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本:『セルフビルドの世界』、徹底的に自分が楽しむことを優先して生まれるもの。

職場のビルで清掃してくれるおばちゃんとよく話す。新型ウィルス禍で、都内にオフィスはいらないと、他の階に入っていた会社は引っ越しているという。「仕事時間が短くなってお給金が減っちゃう」と嘆いていた。が、かと思えば、早めに帰ってやることがないから横になってると、腹の上で飼い猫がオシッコする話を楽しそうにしはじめていた。切り替えが大事である。
さて、本日は本。

■ 『セルフビルドの世界:家やまちは自分で作る』(ちくま文庫)
作 者 石山修武・中里和人
発行所 筑摩書房
発 行 2017年
状 態 通しで1回読んだ

サブカルチャーなり、カウンタカルチャーなり、時代によって呼び方はいろいろあるけど、既存の権威・専門的なものとはまた別な感覚でやってこうぜ、という文化において、わたしがもっとも大切だとおもう精神は、「自分で好きなようにやってる」のドゥ・イット・ユアセルフ、DIYということである。

この分野、人によっては、保守的な価値観に異議を申し立てることだったり、エログロだったり、とがった表現を重視している。もちろん、それのどれもイイし、表現として重なり合ってるけれど、わたしは、DIYの精神をつよく感じさせる表現に惹かれる。

たとえば、音楽でいえば、ローファイな宅録・ヒップホップ・弾き語り。美術だと、グラフィティ・アートやアウトサイダーアート。紙とペンだけではじめられるマンガもそもそも表現がDIY的で好きだ。なんというか、とにかく自分の世界を黙々と作り上げている人に共感をしているのかもしれない。ウケるウケないのまえに、徹底的に自分が楽しむことを優先し、気負うことなく作業を続け、「はい、こうなりました、これで完成」というふうな作品には、独特な存在感がやどることがある。

本書は、持ち主がみずから建てちゃったもの(=セルフビルド)を紹介する一冊。建築家の磯崎新の隠れ家から、山梨県のトタンでつくられた奇妙なバー、隅田川のブルーシートでできた家、インドのマザーテレサの家、カンボジアのトンレサップ湖に浮いている家……。おのおの建物は、日本の不動産屋で売ってるマンションや一軒家とはまったくちがう。全体が「それなり」まとまるということがない。セルフビルドは、こだわりの部分部分があつまってできている。なので、色や素材がガタガタだし、まだ作り直しているところもあったりするわけだけど、世界でどこを探してもない、唯一無二の存在感を放っている。わたしとしては、こういうのもDIYを感じる表現として、建物の写真をみてわくわくする。

いまは、SNSで自分の表現を手軽に発信できる時代で、DIY的な作品をみることができるようになった。そこで、こんなすごい人いたんだ!と驚くこともある。だけど、「ウケそう」だからやったというのがみえるものもけっこうある。もちろん、そういう仕組みだし、そのモチベーションも否定すべきことじゃないけれど。だけど……

この本は、00年代前半に『スタジオボイス』と『Memo 男の部屋』で連載していた記事がもとになっている。このころ、都築響一 「珍日本紀行」(これは『SPA!』だったか)などいくつか雑誌の連載でDIYの表現を紹介するものがあった気がする。いま考えると、雑誌って「自分で好きなようにやってる」人を取材で見つけてきて地面を割いて紹介してたんだなあ。現在は、雑誌はどんどん休刊していて、もう元気がないけど。それ系の人は、SNSで自分をアピールする、ということをしそうにない人な気がするので、かえって、この本で取り上げているセルフビルダーたちのような存在って見えなくなっているのかもしれない。

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