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コロナ時代の新しいロードレース、陸上競技会開催のかたち

コロナ渦の今現在、欧州ではサッカーリーグなどスポーツイベントの再開がみられるが、それでも無観客試合。こういった条件付きでないと開催できないということは、しばらくの間は避けられない状況である。

これから国内外のマラソン(ロードレース)や陸上の競技会はどうなっていくのだろうか。2020年5月20日現在でわかっている、陸上競技における競技再開に向けての世界中での取り組みを以下に紹介していく。

中規模・大規模ロードレース開催は依然厳しい

日本からも人気のあるゴールドコーストマラソン。今年は7月4日に開催予定だったが、主催者が5月20日に大会の中止を発表した。

また、ベルリンマラソンは9月開催を断念(延期になのか、完全に中止されるのか、縮小開催になるかは発表されていない)。

野外での開催とはいえ、参加者が1万人を超えるロードレースは、各国の政府や自治体が出しているコロナ関連のガイドラインに現時点では沿ったものではなく、やもなく開催できない形である。

日本では今後も第2波の襲来がいつ起こるかどうかもわからず、今後の先行きが不透明。9月以降の日本のマラソン大会(おもにロードレース)は5月20日時点ですでに62大会が中止を決定している(中止・延期大会リスト)。

その多くは自治体が主催者の大会。エントリーを始めてから中止を判断すると、返金の際の事務作業も大幅に増えるので、エントリー前に中止を決定している印象を受ける。

このようなことから個人やイベント会社が主催の大会とは違い、自治体が主催する大会は中止判断が速い傾向にある。そこにはもちろん、参加者の多さや大会の規模の大きさも関係しているが、中規模・大規模ロードレース開催を取り巻く状況は当面の間は厳しい状況にある。

感染防止の要はソーシャルディスタンス

野外での運動時のマスク着用の有無については議論が起きたが、同志社大スポーツ健康科学部の石井教授のYouTubeでの発信によると、ジョギング時、感染リスクの最重要はソーシャルディスタンスであるとされている。

オープンエアでは2mまで到達する前に多くのウイルスは乾燥して感染性を失う(アビガンの共同開発者:白木公康 富山大学名誉教授)

日本でのソーシャルディスタンスは、2m程度の距離をとることが推奨されているが、概ねコロナ渦でプチジョギングブーム。人が混雑しない時間帯や場所を選ぶという視点もソーシャルディスタンスといえるかもしれない。

ただ、ロードレースともなれば、参加者が同じ場所に集まることで競技が成立するので、どうやってランナー間のソーシャルディスタンスを確保するかということがポイントになってくる(実際の感染リスクがどうたらということよりも、政府や自治体のガイドラインに従うという前提で)。

そんな中、ノルウェーで5月20日の夜に小規模ロードレースが開催される。そこでヤコブ、ヘンリク・インゲブリクトセンが5kmロードレースのノルウェー記録(13分37秒)の更新に挑戦する(結果は後日ここに追記します)。

ノルウェーの現在のCOVID-19での死者数は欧米諸国の中では低く、ロックダウンの成果が出ている。その状況下でスポーツ活動が再開されていくが、小規模ロードレースであっても、やはり「どうやってランナー間のソーシャルディスタンスを確保するか」ということがポイントになってくる。

今回行われるノルウェーの小規模ロードレースでは、1度に参加者全員をスタートさせるのではなく、トラックの記録会のように5kmの部は8つの組に分けられている。そして、それぞれの組を最初の組の号砲から30秒間隔でスタートさせるウェーブスタート方式で行われる。

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(出典:Forus Perseløpより)

20:00に1組がスタートし、そこから30秒間隔で2組、3組とウェーブスタートしていく。また、スタートの整列はF1のスタートのように、前後左右1m間隔を開けるようにアスファルトの上に番号がふってあり、そこに整列する。

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(※4番と11番の間は省略されている 出典:Forus Perseløpより)

形式上、整列時にこのようになっているがレースの模様が実際にどうなるかどうかはわからないので、レースの模様もしっかりとチェックしてみたい。

こういった小規模ロードレースの開催にあたっては、世界中において試行錯誤の段階であり、ハッキリとした答えは出ていない。ただ、様々な選択肢の中からベストと思える判断を今後主催者がしていくうえで、こういったロードレースの取り組みを注視することは、とても重要なことだろう。


バーチャルロードレース

コロナ渦の現代において、新たな取り組みとして注目されているのがバーチャルレース。参加者数が大規模なものでいえば、4月15〜30日の期間で行われたNYRR Virtual 5Kが挙がる。

