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【小説】水死体がうち揚がる砂浜と弔い(1033文字)

 この砂浜はよく真っ白い体をした水死体が揚がるのだ。 なかには白骨化している死体もある。
 にもかかわらず、ここら辺に住む人は死体が砂浜に上がっても誰も近付こうとはしない。
 周りの人は「絶対に死体に近づくな」と自分に言ってくる。何でも死体から、ウイルスが放たれているとかで危ないらしいと言っていた。
 なかにはそのウイルスで死んでしまった人もいるんだとか…。周辺住民が砂浜に近付くとすれば、死体と一緒に打ち上がった財宝とか金目のもの目当てだけだ。
 それだけ取って後はどこかへ消えてしまう。中には、砂浜で拾った財宝だけで億万長者になった人もいるらしい。
 その証拠に、この砂浜の周辺は立派な豪邸がたくさん建てられている。みんな血眼になって財宝を取りに来る訳だ。けれども砂浜の水死体は無視だ。

 この水死体達は、おそらく海の向こうから来た人達なのだろう。そして綺麗で澄み切った海の向こうには一体何があるのだろうか?
 こんなに多くの人が死体となって打ち上がるということはこの人達が向こうから、命からがら逃げたくなる理由があるのかもしれない。
 きっととんでもない恐ろしい何かが…。でもそんなことは自分が知る由もない。
 ちなみに海の向こうからやってきて無事にこの砂浜にたどり着いたという人を今までに見たことがないし知らない。
 毎回流れてくる船もどこかしら壊れている。なので未だにこの砂浜に多くの水死体が流れ着いてくる理由が解明できずにいる。
 自分は水死体となった人達をそのまま野晒しにしたままなのは可哀想だと思うので、自分1人がいつも水死体を弔うことにしている。
 一応、周辺住民が言っていた死体からウイルスを放っているというのも本当なのかもしれないので、水死体はその場ですぐに燃やしてしまうことにしている。
 自分がウイルスにかかって、死んでしまったらこの人達を弔う人が誰もいなくなってしまうからだ。

 骨になったらすぐに集めて、近くの寺に骨を納めてもらう。こんな生活を毎日やっている。
 当然何回もこの生活をやめようと思ったことはあるし、食事が喉を通らない日だってある。
 けれども、この役目は多分誰かが必ずやらないといけないことだと思う。だから自分がやらないといけないのだ。
 はっきり言って自分が水死体を見ない日はない。毎日流れ着いてくるからだ。
 自分のやっているこの行為にどこからもお金は出ないけど、自分は死ぬその日まで延々と水死体を弔うのだ。
 それが自分の全うするべき役目なのだから。

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