国は友好的な関係性を築いているかもしれない。

最近は、特にケニア人選手のドーピング違反者が急増している。それはドーピングをする選手が増えているというよりかは、生体パスポートの導入やAIUの独立などでドーピング検査にかけられる予算が増えたことと関連して、ドーピング検査の精度が急激に高まっている良い兆候である。

中国でのロードレースは、かつてはドーピング検査が緩く「アフリカのドーパーによる金稼ぎの巣窟」としてチートを繰り返す選手やエージェントの標的となっていた歴史がある(ほとんどの人は知らないと思うが)。

このように中国とアフリカは友好的な関係性であり、特にロードレースにおいてアフリカの選手が中国人選手のペーサーを行うということ自体はごくごく自然な流れである。


中国メーカー間の熾烈な国内競争

中国のスポーツメーカー各社は2008年の北京五輪を経て巨大化していったが、ロードレースやランニングという市場が大きく拡大していったのは、ナイキのカーボンシューズが発売された以降やコロナ禍あたりからである。

私は中国の大手スポーツメーカーのマーケティングや開発担当者との今年における会話の中で「中国のランニングブーム」という表現をいくつも聞いた。

現在の中国では、日本がかつて東京マラソンの始まりと共にランニングブームとなっていた状況にある。そして、その市場規模は桁違いである。

中国企業のプロモーションやマーケティングは、その規模感からも時に斬新であるが、今回のペーサーのように露骨にその企みが露呈されてしまう場面も多い。

今回の北京ハーフで優勝した何傑選手や、アフリカの選手たちはXtep(特歩)のサポートを受けている選手である。

今回はそれらの選手がBreaking 2やアシックス、アディダスなども行っているような商品マーケティングのためのプライベートレースを、北京ハーフという舞台で行ってしまった、という印象である。

この背景には、先述した中国と友好的関係にあるアフリカの選手たちのサポート無しでは完結できないのだが、このようなことはどこのメーカーも似たようなことを行っていて、それがたまたま今回明らかになってしまったというわけだ。

マーケティング上のストーリーを描く人と、現場の統括マネジャーが噛み合ってない、という感じだったように思う。

残念に思うことは、中国に対して悪いイメージを持つ人がここぞとばかりに今回の件で集中砲火している点。

日本選手権10000mでも、ここまで露骨でないにしてもペーサーがほぼ最後まで引っ張る、という点では同じようなことが起こっているのだが、「さすが日本」という風にはならない。

これは、どこの国でもこのスポーツにおいてのルール上ではセーフのグレーゾーンという感じはするので、今後はルールを統一してほしい(例えば、公認競技会でペーサーは競技距離の75%までしか先導してはいけないとか、ペーサーに関するルール違反の場合は競技資格を一時的に失効するなど)。

ランニングだけでなく自転車でも競馬でもペーサーというのは存在するので、グレーなルールに関してはもうちょっと規則を明確にしてほしい、というのが今回の感想です。

(以下、4月20日追記)

北京ハーフの上位4名(何傑選手と3名のペーサー)の成績は取り消された。

インスタグラムで海外のエリート選手によるペーサーの見解をみかけた。特に日本ではテレビ放送の演出上、ペーサーはフィニッシュラインまでいくことが許されていないケースが大半だとコメントしていた。

確かに、大阪国際女子マラソンで男子ペーサーが導入された時、ペーサーは競技場の中には入らないように、という指示があったはず。ということで、日本ではペーサーがたとえ公式のペーサーでなくても、その遂行計画は綿密に実行され、フィニッシュシーンはテレビや新聞などで報じられる際に、違和感がないように運営されてきた。

今回の北京ハーフの失格は、さすがにやりすぎ、という声も多いようだが、主催者は世界中から批判を浴びたために火消しのために失格処分を下したのではないかといわれている。また、あまり報じられいなが今回の北京ハーフでは、このペーサー問題以外にも選手エントリーの取り消しでも一悶着あったので、大会運営がもっとよくなるように願いたい。

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