これはStravaのアカウントを持っているランナーが、この期間中に5kmを走り(場所はどこでもよい)、StravaにNYRR Virtual 5Kとひもづけた状態で5kmのログを載せればバーチャルレースに参加したこととなる。

このバーチャルランの参加者は18,686人で、12,348人が完走。

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(出典:NYRR Virtual 5K

女子1位のステファニー・ブルース、2位のディズリー・リンデンはそれぞれ今年の東京五輪マラソン全米選考会で6位、4位に入ったエリートランナー。

また、同大会で優勝して東京五輪全米代表に内定しているアリフィン・トゥリアムクもこのバーチャルランに参加した(男子ではサブテンランナーのスコット・ファーブルも参加した)。

このようなバーチャルランのプラットフォームとして機能しているStravaは、おもに欧米のユーザーが多く、またトライアスリートに人気のSNS。日本のランナーにはまだまだ広く浸透しているSNSとはいえないが(少なくともインスタグラムよりかは)、こういったバーチャルランのプラットフォームとなっていることには注目すべきである。

日本でも名古屋ウイメンズマラソンなどといった中止大会が、バーチャルランを行なっているが、そういった取り組みはまだまだ少数派。

そんな中、ニューヨークで6月21日開催予定だった1マイルレースのブルックリンマイルは、バーチャルレースとして大会を行うことを決めたが、そこには新しい取り組みが含まれている。バーチャルレースではあるものの上位者に賞金を贈呈するというものである。

今年は2,000人ほどのエントリーがあったブルックリンマイル。レースディレクターのロゼッティ氏は当初、大会を8月に延期するプランを持っていたが、それでも開催できなくなってしまった場合に返金する手間がかかることを恐れていた。

そこで、彼はアメリカの他の大会でもすでに行われていたバーチャルレースとして大会を行うことに決めたのである。ブルックリンマイルは昨年の男女優勝者がそれぞれ優勝賞金$1,000を獲得したが、今年のレースでは約2,000人の参加者が支払ったエントリー代$15の総額から20%(=約$6,000)が賞金に充てられる。

通常であれば、同じコースで走った選手の中で一番速い選手から順に多い賞金が与えられるが、このバーチャルレースではジャック・ダニエルズ博士によるVDOT O2ツールを使用して、成績上位者らが賞金を山分けする。

ここでのポイントは年齢ごとにスコアが異なるVDOT O2ツールを使用することによって、人と競うのではなく、自分の年齢に応じて高スコアを目指して自分と競うことにある。

ルールは以下
・1マイル走を実施する場所の交通ルールに従えば、場所はどこでもOK
・コースの1%以上の標高差があってはいけない=1,609mの1%(1,609mのコースで16m以上の下りまたは上りのコースはNG)
・GPS時計で1マイル走を計測し、VDOT O2のプラットフォームにガーミンかStravaを経由して同期する(Stravaはガーミン以外のGPS時計でもOK)

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(出典:VDOT O2.comより)

このバーチャルレースの参加者は上の1マイル走のスコアで、レベル8、9、10のスコアを出すと賞金が贈与される(山分け)。例えば22歳の男子選手の場合は4:20、49歳の女子選手だと5:34といった感じで、賞金を狙いたい選手は自分の年齢のスコアを目標に走ればよい。

このバーチャルレースの大会運営には人件費・物品、食材費といった費用がほとんどかからないことから、エントリー代の総額の20%($6,000)が賞金に充てられ、80%($24,000)がCOVID-19の最前線で働く医療従事者に寄付されるというモデルとなっている。

もちろん、このモデルを使用し、上位者に賞金を贈与しつつも主催者が営利を求めないのであれば、社会的に意義ある活動となる。また、他の大会が同じようなモデルを採用し、その大会の参加者が多ければ多いほど、エントリー代の総額が増え、賞金のプールは大きく膨れ上がり、寄付額も多くなる。

エントリー代の使用目的がハッキリしており、透明性が高い。また、人と競うのではなく、年齢に応じて自分と競うというポイントが新しい。

既存のロードレースがこのようにバーチャルレースとして新しい大会のかたちを模索しているが、このモデルが今後発展していけば世界中で同じような公式かつ賞金ありのチャリティバーチャルレースが普及するかもしれない。


タイムトライアルが持つ意味

タイムトライアル(以下、T.T)は陸上中長距離の名指導者のアーサー・リディアードが半世紀以上前から重要視していた練習法であるが、コロナ渦にあってはまた別の意味を持つ。

