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海洋プラスチック汚染の原因と種類の割合について分かりやすく解説します

「これまで生産されたプラスチックは,そのほとんどが何らかの形で今も地球上にある」とか、「プラスチックごみでリサイクルされない残りは、この地球上のどこかに行き着き、疫病のように大地や海を覆う」といったようなセンセーショナルなメッセージが発信されています。これはこれで決して嘘ではないですが、私たちが日々買っている食品包材がすぐに海に流れて永遠にさまよい続ける訳ではありません。

海洋にプラスチックが流れると生態系に影響があることは「脱プラスチックで一番初めに知って欲しいこと「プラスチックごみが海に流れつくとどうなるか」」で書きましたが、では海をさまよっているプラスチックはどこから来るのでしょうか?

正しく知って、正しく恐れることが大事だと思いますので、どのようなプラスチックが海を漂っているのか科学的に考えられていることをまとめました。

地球規模での海洋プラスチック汚染の状況(推計)

Jenna R. Jambeck 1)らの推計
海洋プラスチック汚染の原因を地球規模で予想した最も有名なものとしてはJenna R. Jambeck 1)らの推計があります。この推計によると①毎年1人当たりのごみの量、②プラスチックごみの割合、③管理不十分で海洋プラスチック汚染になりえる割合、加えて海から50km以内に住む人口で海洋プラスチック汚染の原因となりえるプラスチックの排出量から、海洋プラスチック汚染の規模が国別に推計されています。

1位  中国 132~353万 t / 年
2位 インドネシア 48~129万 t / 年
3位 フィリピン  28~75万 t / 年
4位 ベトナム 28~73万 t / 年
5位 スリランカ  24~64万 t / 年
6位 タイ 15~41万t / 年
7位 エジプト 15~39万t / 年
8位 マレーシア  14~37万t / 年
9位 ナイジェリア  13~34万t / 年
10位  バングラデシュ  12~31万t / 年

・・・

30位 日本 2~6万t / 年

日本に住んでいると考えられないのですが、発展途上国では経済発展にごみ処理場の建設が追い付いておらず未処理で積み上げられたりしております。こういった処分場は投棄積み上げ (Open Dumps)と言い、低湿地など利用価値の低い土地に、ごみの山を積みあげています。これらのごみ処分場からは有害物質が地下水に流れ込む、発酵・反応熱による自然発火、衛生状態の悪化が起きるなどが指摘されています。

中国や発展途上国ではごみ処分場の建設を急ピッチで進めていますが、急速な経済発展に処分場の建設が追い付いておらず、かなりの量(中国のプラスチックごみで76%1))が未処理で積み上げられたりする不適切な管理がされていると推定されています。

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※これはイメージです。

Jenna R. Jambeck らはこれら未処分のゴミが海洋プラスチック汚染の主因と考えて、この量を推計しました。この推計は本文中で彼ら自ら指摘しているように、海洋を浮遊していると推定されるごみの量よりも1~3桁多い結果となっている、漁具やロープなどの海で発生するプラスチックごみを含んでいない、などの問題があります。漁具やロープは後述の通りとても大きな海洋プラスチック汚染の原因物質です。

ただし、彼らの議論の大筋として「グローバルレベルで見た場合、海洋プラスチック汚染は発展途上国のごみ処理場の問題が大きい」というのは他の研究者にも支持されています。また、この推計は英語版のwikipediaに採用されている他、様々な国や機関の資料にも採用されており、大きな政策や方針の根拠となっております。私も個人的には数字はともかく、大きな傾向としては正しいと考えております。

一方で、日本近海の状況を考えると、もう少し状況が異なってきます。

日本近海の漂着ゴミ

日本の漂着ゴミの内訳

環境庁は漂着ゴミの調査をしております。漂着ゴミの内容は場所によって大幅に変わりますのであくまでご参考程度ではあるのですが、「プラスチックを取り巻く国内外の状況2)」という資料の中で(78ページ)以下のような表を掲載しております。

