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知っていて損はない!魚の感染対策・食中毒予防の話

魚の低温調理を行うに当たり「どうすれば食中毒リスクを下げられるか?」が気になったので調べました。ただ、調理法と同様に肉と比べて情報が非常に少ない状況である事を実感しました。

しかし、密閉・低温状態である真空低温調理は、細菌の繁殖を活発化させる可能性がある調理法です。よって、魚における感染対策・食中毒予防に関する情報をまとめ、低温調理に活かしたいと考えました。

僕自身がこのような記事を踏まえて調理すれば、レシピを見て頂いた方にご安心頂けるかなと言う思いです。低温調理を行う方だけでなく、魚料理が好きな方のご参考にもなるよう執筆いたしました。

なお、今回調べてみて分かった事は、ネットで閲覧数の多い記事でも間違った情報を含んでいる事です。よって、僕は公的機関の情報を参考にしました(参考にした文献の出典情報は明記しています)。

最初に結論を申し上げると、魚介類は「予防に勝る治療なし」だと感じました。適切な下ごしらえと清潔な調理環境でリスクを下げる事が出来ます。そして、肉類や加工食品に比べると重篤な症状を発症する食中毒は限られてきます。生食可能な魚介類であれば、低温調理を行っても、肉類よりも低リスクだと判断します。【生肉丼】は今日びムリですが、【海鮮丼】が成り立つ事が、その証左ですね。それでは、詳しいご説明に入らせて頂きます。

魚を調理する上で押さえておきたい3大前提

3大前提
1. 下ごしらえの際に魚を除菌する事を心がけ(魚の表面やエラ周りを水で洗い流す)、素早くさばく
2. 厨房での二次汚染を防ぐ(手指洗浄の徹底、魚介類と他の食材でまな板や包丁を使い分ける)
3. 決して室温で保管しない(短時間であっても、4℃以下の冷蔵庫で保存する)

文字情報で書くと当たり前のことばかりですが、ドキッとされる方もいらっしゃるのではないでしょうか?後述する食中毒の情報を確認されると、更にドキッとするかと思います(笑)

料理をする者としては1が最も重要で、技術が活きる場面かと思います。逆に言うと、技術を活かせばリスクを格段に下げられます!


食中毒予防を意識した魚の捌き方は、こちらの通りです。
・魚は頭か尾を持ち、なるべく腹をつかまない(体温で劣化するため)
・水道水で魚のエラや表面をよく洗って菌を洗い流す
・ウロコ、エラ、ワタ(内臓)を取り除き、よく洗う
・保管については、容器に魚から出る水分が溜まらないようにする
・ラップや専用の保存シートなどで密閉し、冷蔵庫で保存する
(ちょっと宣伝になってしまいますが、拙ブログに保存シートを始めとする魚さばきグッズのまとめを作成しています)

大前提を押さえた上で、次項では魚の食中毒の話に移ります。

魚介類で注意すべき食品病原菌、中毒、寄生虫

一般的に、真空低温調理において注意すべき病原菌は3つと言われています。すなわち、サルモネラ菌、大腸菌、リステリア菌です。
しかし、魚介類の場合はこれらとは異なります。気にするべき病原菌・ウイルスは2つで、腸炎ビブリオとノロウイルス。そして、化学物質による食中毒であるヒスタミン。最後に、3種類の寄生虫となります。つまり、計6種類です。順にご説明してまいります。

腸炎ビブリオ
媒介:栄養分の高い汽水域(淡水と海水が混合する水域)や近海の海水や海泥に住む魚介類
特徴:室温でも速やかに増殖する、塩分を好み塩分3%前後で増殖する
弱点:真水や酸に弱い、上記3大前提によりリスク低減が可能
備考:海水温が低い冬季の魚介類は非常に低リスクとされる(夏季に多い)
殺菌温度と時間:53℃以上で72秒~210秒
出典:内閣府食品安全委員会の資料より
【潜伏期間と症状】
潜伏期間 :6~24時間
症状:腹痛、水様下痢、発熱、嘔吐

ノロウイルス
媒介:牡蠣(カキ)を含む二枚貝
特徴:牡蠣本体のみならずノロウイルスに感染した料理人を介した感染事例も多数存在する
弱点:加熱
備考:牡蠣の旬である冬季がハイリスク
殺菌温度と時間:85℃で60秒以上
※75℃以上1分間以上と言う情報もあるが、これは大腸菌についての情報
出典:厚生労働省の資料 
【潜伏期間と症状】
潜伏期間 :24~48時間
症状:吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
ちなみに、牡蠣以外の検出率ランキングについては、下記の通りです(東京都食品衛生調査事業2011)。
① シジミ 18.4%
② タイラ貝 16.7%
③ ホタテ 13.8%
④ カキ 10.5%
⑤ ナミ貝 10.0%
⑥ ムール貝 5.9%
⑦ アカ貝 5.7%
⑧ ホッキ貝 4.2%
意外にも牡蠣は4位!

