【小説】命がけのババ抜き
夢の中で、私は誰かとババ抜きをしていた。しかし、それは単なる遊びではなかった。ルールはシンプルだが、結果は恐ろしく、命がけのゲームだった。
手持ちのカードをすべて無くした者から目を覚ますことができ、最後にカードを持ち続ける者は、永遠に夢の中に閉じ込められる。
夢の中の部屋は薄暗く、どこからか漂う不気味な雰囲気が漂っていた。テーブルの周りには、見知らぬ人々が数人座っていた。
誰もが緊張した表情を浮かべ、心の奥底で恐怖と戦っているのが分かった。私も例外ではなく、心臓が早鐘のように打ち鳴っていた。
「始めようか。」
誰かが呟いた声に反応して、全員が静かに頷いた。ディーラー役の女性がカードをシャッフルし、各自に配り始めた。
カードが配られるたびに、緊張感が部屋中に満ちていった。私は手元のカードを見下ろし、どのカードを持っているか確認した。
ジョーカーがあるかどうか、慎重に見たが、幸運にも持っていなかった。
ゲームが始まった。最初の一巡目、誰もが慎重にカードを引き合った。緊張感がピークに達し、誰もが息を殺してカードを引く音だけが響いていた。
私は隣の人からカードを引き、その次は別の人から引かれた。ゲームは進行し、徐々にカードが減っていった。
時間が経つにつれ、一人、また一人とカードを無くし、目を覚ましていった。彼らの表情には安堵と喜びが浮かんでいた。
だが、私の心は重くなっていく。まだカードが手元に残っている以上、私の戦いは終わらない。
ついに、私ともう一人だけが残った。相手は中年の男で、顔には疲労と焦りの色が濃かった。彼の手にはジョーカーがあることが見て取れた。
彼の視線が私の手元に注がれ、私は震える手でカードを差し出した。
男の手が私のカードを掴み、引いた瞬間、彼の顔が絶望に染まった。彼が引いたのはジョーカーではなく、最後のカードだったのだ。
私は安堵のため息をつき、カードを手放した。男は静かに、しかし確実に消えていった。
目を覚ました私は、冷や汗をかいてベッドの上に座っていた。夢の中の恐怖が現実のように感じられ、心臓の鼓動がまだ激しく響いていた。
あの男はどうなったのだろうか?永遠に目を覚まさないまま、夢の中に囚われ続けるのだろうか?
私は立ち上がり、窓の外を見ると、夜明けの光が差し込んできていた。新しい一日が始まるというのに、心には重い影が残っていた。
命がけのババ抜き、夢の中での恐ろしい体験を忘れることはできなかった。
あの日以来、私はババ抜きをすることが怖くなった。単なる遊びに過ぎないはずのカードゲームが、私にとっては命を賭けた戦いの象徴となってしまったからだ。
だが、どこかで再び夢の中に引き込まれることを恐れながらも、私は日常を取り戻す努力を続けていた。
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