漂着ゴミ

これを見ると日本近海の海洋ゴミで最も多いのは漁具やブイなどの漁業と船舶海運関連のゴミとなっております。日本の場合、陸で発生したプラスチックごみはほとんどが、焼却やリサイクルに回りますし、漏れてしまったプラスチックも河川経由では浄水場等のろ過設備がたくさんあります。一方、漁具や船舶のロープは一度流出してしまうと、止める設備はなく海にプラスチックが放出されてしまいます。このため、日本の全プラスチック使用の0.3%程度の漁具・ロープが重量ベースでは漂着ゴミ重量一位となっています。

次に多いのが飲料ボトル、その他ボトル、容器、袋、カトラリーとものすごく大雑把にまとめると食品関連となります。

漂着ゴミの出どころ
一方、生産量ベースで0.3%の漁具が漂着ゴミの重量一位であることから、(ペットボトルなど)他のプラスチックは本当に生産された量と比較するとごくわずかしか流れていない(多くて0.5%程度でしょうか)と推定されます。

「プラスチックごみはたった25%しかリサイクルされていません。脱プラスチックのために知っておきたいリサイクルの実情。」で書きましたが、プラスチックごみの行き先は以下の通りです。

マテリアルリサイクル 23%
ケミカルリサイクル 4%
サーマルリサイクル 56%
未利用(熱利用なしの焼却や埋立て) 16%

ここで注意して欲しいのは未利用の16%が全て海に流れる訳ではありません。むしろ16%の殆どが管理されており、燃やされたり、流出しない形で埋立てられます。このため、海に流れ出ているのは、ポイ捨て、移送の際の落下、洪水の際の流出などごくわずかなケースで、その割合は上記の通り生産量と比較すると1%もないと推定されます。

ただし、これはプラスチックの使用を増やしていいとか、継続していいとかいう訳ではありません。「人類のプラスチックの使用は2100年までピークが来ない」すなわち、「2100年までプラスチック使用は増え続ける」と予想されています。使い捨て文化も持続可能な経済ではありません。プラスチックの殆どが一度使っただけでリサイクルされずに捨てられます。この文化は改める必要があります。また、私たちがプラスチックを使う限り、どんなに管理しても、割合は少ないかも知れませんが海洋への流出は起こります。


日本の漂着ゴミの出身国

日本の漂着ゴミの出身国について環境庁のデータに興味深いものがあります。「平成29年度海洋ごみ調査の結果について3)」にペットボトルの出身国についてのデータが公開されております。

漂着ゴミ国別

これを見ると中国の影響は大きいと思いますが、それでも日本近海では日本のゴミが漂着していることがわかります。Jenna R. Jambeck 1)らの推計から中国にだけ責任を押し付けるのではなく、我々から出るプラスチックごみを減らしていく必要があると思います。

日本での海洋プラスチック汚染を減らすには

現実的に海を漂うプラスチックが、ポイ捨てされたものなのか、廃棄システムに不備があって流出したものなのか、洪水で流されたものなのかの追跡は非常に困難です。しかし、Jenna R. Jambeck 1)らの説に従えば海洋プラスチックごみ=プラスチックごみの量×不適切な管理になります。

プラスチックごみを減らす。ポイ捨て、環境流出等の不適切な管理を減す、ごみ拾いをする等で海洋プラスチック汚染は確実に減るります。

まとめ

地球規模ではごみ処理が不完全な発展途上国から海に大量のプラスチックが流れ込んでいると推定されている。日本では通常のごみ処理ではプラスチックが海洋に流出しないとされており、生産量の1%も海洋に流出していないと推定される。漂着ゴミは漁具やペットボトル等日本製と推定されるものが多い。対策としてはプラスチックのゴミを減らすこと、ポイ捨て等の環境流出を減らすことが挙げられます。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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1)Jambeck, Jenna R.; Geyer, Roland; Wilcox, Chris; et al. (2015). "Plastic waste inputs from land into the ocean" Science. 347 (6223): 768–71.

2)プラスチックを取り巻く国内外の状況
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf

3)平成29年度海洋ごみ調査の結果について
https://www.env.go.jp/press/H29%20MarineLitterSurveyResults_1.pdf


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