ヒスタミン
媒介:赤身魚(マグロ・サンマ・サバ・イワシなど)
特徴:赤身魚で生成される化学物質による食中毒
弱点:無し(予防するしかない)
備考:以下が予防策となる
赤身魚は特に常温で放置しない
・冷蔵でも長期間の保管は避ける
・冷凍物を解凍する時は冷蔵庫で行う
出典:東京都福祉保健局の資料
【潜伏期間と症状】
潜伏期間:1時間
症状:顔面が赤くなる、蕁麻疹、頭痛、嘔吐、下痢、重症の場合は呼吸困難や意識不明(死には至らない)

アニサキス
媒介:サバ、アジ、イワシ、サンマ、タラ、イカなど
特徴:魚介類の内臓に寄生する線虫により引き起こされる
弱点:加熱もしくは冷凍
備考:塩や酢では死滅しない、以下が予防方法となる
・新鮮なものを選ぶ(鮮度が落ちると内臓から身に移動する習性を持つ)
捌く際に内臓を傷つけず素早く取り除く、まな板に放置しない
・魚の内臓を食べない
目視で確認する(アニサキスは目視できるサイズ)
・ブラックライト(波長365nm)で照らす
殺菌温度と時間:60℃で60秒加熱または70℃以上で加熱、マイナス20℃で24時間以上冷凍
出典:国立感染症研究所の資料
【潜伏期間と症状】
潜伏期間:数時間~48時間
症状:心窩部(みぞおち)痛、上腹部痛、蕁麻疹,アナフィラキシーショック、腸閉塞

ちなみに、ブラックライトは下記のものを使用しています(安くて高性能です)。

旋尾線虫(せんびせんちゅう)
媒介:ホタルイカ、スルメイカ、ハタハタ、タラ、アンコウなど
特徴:ホタルイカの消化管に寄生する旋尾線虫により引き起こされる
弱点:加熱もしくは冷凍
備考:漁解禁の3月~8月に多発する、踊り食い(生食)が主な原因
殺菌温度と時間:中心温度60℃以上で加熱もしくは100℃で30秒以上加熱、マイナス30℃で4日間以上冷凍もしくはマイナス40 ℃で40分以上冷凍
出典:国立感染症研究所の資料
【潜伏期間と症状】
潜伏期間:数時間~48時間、皮膚症状は摂食後2 週間前後
症状:腹痛、嘔吐、腸閉塞などの急性腹症や皮膚の線状の爬行疹

クドア・セプテンプンクタータ(通称クドア)
媒介:ヒラメ
特徴:ヒラメの筋肉に寄生する粘液胞子虫により引き起こされる
弱点:加熱もしくは冷凍
備考:9月~10月に多発傾向あり
殺菌温度と時間:中心温度75℃で5分間以上加熱、マイナス20℃で4時間以上冷凍
出典:農林水産省の資料
【潜伏期間と症状】
潜伏期間:2時間~20時間
症状:嘔吐、下痢など軽症

以上で魚介類に関する食中毒のご説明を終わります。…が、ご参考までに他の食材に関する食中毒(特に注意すべきもの)についても簡潔に記載致します。

サルモネラ
媒介:鶏肉、鶏卵とその加工品、レバー、ウナギ、スッポン
殺菌温度と時間:65℃で30秒〜90秒の加熱
出典:内閣府食品安全委員会、食品を科学する連続講座(2014年7月3日)

O-157(腸管出血性大腸菌)、ほか病原性大腸菌
媒介:加工食品、生野菜、井戸水
殺菌温度と時間:65℃で8.4秒の加熱
出典:内閣府食品安全委員会、食品を科学する連続講座(2014年7月3日)

リステリア属菌
媒介:加工食品,生乳製品
殺菌温度と時間:50℃で数時間、60℃で5~10分、70℃で10秒の加熱
出典:厚生労働省の資料

ボツリヌス菌
媒介:缶詰、瓶詰、真空パック食品、発酵食品
殺菌温度と時間:121℃で3.1秒〜13.8秒の加熱
出典:内閣府食品安全委員会、食品を科学する連続講座(2014年7月3日)

リスクを考えた魚の低温調理に対するまとめ

細かく考えすぎると料理が出来なくなる、と言うのも一つの結論です。故に、冒頭に記載した通り、衛生管理を行えば魚の低温調理は低リスクで行えると感じます。

また、一般的に忌避されるアニサキスや旋尾線虫などの寄生虫による食中毒も正しい知識があれば十分に予防が可能です。

医師の友人から聞いた話ですが、大学の微生物学の講座で延々とサバをさばかされ、数10匹のサバの内臓を見聞したところ、アニサキスがいないサバはゼロだったそうです。

サバをさばく時はアニサキスがいる前提で開腹、内臓の除去を行う必要があります。このあたりの知識・意識・技術が無い居酒屋が、犠牲者を出してしまうのだと思います。僕も、スーパーの魚コーナーで切り身にアニサキスを見つけた事が何回かあります。

そして、低温調理器のマニュアルにも記載されていますが、調理後の処置も重要です。低温調理を終えた食材は必ず90分以内に食すようにして、もしも残った場合には冷蔵庫4℃以下で3日以内の保存を心がける必要があります。保存するにしてもパウチから保存容器に移す必要があります。

なお、これもマニュアルに記載されている事ですが、真空パウチが未開封の状態で膨張している場合、最近の増殖に伴うガスの発生が疑われます。よって、どんなに高価な食材を用いたとしても、絶対に食さないようにしましょう。

これらは低温調理器を使用せず、鍋で「低温調理風の調理」を行っている方は知るきっかけがないので、特記させて頂きます。低温調理はアートでありサイエンスです。従来の料理のようにアートのみに走らず、サイエンスも押さえて、楽しく作りましょう!


また、低温調理器を持っていないけど低温調理に関心のあると言う方は、下記のブログ記事をご参照ください。

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