ここでいう競技会はロードレース以外のトラックレースのことを指していると思われる(そうでなかったら福田さんスミマセン...)。この秋までに、少なくとも7月までには大会がないので、今はT.Tをしているというランナーも多いのではないだろうか(上記のバーチャルランも含めて)。

そんな中で、同じく多くの大会が中止になっているアメリカでは高校生やプロ選手の間でT.Tを動画に収めるという試みが行われており、その中でもインスタグラムでのライブ配信や、それに伴って医療従事者への寄付を募るというものもある。

5月7日にはプロランナーのドリュー・ハンターが2マイルT.Tを行い、同時に医療従事者への寄付を募った。彼は昨年のドーハ世界選手権男子5000mの全米代表の出場権を持っていたが、故障によりその権利を放棄。今回、実家のあるヴァージニア州で家族に見守られ、10ヶ月ぶりの復帰戦を走り終えた。

ハンターがこのT.Tで得たものは、良い記録よりも「痛みなく走れることがどれほど幸せであるかを感じられた」ことだった。

高校生のトップ選手でもこういったT.Tで好記録に挑戦する選手が現れ、その様子は地元のメディアでも報じられた。大会がないながらも、好記録に挑むことで、公認記録にはならないものの、現時点でどれだけの競技力があるかをアピールするにはとても良い機会である。

5月19日にはアメリカの高校生のBrynn Brownが3200mT.Tを9:39.67で走った。これは、女子3200mのパフォーマンスとしては全米高校歴代2位に相当(3000m8:59に相当)する好記録であった。

こうやってT.Tの映像に残しておくことでその選手の価値を高めること、そしてその選手の自信に繋がることはとても重要なことである。


無観客試合と投げ銭システム

再開されたブンデスリーガの無観客試合については冒頭でも触れたが、陸上競技会やロードレースが再開されるにあたり無観客試合という前提は、COVID-19のワクチンが普及するまでは避けて通れないことかもしれない。

そんな最中で陸上競技の最高峰リーグであるダイアモンドリーグは、COVID-19の影響で延期された新しい大会スケジュールを発表した。

これらすべてが無観客大会なのかは現時点では不明である(パリ大会は仮決定、ユージン大会は10月4日の使用許可が抑えられてないと報道された)。

ラバト大会、ロンドン大会、そして最終戦として最高の賞金額が設定されていたチューリヒ大会は中止になってしまったが、ここに記載のないオスロ大会は独自の運営方針で開催。北欧最大級の競技会として有名なオスロのビスレットゲームズは、今年はインポッシブルゲームズと大会名称を変更して、無観客での縮小開催を計画。

毎年、北米やアフリカ、オセアニア、アジアといった大陸を越えてビスレットゲームズに参加する選手もいるが、今年は自国ノルウェーのトップ選手や地理的に近い欧州の選手たちを中心とした競技に舵を切った。

そこには自国のスター選手、K. ワルホルムによる300mHの世界最高記録の挑戦やインゲブリクトセン兄弟による2000m以上のレース(まだ詳細未決定)、女子3000mのノルウェー記録への挑戦、男子棒高跳びの好記録への挑戦と名カードが多いが、もちろんエキシビジョン的な要素もある。

このようになんとか無観客での縮小開催ながらも、そこに話題性をどのようにして持たせるかは主催者が頭を悩ませるところである。

先日報道されたJリーグへの投げ銭システムの導入(まだ本決定ではないにしても)といった要素をもし大きな陸上競技会に落とし込むことができれば、今後開催が予想される無観客の陸上競技会にとって大きな変革になるかもしれないし、そのライブ配信は需要がさらに増えるだろう。

もちろん、選手のパフォーマンスに拍手を送りたい人は、投げ銭をするかもしれないし、クラブのDJイベントやキャバ嬢が投げ銭で超高額(億レベル)を稼ぐ現実を見ると、とても可能性のある収益モデルであると感じる。

もちろん、投げ銭の使い道を明記してその透明性をハッキリさせることが大切である。

クラウドファンディングではあったが、2019年に福井で行われたアスリートナイトゲームズ in 福井 - FUKUI 9.98CUP(素晴らしい大会だった)の大会運営費の一部が、そうやって集められたことを我々は忘れてはいけない。

ソーシャルディスタンスを確保しながらのロードレース開催、バーチャルレース、タイムトライアル、そして無観客大会や投げ銭。

ピンチは新たなチャンスである。

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